7.苛立ち

 なぜだ……なぜ?

 この鬱陶しい元子役タレントは何を考えている? なぜ知っている? 何を策しているのか?

 ……いや待て……、もしかして知り合いだったのだろうか……。ユリの知り合いか?

 僕は思い切って口を開いた。

 「……知り合いなのか?」

 駄目だ。ビビッてしまっていて声が震えてしまっている。これしきのことで……。しっかりしなくては……。ただ名前を知っていたからどうだと言うのだ?何をそんなに焦る必要があるのか?

 「ごめんなさーい! ……でもある意味忘れられたでしょ?」

 元子役タレントは、憎たらしく平然と言ってのける。続けて、

 「ここに彼女の名前がある……ということが逆に……むしろ忘れさせてくれるかなーなんて……。どうですかー?」

 僕のことをどこまで知って、言っているのだろうか……。満面の笑みを携えて彼女は言った。

 僕はいらだつ感情を抑えられずに、

 「さっきの僕の質問は……?」

 「ああ! ごめんなさいっ。ユリさんと知り合いかって事でしたよね? いや、知り合いじゃないですよ。」

 想定外の回答に僕の声がまた震えた。

 「……なぜ……なぜ?」

 「……いやー、だからオマジナイですもの。」

 「……わかった。そろそろ真面目に答えてくれ。僕は負けを認めるから……。そのオマジナイの種明かしをしてくれないかな?」

 「うーん。」

 少し潮崎さくらは首を小さく傾げ考えた。

こうした仕草の一つ一つが今では非常に気に障ってしょうがなくなっていた。

 「あっ、じゃあこうしようかな? これから私が質問するので……。それに正直に……。本当のことを言ってくれたら良いですよー。」

 「ああ、わかった。」

 質問? ……何を聞いてくるのだろうか……? 前の彼女のことなのか? それとも……、

 ああ、何てことだろう。今短い時間ではあったけど……。このオマジナイが始まってから、彼女の存在を忘れていた。今一番僕の中で愛おしい存在のはずの……川村絵里のことを……。

 僕は川村絵里へ視線を移した。ちょっと不安そうな目つきで視線を潮崎さくらへ送っている。

 質問と言うのは、僕の彼女に対する想いについての質問なのだろうか?

 「じゃあー、質問しまーす。荒橋さん。」

 元子役タレントは一呼吸置いた。僕は石のように身体と心を硬くした。

 「殺しちゃいましたよね。一つの命を……。高柳ユリさんを……。」

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