Phase02-01「前人未到」

「おじさん、どこへ行くですか?」

「僕はおじさんなんて年じゃ…。まぁいいや。これから君を迎えに行ったATのパイロットにあってもらう。艦長がうるさそうだけど、そっちのほうが近いからね。」


 おじさんと呼ばれ傷心気味な男。彼は宇津木秋良という。歳は二十三歳。確かにおじさんというほど年ではない。軍服を着てしまえば年なんてわからないだろうし、健太郎にも悪気はない。しばらくすれば忘れるだろう。


 格納庫を出て一つ上のフロアへと上がり、すぐのドアを彼は開けた。中は横長のソファとテーブルがあるだけの簡素なものでその奥にまたドアが二つあった。


「二人共お疲れ様」

「だれ?なんだアキラか」


 中にはひと組の男女。先ほどのATのパイロットだろう。男の方はよくいそうなタイプだが女の方は華奢で身長も小さく、前線にいそうなタイプではなかった。扉が開いた瞬間口を開いたのは女の方だった。


「どうも、彼があのATのパイロットですね」


 男のほうが口を開く。どちらも先ほど聞いた声だ。スピーカー越しだったため若干の違いはありはするが二人しかいなかったのだから間違いはないだろう。手には健太郎が持っているのと同じデバイス。正式名称は知らないが、健太郎が外出するときはアリアのデータをこれに移していた。彼らが持つそれも同じ物と考えていいだろう。


「彼は乾健太郎くん。AXシリーズのシステム開発者、乾庄次郎さんの息子さんだ。」

『博士の息子?おいジャック、それにしてはアホっぽいぞコイツ』


 部屋のスピーカーから声が聞こえる。部屋を見回すとディスプレイに『a.r.a.-Layla』と表示されている。基本この端末からはシステムのボイスは流れない。外部のデバイスに接続しないと音声が流れないようになっているのだ。街中で機械相手に会話をしていると通報されかねないという開発者の配慮だろう。


「全く、ごめんなさい。彼女に悪気はないんだ。あ、僕はジャック。彼女はいっつもこうでね、気にしなくていいから」

『はぁ?あんた何言って…あ、ちょ』

『とりあえず大人しくさせました。私はミラ。バレルのシステムAIです。』


 画面が切り替わり、今度は『a.r.a-Mira』という画面になっている。色も青から緑に変わった。


『すごいですねぇ、これ。…あれ?』


 画面を分割するように赤く表示され、『a.r.a-Aria』と表示された。どうやら同時発声もできるがミラがそれを阻害している。まるで口を塞いでいるように思える。


 ミラとレイラが機体のカラーで表示されているのに対し、アリアが赤なのは元々彼女が乾家の管理プログラムとして作られたからだろう。家の鍵など、彼女の認証がないと開かないようになっていた。その時の画面への表示色がそのまま生きていたのだろう。


『こちらからアクセスして接続させていただきました。レイラさんにはもうちょっと黙っていていただきます』

「面目ない」

「AIの性格の一部はパートナーのそれが若干影響するからねぇ」


 申し訳なさそうにするジャックにリサは煽るようにそう言った。それを聞いてジャックはさらに小さくなったように見える。二人の上下関係がなんとなく見えた気がする。


「それで、あのATはこれからどうなるんですか?彼にそのまま乗ってもらうという訳にもいかないでしょう」


 少し調子を取り戻したジャックがそういう。


「それはこれから。ってうわ!」


 秋良の目の前で健太郎が倒れた。床との接触はちょうどリサに覆いかぶさるようになって免れた。自分より背の高い男が倒れ込んできたためリサはかなり重そうにしている。二人の身長差は二十センチ近くある。


「だ、大丈夫ですか?」


 ジャックが慌てて健太郎を抱えてソファに横たわせる。


「びっくりしたけどね。この子どうしたのよ……寝てる?」


 健太郎は寝息をたてていた。表情を見ても数日まともに寝ていたような顔をしていない。


「とりあえず、医務室に運びましょう。獅堂さん、お願いできますか?」

「はい」

「私も行きます」


 ジャックが健太郎を背負い、それをリサが後ろから付いていく形でふたりは部屋から出て行く。秋良は艦長へ報告するため別の方向へ進んだ。

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