バンドのメンバー

 放課後になって、さっそく。


「一緒に文化祭の有志バンドやらない?」


 と、爽子と一緒に友達とか知り合いの子に声をかけて回った。部活で時間が取れなさそうな子は外してある。

 女の子に声をかけてたんだけど、色よい返事がもらえない。まああとひと月くらいしかない文化祭に向けて、今から一緒にバンドやろうなんて言っても頷き辛いのはわかる。私だってもしギターとかできなかったら爽子の提案に絶対乗ってなかった。むしろ爽子はよくやろうと思ったな。その姿勢はある意味尊敬する。


「やっぱりみんなやってくれないね」

「そりゃそうでしょ。ドラムができるならともかく、できないのにうなずいてくれるわけないじゃん」

「ですよねー」


 そう言って項垂れる爽子。

 やっぱりそうそうドラムできる子なんて見つからないよね。

 この学校にも軽音部はあるけど、軽音部は軽音部でバンド組んで文化祭出るし。第一この学校の軽音部に知り合いなんていないしなぁ。


「んー……どうする爽子? 今日はいったん諦める?」

「そだねー。今日はもう帰ろっか」

「そうしよっか」


 教室に戻って帰り支度をする。もうすぐで下校時刻になる教室にはもう誰も残っていなかった。


「はぁー……なかなかいないもんだね」


 ため息をつきながら爽子がそう漏らす。本気で残念そうだ。私もメンバーが見つからないのは残念だと思うけど、メンバーが見つからない以外にも問題があるというか。


「爽子ベースやるって言ってたけど、ベースどうするの?」

「ん? どういう意味?」

「楽器どうするのって意味。持ってないでしょ? ベース」

「学校から借りようかなーって思ってたんだけど……ダメかな?」

「学校のは軽音部が使うんじゃないかなぁ。聞いてみないとわかんないけど」

「ちなみに楓ベース持ってたりする?」

「うちにはギターしかない。エレキとアコギならあるけどベースはね……」


 爽子の楽器どうしようか、という問題。

 新しく買うにしても楽器の値段っていうのは結構高いのだ。ピンからキリまであるけど、万は超えるだろう。文化祭のためだけに万を出すのは高校生には結構厳しい。

 昇降口まで来て靴を履き替える。外に出るとむわっとした夏の空気が襲ってきた。

 九月になったけど、まだまだ暑い日が続いている。


「あつー」

「あついねー」


 本当に暑い。残暑厳しすぎない?

 ジワリと汗をかきながらも自転車置き場に向かって歩く。


「恵理ちゃん、はいこれ。落としてたよ?」

「あ、理央君。ありがとー!」


 自転車置き場の前でそんな会話をしている男女が目に入った。理央君と知らない女の子だ。

 なんか昨日今日と理央君とよく会うなぁ。今までこんなにしょっちゅう会うことなんてなかったような気がするけど。

 女の子が理央君に手を振って離れていったところで、理央君に声をかける。近くを通り過ぎるのに何も声をかけないのはどうかと思うし。


「理央君も今帰り? なんか遅くない?」

「あ、楓と爽子ちゃんじゃん。そうだよ、今帰るとこ」


 理央君かぁ。男子には声をかけてこなかったし、事ここに至っては本当に理央君を誘ってみてもいいかもしれない。例え理央君自身がドラムをできなくても、理央君顔広いしドラムできる子知ってるかもしれないし。その子を紹介してもらうっていう手もある。

 隣の爽子に目配せをする。爽子は最初から理央君を誘おうとしていたから、私の視線にすぐに頷いた。


「ねえ理央君。ちょっとお願いがあるというか、話があるんだけど」

「話? いいけど、なに?」

「えっと……私たち文化祭で有志バンドやろうとしてるんだけどさ、ちょっとメンバーが足りなくて。六んにお願いできないかなーって」


 両手を合わせてそうお願いする。隣で爽子も「お願い! ね?」と私と同じポーズをしている。


「バンドって……メンバーは?」


 困惑した顔でそう聞き返してくる理央君。いきなりバンドなんてお願いされたから困惑するのはわかる。


「今のところは私と爽子だけで……最低三人集まらないとできないから今は三人目を募集中なんだよね」

「それで俺にお願いしてきたわけね」

「そういうこと。……どうかな? ダメ?」

「んー……」


 少し考え込む理央君。爽子は私たちの会話を見守っている。


「楽器にもよるかな。楽器は決まってるの?」

「私がギターで、爽子がベース。理央君にはドラムをお願いできないかなーと」

「ドラムかぁ……」


 あ、この反応はダメそう、かな? どうなんだろう。


「素人に毛が生えた程度でもいいならできなくもないけど」

「そ、それってやってくれるってこと!?」

「うん」

「ありがとー理央君!」


 理央君ドラムできるんだ!? やった!

 思わず爽子とハイタッチをしてしまう。これでドラムの問題が解決した。一歩前進だ。


「メンバー以外のことは何か決まってるの?」

「それが、まだ全然決まってないんだよね」

「バンドやろうって決めたのが今日だったから」

「じゃあこれから話し合いでもする? どっか入ってさ。俺今日バイトないし。楓もないでしょ?」

「うん。爽子も今日大丈夫?」

「私はいつでも大丈夫だよー」

「時間も時間だし。ファミレスいこっか」

「さんせー!」


 そうして私たちは学校の近くにあるファミレスに向かって行った。

 それにしても一日でメンバーが決まるとは思わなかったな。運がよかったって思っておこう。






 ファミレスに移動して。

 お母さんには『友達とご飯食べてくるから夕飯いらない』と連絡を入れておいた。これで少し遅くなっても何にも言われないだろう。連絡入れずにちょっと遅くなるとうるさいんだから。

 爽子と私、向かいに理央君という形で席について、まずはメニューを広げて注文を決める。


「どれにしよっかなー。どうする爽子?」

「私はドリアで。安いし、美味しいし」

「あー、いいよねドリア。私はオムライスにしよっと」

「理央君は決めた?」

「俺はステーキセットで。お腹減ってんだよね」


 全員の注文が決まったところでテーブルの端にあるボタンを押して店員さんを呼ぶ。それぞれが自分の注文を店員さんに伝えて、店員さんが厨房の方に伝えに行ったところで理央君が切り出した。


「まずは何を決める? メンバーだけ集まっても、楽器とか練習場所とか時間とか、曲とか決まらないとなんにもならないし」

「そだねー。まずは、楽器の確保、かな?」

「楽器がないと始まらないしねー」


 ベースとドラムだ。これを確保しないと始まらない。練習も本番もできなくなっちゃうし。


「ていうか、最低三人でとか言ってたけど、四人目は誘わなくて大丈夫なわけ?」


 理央君がそう聞いてくる。確かにさっき理央君を誘うときそんなことを言っていたかもしれない。


「や、あれは言葉の綾というか……もともとスリーピースバンドの方向で考えてたから」

「あー……そうなんだ。じゃあ俺を誘った時点でメンバーは集め終わってたわけね。了解」

「そゆこと。紛らわしい言いかたしちゃってなんかごめんね」


 そう言って謝ると、爽子が「そんなことよりさ」と話題を修正してくれた。


「楽器、どうするの? ベースはいざとなったら私が自分のお小遣いはたいて買えばいいとして、ドラムとかってそういうわけにもいかないんじゃないの?」

「ドラムの値段もピンきりだけど、ドラムは値段よりも問題はもち運びだもんねー」

「本番はセットしてあるの使えばいいけど、練習はそうもいかないからな。ライブハウスとかなら貸してくれるけど、そもそも部屋を借りるのがめちゃくちゃお金かかるし」

「軽音部に貸してっていうのは?」

「無理でしょ。軽音部だって文化祭に向けて根詰めていくだろうし」

「難しいなー」

 そんな会話をしていると私のスマホがぶるりと震えて、着信がきたことを知らせた。


「ちょっとごめんね」


 楽器どうするかーって話し合っている二人に断ってスマホを確認する。そこには新着メッセージ一件の文字が。相手は朱里さんだった。

 何か用事でもあるのだろうか? それともいつものような世間話かな。

 スマホを操作してメッセージを確認する。


『楓ちゃんって中学の頃軽音やってたんだって? こんど私たちの前で何かやって見せてよ! ……ダメ?』


 ……ダメ? とか、なんかかわいい。って、そうじゃなくて。

 大洋さん朱里さんにこの間の夏祭りで話したことを喋ったんだ。話さないで! なんて言ってないから別にいいんだけど、なんか恥ずかしい。しかもプロの人の目の前で演奏するとか……。

 そんな、プロの人にお見せできるような実力じゃないんだけどなぁ。……いや、でも待ってよ?

 私が演奏する代わりに、何かお願いを聞いてもらうとかは? バンドの指導とか、楽器を貸してもらうとか。さすがに無理かな……?

 いや、ダメで元々! 最近そうやって学んだんだから!

 私は決意を新たに返信を打ち込んだ。


『演奏するのは構いません。でも、ちょっとお願いを聞いてほしいというか……いいですか?』


 送信、と。

 すぐに返信が返ってきた。


『ほんと? やったね! 聞ける範囲でなら何でも聞くよ――って大洋が言ってるよ』


 大洋さんが? 一緒にいるんだろうか。って、仕事中か。一瞬胸がもやっとしたけど、そのもやもやを頑張って追い払う。


『ありがとうございます! じゃあ早速なんですけど、ベースとドラムと練習場所を貸してほしいんです。私、友達と文化祭でバンドやることになって、それの練習がしたくて』


 そう返信してから、スマホの画面から目を離す。爽子と理央君は普通の雑談に移っていた。


「ねえ、二人とも。楽器と練習場所何とかなるかも」


 私がそう言うと、二人がばっと私の方を向いた。


「え、それほんと?」

「マジで?」

「うん。ちょっとお願いしてみた」


 そう言ってスマホを見せる。そこには


『オッケー! じゃあ明日迎えに行くから、学校で待っててよ。もちろんお友達も一緒にね』


 という朱里さんからの返信が映し出されていた。







すいません。リアルが忙しくなってきたので、ちょっと毎日更新が厳しくなりました。少しの間だけ隔日投稿で、ストック切れたらちょっとどうなるかわかんないです。すいません。

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