乙女ゲーの主人公に憧れて異世界転生したら婚約者はドラゴンでした

平岩屮枝

第1話:隕石さんとごっつんこ。

「はあ、会社行くのイヤだなぁ……」


そう呟いた私こと、他向利貞子ほかむりさだこは、26歳の地味なOL。


小学校からのアダ名は一貫して『ほっかむり』、または『ホカサダ』。そんなあだ名を自動的に生んでしまう苗字の家に生まれたことを、幼心にどれほど恨んだことか。そこにさらにサダコとつける親のセンスって一体……。


さらにトドメはあの有名なホラー映画の存在。

今となっては名乗るだけでなんかもう怖いと思われちゃう始末。


まあとにかく、自分の名前に関してはアンララッキー以外の経験はしたためしがない。とは言え、いくら『サダコ』がちょっとホラーで古臭い名前とはいえ、亜名流あなるちゃんとか聖衣理せいりちゃんみたいなDQNネームよりはマシだったかもしれないけど。


それにしても、最近流行りの『いちか』とか、『さな』とか、普通の可愛い名前には、26歳になった今でもめちゃくちゃ憧れてしまう。


まあ、名前がもし可愛かったとしても、外見が釣り合わなきゃ意味ないか。

自慢じゃないけれど、私は外見もパッとしない。会社に行くときは一応ナチュラルメイクはするものの、休日はほぼノーメイク。

つい家でゴロゴロしながら、ケータイ小説を読んで1日過ごしたりしてしまう。


彼氏?

もちろんいません(きっぱり!)。

というより、男性にもてたことがない……。


そんな私だけど、大学を卒業してから都内の中小企業に就職し、それなりに真面目に働いている。といっても、仕事はしがない一般事務職。やる気はほぼゼロに近い……。


そんな風に、毎日を欝々と過ごしていた私。

今朝はいつものように会社に行く支度をしていた。テレビからは朝のニュースが流れている。


<……次はしし座流星群についてお伝えします。毎年都内で観測されているしし座流星群ですが、専門家によると、今年は特に多く見られることが予想され、都内の各地では観測イベントが催されるということです……>


へーえ。

流星群ねぇ。ロマンチックだなぁ……。


一緒に見てくれる恋人でもいればこんな観測イベントだって行ってみたいけど。

1人ぼっちでカップルや家族連れに囲まれて夜空を見上げたくはない。


<……なお、流星群を観測していた専門家は、流星群に混じって隕石群を観測しており、地球に小規模の隕石が落ちてくる可能性もあると指摘しており……>


……ニュースはなおも続いている。

が、ちょうどパンが焼けた。意識をテレビから朝食に合わせる。毎朝お決まりのヤマザキパンのトーストに苺ジャム。ティーバッグの紅茶に牛乳を注いでベッドの脇のちゃぶ台で急いで食べる。


今日は月曜日。


あぁ、会社に行くのがそこはかとなく面倒くさい。


このまま布団に逆戻りして寝直すか、ゴロゴロしてケータイ小説の続きでも読みたい。今ハマってるのは、普通の女の子がアンジェリーナという乙女ゲームの主人公に転生してしまうお話だ。


「私も異世界に行きたいなぁ……」


そしたら会社サボれるし。

『ホカサダ』というしがないOLである自分とオサラバできる。

美しいお姫様に生まれ変わり、たくさんのイケメンに囲まれながらシンデレラ城のような所に住んで、豪華なドレスに身を包み、優雅に毎日を過ごす……。

そんな、都合のいい妄想に耽りながら、トーストの最後の欠片を口に放り込む。

ふと、窓の外を見ると、空の向こうに物凄いスピードで移動する明るい星のようなものが見えた。


おおおおっ!?

何アレ!?

もしかしてUFO?


そう思ったのも束の間。

UFOと思った光の塊が、こっちに向かって突っ込んでくる。


先ほどのニュースが頭に浮かんだ。

<……地球に小規模の隕石が落ちてくる可能性もあると……>


窓の外が、異常に明るい。

眩しくて目が開けられないほど。


うわわわわっ!?


思わず目を閉じた。


次の瞬間。

物凄い爆発音と共に、アパートが吹っ飛んだ。


薄れゆく意識の中で、私は大きな光に身体ごと包まれた。

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