月給1万円

弟は来年で高校三年生。


支援学校を卒業したら、そのまま障がい者でも働ける作業所に就職することになる。


もちろん弟に接客などはできないだろうから、必然的に一連の機械作業をする仕事に就くことになるだろう。


現在母親はそのために、弟でも働けそうな作業所を必死になって探している。


そして弟もまた、研修という形であちこちの作業所で仕事を手伝ったりしている。


弟は普段からパズルや粘土工作などをしていることもあり、黙々と作業をするのは得意な方である。


それが高じてか、作業所からの評判は結構いいらしい。


僕自身、障がい者が働く作業所に行ったことはないので、そこがどんな環境なのかは分からない。


ただ、弟を新しい場所に送り出すのに不安があるのは事実だ。


作業所での月給はわずか1万円。


普通の人なら聞いて驚く金額だと思う。


その1万円のためにわざわざ、不安を感じながら弟を働かせに行く意味はあるのか。


僕の弟は自ら望んで働きたいと言っているわけではない。


だからといって、自分から何かしたい事を提示するわけでもない。


何かやる事を与えてあげなければ、僕の弟は家で一日中テレビを見ているだけだろう。


ただ、両親は弟を働かせるというこの選択が、弟のためのものだと信じているようだ。


普通の子のように働いて欲しいと思っているわけではない。


ただ単純に、この世に生を受けたからには、色々な事を経験して欲しいと思っているだけなのだ。


僕より先に社会人になる弟。


両親が彼の下に敷いたこのレールが、本当に彼の将来の幸せに繋がっているのかは、誰にもわからない。









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