兄弟の話題

僕は中学を卒業して高校に入学した。


偶然にも僕の中学から、その高校に入学したのは僕だけだった。


それはすなわち、弟のことを知っている人が周りに誰もいないということだ。


周りは初対面の人ばかり。


その環境は僕に新たな悩みを与えた。


初対面の人と話す時、兄弟の話はよく話題に上がる。


「兄弟はいるの?」

「一人っ子?」

「何人兄弟?」


普通の人にとっては当たり前のようなそんな会話が、僕にとっては苦痛でしかなかった。


嘘をつくわけにはいかないし、弟が一人いると答えると、相手は写真を見たがる。


でも僕は、写真を見せて、初対面の人に弟に障がいがあるのがバレるのが何だか怖かった。


だから、高校の友達には弟の写真を見せることができなかった。


自宅にも友達を呼べなかった。


最初のタイミングで明かさなかったら、どんどん言いづらくなるんだ。


そしてついには、もう言うこと自体が面倒臭くなって、黙っておこうと決めてしまう。


未だに両親は、

「たまには友達を家に連れてきたら?」

と言ってくる。


僕はその度に愛想笑いで、

「また今度ね」

と言う。


友達を騙しているような気がして。

両親を騙しているような気がして。


心が痛む。


そして何より、こんなことで悩んでいる自分を兄に持つ弟の気持ちを考えて。


心が痛む。






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