第5話 1人の王様

王様は最初に出会った場所で仁王立ちして、4人を待っていた。

「もうすぐこの話も終わるな……」

そう、独り言を言いながら立っていた。

王様は着ていたマントを投げ、落ちたマントは地面に落ち、影の隙間からヴィランが出てきた。

王様は落ちたマントを拾い、

「お前達は隠れているのじゃ」

そうは言ったものの、ヴィラン達は首を横に振る。

「あの力を見たであろう! とてもじゃないが、お前達に叶うわけがない! 何処かに隠れて身を潜めるんだ」

しかし、ヴィラン達は納得していなかった。

「なら、一緒に戦うか? 」

ヴィラン達はコクンと頷いた。

「これが最後の戦いとなる! 者共しっかり構えよっ!」

小鬼のヴィランは来るべき4人に構える。

4人はもう近くまで来ていたのだ。

「悪いけど、この想区を調律するわ」

レイナは冷静な言葉で王様に言う。

「それはわしを倒してからであろう?」

「もちろん。 そうよ」

「わしは強いぞ?」

「その言葉、そっくり返しますわ」

お互いが睨み合い、4人はヒーローにコネクトして、王様はヴィランを呼び出した。

しかし、数匹しかいないため、ヴィランは簡単に全滅した。

王様は大剣を構え、4人を見る。

4人は連携を取り、確実に倒そうとしていた。

エイプリルは奥で詠唱を行っている。

「行くぞ!!」

王様は気合を乗せるように走り出し、エイプリルに向かった。

だが、前にドン・キホーテが邪魔をするように割り込んだのだ。

「邪魔だ!」

大剣を振るうが、盾まで通らず、硬い守りを維持している。

王様はその姿を見て、ニッと笑った。

剣を地面に突き刺し、

「揺れろ!」

すると、地面全体が揺れ始め、地震でも起こった状態になった。

4人はバランスを崩した。

王様はその隙を逃さなかった。

地面に刺した剣を引き抜き、ドン・キホーテに致命傷の一撃を叩き斬ったのだ。

3人は驚きの顔を見せ、すぐさま反撃の対応を取ろうとしたが、

「甘いぞ」

王様はアリスの近くまで接近しており、アリスは斬り伏せられた。

王様が次に狙いを付けたのは、ハンプティだった。

ハンプティに向かって、走り始めたのだ。

王様は走りの助走を加えながら、ハンプティの前で飛び、剣を振り下ろした。

ハンプティは回避をしていたが、あと一瞬でも遅かったら切られていた位置である。

ハンプティは後ろに下がり、構え直す。

しかし、王様の剣は下ろした位置から薙ぎ払いをするように剣を振り回した。

ハンプティは間に合わず、剣でガードする。

しかし、片手剣と大剣では力の差は明白だった。

勝った……。

王様がそう思った時である。

「勇気の時間!」

すると、ハンプティの力が溢れ、剣でガードし、防ぎきったのだ。

王様は、しまったみたいな顔をしたが、すぐに冷静になった。

「次は逃さない」

そう言って、王様が大剣を振り下ろそうとした時、ハンプティは王様の懐に潜り込んでいたのだ。

そして、王様を斬り伏せた……。

王様は前のめりに倒れそうになったが、大剣で地面に刺し、倒れないように支えた。

そして、ヒーローのコネクトを解除した4人にこう言った。

「強いな……。 勝てる見込みが思いつかなかったぞ」

「そりゃあな。 俺達には仲間がいるのだからな!」

王様の言葉にタオは得意げに話す。

「タオが一番最初にやられていたのにね」

「お嬢! それは言わないで!」

そのやりとりを見て、王様は笑い始めた。

「ガッハッハ! わしの負けだ。 カオステラーとしてのわしの役目は終わってしまったようじゃの」

その言葉に4人は目を丸める。

「抵抗しないのですか?」

エクスの問いに返ってきたのが、

「するわけなかろう。 わしは負けたのじゃぞ。 これ以上抵抗しても君達に倒されるのは目に見えておるわ」

その反応を見て、4人は頷き、

「では、調律を始めるわ。 混沌の渦に呑まれし語り部よーー」

「待ってくれ!」

王様はレイナの調律の言葉を割り込んだ。

「どうしたんだ? 王様」

タオが聞くと、

「最後にお願いがあるんだ。 その元に戻すのを少し待ってくれんか?」

「それはいいけど……。 何をする気なの?」

レイナは王様を睨みながら答える。

「場所を変えて欲しいんだ。 あのパレードのあった街に。 武器も君達に渡す」

そう言って、王様は大剣をシェインに渡し、頭を下げた。

そして、5人でパレードのあった街に向かった。




街に着き、王様は一言声を漏らした。

「この街はこんなに広かったんじゃな」

「前から、これくらいあったでしょ?」

レイナの問いに、王様は首を横に振った。

「パレードの時はもっと人がいてのぅ。 中央だけ開いて、周りはぎっしり埋まっていたんじゃ」

「……そうなの」

先程までヴィランで埋め尽くされていた街も今は静かになっている。

全てのヴィランが倒されたため、今の街には風の音しか聞こえなかった。

「……わしはこんなことを望んでいたのかのぅ」

王様は静かに話し始めた。

「わし達は決まった運命を持っていた。 いつかはこの運命を……役割を破りたい、そう思っていたのじゃ」

「その為にカオステラーに……」

レイナの問いに王様は答える。

「その通りじゃ。 わしが役割を破れば、全ての人の役割が変わる。 そうすることによって、皆が自由になれる。 だけれど、そう簡単にはいかなかった」

「ヴィランになったから……。 そういうことですね。 王様」

「うむ。 シェインちゃんの言う通りだ。 わしは、他の者もわしみたいに変わらない姿で持つ。 じゃが、皆は黒い獣……。 ヴィランじゃったかな? その姿に変わっていったのじゃ。 わしは辛かった。 意志も分かる、何が言いたいかもわしには分かる。 しかし、姿を変えてまで自由でいたかったのか? そう思っていたのじゃ。 きっと、皆はわしが勝手に姿を変えて、恨まれているじゃろう」

「そんなことないよ!」

王様は驚き、エクスに顔を向けた。

「エクス君……」

「だって、皆は王様を守るように僕達に向かってきたんだよ! 王様を恨んでるなら、守ろうとしないじゃないか! 皆、王様に味方していたんだよ! それに最後の戦いの時だってあの子鬼のヴィランは王様を守ろうとしていたんだよ! その考えは絶対にないと思う!」

エクスの声は静かな街に響いた。

まるで、エクスがヴィランになった人の気持ちを言っているかのようだった。

「そうじゃった。 そうじゃったのじゃ」

「王様……」

「エクス君に教えられるとはのぅ。 わしもまだまだ学び足りなかったということか。 最後の子鬼になったヴィランにな、わしは逃げるように言ったんじゃよ。 じゃがな、その子達はな首を横に振ったんじゃよ。 今なら分かるのぅ」

王様は、語りながら上を向く。

「そうじゃったのか。 皆はわしを守ろうとしてくれていたのか。 皆、感謝してくれていたのか」

王様は上を向いていたが、目から落ちる水滴は顔を伝って流れ落ちていた

「一つだけ聞きたい事がある」

「どうしたのじゃ?」

王様はタオの言葉を聞き、目を擦ってからタオの方向を向く。

「王様は何で最初は襲われていたのか? この疑問だけ残っているんだ。 何か分かるか?」

「わしはカオステラーだということは皆も分かっておるだろう?」

その言葉に全員が頷く。

「わしの作った話にはな、敵を倒すというのも入っていたんじゃ」

「じゃあ、皆はその敵役になってくれたということか?」

「……そういうことじゃ。 皆はわしの願いを叶えるつもりでやってくれたのじゃ」

皆はその言葉に黙るしかなかった。

カオステラーは役割を変えることができる。

しかし、一度変えたら元に戻すことは出来ない。

王様は途中まで気付かなかったのだ。

ヴィランは王様の為に動いていたのだ。

王様の作った話に皆が一団になって動く。

王様は、それだけ信頼されたという事が分かったのだ。

「王様、この想区を元に戻せると言ったらどうします?」

「元に戻す?」

レイナの言葉に王様は目を丸くした。

「私達は、想区を元に戻す為に旅をしているの。 だから、この想区も元に戻す為に私達はここに来たのよ」

「しかし……元に戻しても、わしの知っている人物は……」

「大丈夫よ。 ヴィランになった人達は皆、元に戻せるわ」

「本当か!」

王様は驚いて、声を上げた。

「ええ、その為に来たのだから」

王様は膝から崩れ落ち、涙を流した。

「良かった……。 本当に良かった。 皆、元に戻れるんじゃな」

王様はその場でしばらく涙を流していた。

4人は王様の涙が枯れるまで、黙って静かにその場を見守った。

そして、王様の涙が止まり、

「わしはな、この想区を自由にしたかったのじゃ。 けれど、わしのやり方は間違っておった。 わしはな、今になって気づいたんじゃ。 1人になって気付いたんじゃ。 わし1人が自由になっても寂しいんじゃ。 何も出来ないんじゃ。 君達が居なかったら、わしはとんでもない事をしていたのじゃ。 感謝する。 ありがとう」

王様はそう言って、頭を下げた。

「皆、仲間を大切にするんじゃぞ」

「勿論だ! タオファミリーの絆は海よりも深いんだぜ!」

「タオ兄の言う通りです」

「大丈夫。 僕達は1人じゃないんだから!」

「その通りよ。 王様の心配はご無用よ」

その4人の返しに、王様は笑って答えた。

「そうじゃったな。 世話になったな。 ありがとう」

「では、始めるわね」

レイナはそう言って、運命の書を開き、

「混沌の渦に呑まれし語り部よ。 我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし…」

レイナの身体から白い光が溢れた。

その光は、暖かい光で、混沌になったものを浄化する光りだった。



王様はパレードで王様は裸と言われて、顔を真っ赤にしながら、前へ進んでいる。

そして、王様はパレードが終わり、部屋に戻ると、机の上には王様愛用の大剣が置かれていた。

王様は、不思議に思い、大剣を直そうと手を掛けたら、何かが落ちた。

それは紙切れだった。

その紙切れにはこう書かれていた。

「あなたも大切な仲間です。 タオファミリー」

王様は不思議な顔をしたまま、紙切れをポケットに入れた。

そして、大剣を直してから、再び部屋に戻って、その紙切れを読み直した。

「記憶にはないのじゃが、何かをしてくれたという事じゃな。 感謝する」

そう言って、王様は紙切れとしばらくのにらめっこをした。



沈黙の霧の中で4人は次の想区を探していた。

「そういえば、気になっていたんだが」

「どうしたのですか? タオ兄」

「王様に渡された大剣はどうしたんだ?」

「あれなら、返しましたよ。 王様が大事そうに使ってた剣って分かりましたから」

「そうか〜」

「あ、そういえば、置き手紙もしましたね。 名前のとこにポンコツ姫って書いて来ました」

「今すぐ戻って、その置き手紙回収してくるわ!」

「待って! 待ってよ!! もう王様は僕達の記憶ないんだから大丈夫だよ!」

興奮するレイナを引き止めた。

「じゃあ、次の想区に行くわよ!」

このやりとりができる仲間は本当にいいとエクスは思っていた。


王様、大切な仲間にはもう会えましたか? 私は大切な仲間と旅をしています。

王様、お元気でいて下さい。

エクスはそう思い、次の想区へと向かった。




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着衣の王様 トマトも柄 @lazily

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