兄弟げんか

僕は『兄弟げんか』に憧れていた。


昔、友達がよく言っていた。

「兄ちゃんホント嫌いだよ。昨日だって思いっきりボール投げられたんだぜ。」

「弟がワガママばっか言って腹立つよ。すぐ泣くしさ。」

「すぐ言い争いになるしケンカばっかだよ。」


こんな当たり前のような『兄弟げんか』が羨ましくて仕方がなかった。


友達の母さんが言っていた。

「お宅は優しいお兄ちゃんで良いわね。うちの子達なんてすぐケンカするし。」


違う。やりたくてもできないんだ。


弟は口喧嘩できないし、僕が何をしてもやり返してはこない。


昔、どうしてもケンカがしたくて弟にボールをぶつけたことがあった。


悪いこととは分かっていたけど、どうしてもボールを投げ返してきてほしかったんだ。


でも、ボールは返ってこなかったし、言葉も返ってこなかった。


「僕は弟と兄弟げんかもできないんだ」

そう思うと悲しくて、情けない気持ちになった。


大人になった今でも、友達がする兄弟の愚痴話を聞いていると、幼かった頃の自分が感じていた気持ちと同じ気持ちになる。


僕は弟とケンカしたことがない。

そして仲直りをしたこともない。



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