バレンタイン

弟は見た目が普通で、一見普通の人と全く大差ない。


というか、どちらかというと僕よりイケメンだ。


わがままを言うことは多いけど、大声で騒ぐことは少ないし、人に暴力を振るうこともない。


そのおかげで、小学校の子からいじめられるということは僕が見ている限りなかった。


その日はバレンタインデーだった。


家に帰ると、机の上にいくつかのチョコが置かれていた。


その数は僕がもらったチョコ(それも義理チョコ)よりも多かった。


「このチョコどうしたの?」

僕が母に聞くと、母は言った。


「弟がもらってきたの。あの子全然しゃべらないし、見た目もいいでしょ?だから女の子に結構人気あるらしいのよ」


そう言った母親はとても嬉しそうだった。


周りの女の子もまだ幼いし、障がいのことも分からないから、話さない弟をクールで無口なイケメンだと思ったらしいのだ。


こういう時、普通なら自分よりチョコをもらった弟に対して羨ましいと思ったり、嫉妬したりするんだろうけど、僕は素直に嬉しかった。


あの弟が女の子に好かれてる。

周りに嫌われてない。


それだけで僕は安心できた。


そしてそれはたぶん母も同じ気持ちだったんだろう。


テレビを見ている弟に僕は言った。

「この野郎!こんなにチョコもらいやがって!羨ましいぞ!」


弟はそう言った僕の顔をただただ笑顔で見つめていた。


甘いものは人を幸せにするというのは本当みたいだ。


その日僕たち家族は、弟のもらったチョコのおかげで幸せな気分に包まれたのだった。




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