迷子

昔、弟が迷子になったことがあった。


その時は家族で水族館に来ていた。


確か僕は小学生で弟は保育園に通っていた頃だった。


その頃の弟は今以上に落ち着きがなくて、目を離すとすぐにどこかに歩いて行ってしまった。


そして僕はそんな弟を、少し鬱陶しく感じ始めていた。


そんな時、母親が水族館でちょっと目を離してしまった隙に弟がいなくなってしまったのだ。


僕はその時、目を離した母親に怒り、目に涙を浮かべながら必死になって弟を探した。


弟を探しながら、僕はその時始めて実感した。


どれだけ鬱陶しく感じても、やっぱり僕は弟のことが大事なんだな。


僕はやっぱり弟が好きなんだな。


頼むから見つかってくれ。


その願いが通じたのか、弟は無事見つかった。


何事もなかったかのように突っ立っている弟を見た時、僕は心の底から安堵した。


たまに考える。


あの時弟が見つからなかったらどうなっていただろうと。


今まで弟のことで何度も嫌な気持ちになってきた。


でもあのまま、弟がいなくなっていたら?


僕はきっと耐えられなかっただろう。


弟がいなくなってしまう悲しみを考えれば、僕が今まで感じてきた嫌な気持ちなんて些細なものだろう。


そう思える内は、僕はまだ弟のことを大事に思えているということなのだろう。


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