病気なの?

弟の見た目は普通の人とあまり変わらない。


ダウン症の方などは、一目で障がいがあると分かることが多いが、弟は自閉症なので見た目が普通。


一目で障がい者と分かる方の苦労はそれは重いものだと思う。


人と見た目が違うというのは、それだけで差別につながるものだ。


しかし、普通の人と見た目が変わらないからといって、障がい者の差別や苦労がなくなるわけではない。


弟は保育園を卒園し、僕と一緒の小学校に入ることになった。


小学校に入ったといっても、普段は支援学級での活動が主で、授業によっては普通のクラスに参加するというもの。


もちろん弟は一人では学校に行けないので、僕は毎日弟と一緒に登校した。


そしてその中で僕は体感した。


『子供というのは残酷だ』


僕は小学生になり、ある程度障がい者のことについては理解していた。


だけど周りは違う。


周りから見ると、僕の弟は不愛想で無口な奴。

初対面では皆、そう思うだろう。


ある日の下校途中に、僕の友達が僕に言った。

「お前の弟、話せないのか?」


「うん」

そう答えた僕の心は、嫌な気持ちでいっぱいになった。


「病気なのか?薬とかで治るのか?それとも一生あのまま?」


うるさい。うるさい。お前は何もわかっていない。そんなもんじゃないんだ。


内心でそう思いながら、僕は言った。

「さぁ、よくわからん」


弟が小学校に入ってから、こんな質問は日常茶飯事だった。


『何でこいつらはいちいち、俺にこんな質問をしてくるんだ?もう、ほっといてくれよ。何も分かってないくせに。』


僕は弟が小学校に入ってから、友達をあまり自宅に呼ばなくなった。


弟のことをいちいち理解してもらうのが面倒で、弟を見られるのが嫌で、そんな自分に同情されるのが嫌で。


『臭いものに蓋をする』のは楽かもしれないが、その臭いをどこかで嗅いだ時、蓋をした時の自分を思い出して嫌になる。


弟をどこかで『臭いもの』と思っている自分が嫌いで仕方がない。


そして、家に帰って弟の顔をみると、その気持ちはよりいっそう強くなる。


しかし、21歳になっても僕は友達を自宅にあまり呼びたがらない。


僕が小学校のときにした蓋は10年経ってもまだ重い。


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