第2話 その後、それは当然のようにリセットされる

「ごめんねぇ、わざわざとってもらって」

「いえいえ、当然のことですよ」


 なんで銀髪美少女じゃないんだよ!

 なんて言えるわけもなく俺は模範解答のような返事をおばあさんにした。


 って……

「ティア、あれって……」

「はい、予兆ですね」

 俺が静かに訊くとティアもそれに倣って静かに答えた。


 おばあさんの周りには白い靄がかかってきている。それはただの靄ではなく、故意に何かを隠そうとしているようだった。


「これはおじいさんに貰った帽子でねぇ……」


 懐かしげに話すおばあさんの周りは一段と靄が濃くなる。


「本当に大事なものなのよ」


 また濃くなる。


「だから心から……」


 濃くなる。


「ありがとう」


 おばあさんが、微笑みながらそう言うや否や俺の視界は、いや、正確に言えばおばあさんは白い閃光に包まれた。


 永遠に続くかと思われたその閃光も一瞬のうちに収まった。


 俺の目の前に広がるのはさっきまでと同じ景色だった。ただ一つを除いて。


 先ほどまで懐かしそうに帽子を愛でていたおばあさんだったが、今では一変して俺を怪訝な目で見ている。


「どうかしたのかい?」

 不審そうにおばあさんは俺に尋ねた。俺は一息を置いてそう言った。


「いえ、なんでもないです。風が強いので帽子を飛ばされないようにしてくださいね」


 俺のその言葉におばあさんは一瞬戸惑う素振りを見せたが、言葉の意味を理解するとありがとう、と微笑んだ。


「では、失礼します」

 俺は静かにおばあさんの横を通り過ぎ、再び自転車にまたがる。


「まったく、救われませんね」

「いつものことだろ」


 俺は平静を装い、ティアにそう返した。


 そう。これが俺にかけられた呪い。

 俺の人生を散々かき乱してきた呪いだ。


 他人の俺に対する好感度が一定値を超えた場合、俺の記憶を除いてその人との関係がリセットされる。


 その一定値は、人によって違うが、年が離れているほど低く、近ければ高いようだ。今さっきの件が良い例だろう。


 この呪いが、この呪いさえ無ければ……


 俺は自転車で風を切りながら唇を噛み締めた。

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