名探偵は、確かにそこにいた。

これは、シャーロキアンならきっと誰もが夢見る物語だ。
ホームズとワトソン博士が謎の女性から依頼を受け、シベリア鉄道に乗って清国へと渡る。
このあらすじだけでもそそられるが、これは仮想の名探偵であったはずのホームズに史実の人物達が干渉してくるという最高に魅力的な物語だ。
毒ガス兵器の開発者フリッツ・ハーバー、紅灯照の首領である林黒児。
そして李氏八極拳の開祖――李書文。
磨き抜かれた武の鋭さ、凄まじさは、作者の卓越した筆致によって余すことなく読者に伝わってくる。
バリツの使い手であるホームズとの戦いだけでなく、二人の言葉少なでありつつも確かな交流も必見。
ホームズの皮肉を交えつつもチャーミングな語り口調も、翻弄されつつも親友のために勇気を見せるワトソン博士の姿もそのまま。極めて優れたパスティーシュとして成立しているだけでなく、盛り込まれた独自の要素もしっかりと活きている。
これは確かに、歴史に刻まれたシャーロック・ホームズの物語だ。
1897年の清国。名探偵は、確かにそこにいた。

その他のおすすめレビュー

伏見七尾さんの他のおすすめレビュー41