碁碁のパンダな対局〜転生天才囲碁パンダin動物園〜

星里有乃

第1話 転生するとオレは天才囲碁パンダになっていた


「かみのいって」(神の一手)とiPhoneで入力すると「上野行って」と変換される。上野といえば動物園、上野といえばパンダ……そんなことに気づいたことから始まる囲碁パンダストーリー。



 オレの名は東郷剛太郎(とうごうごうたろう)、高校生。オレは囲碁の天才的な実力者だった。順調にプロ試験を勝ち抜き見事合格……ゆくゆくはタイトルホルダーか? と期待されていた。


 そんな順風満帆なオレに対し囲碁の神様は何を思ったのか、プロ試験に合格した翌日、目が覚めるとオレは某動物園のパンダに転生していた。


 何故パンダ?

 白と黒だから?

 囲碁カラーだから?

 確かに可愛いが……。

 生後数ヶ月の仔パンダであるオレ、その愛くるしい姿がテレビでも放送されたオレは動物園の人気者になっていた。


 公募によりオレの名前は碁碁(ごご)という囲碁っぽい名前がつけられた。

 そして動物園にファンからオレへのプレゼントとして高級脚付き囲碁盤と高級碁石、高級碁石入れ(碁笥)など高級囲碁セットが贈られてきた。


「碁碁ちゃんへ、頑張って囲碁を覚えてください。あなたのファンより」


 すごいなパンダ(オレ)のファン……オレ人間の頃だってこんな高級囲碁セットで囲碁打ったことないよ……。


 飼育員A「良かったね! 碁碁ちゃん! あなたの名前の由来になった囲碁セットよ」

 飼育員B「園長さんが試しに碁碁ちゃんに本当に囲碁を打たせてみたいって言ってるんだけど……どうしよう……」

 園長「ははは! なんでも挑戦だよ! さて碁碁ちゃん……ここに囲碁セットがある。 どうだい? 私と一局打たないか?」


 園長の棋力(囲碁の実力)がどれくらいか分からないけど、パンダの身体で囲碁が打てるのだろうか? 園長の言う通りなんでも挑戦なのかもな。


 そんなわけでオレ(パンダ)は、動物園の園長と囲碁対局することになった。

 いつの間にか、テレビカメラや取材陣が集まっている。


 きっと何かの企画のために動物園のパンダが囲碁を打つ映像を撮りたいだけなんだろう。

 だがオレは人間だった頃のクセで本気で囲碁を打ってしまった。


 園長「お願いします」

 オレ(パンダ)「クークー(お願いします)」


 パンダなのでパンダ語でしか挨拶出来ないのが心苦しいが、オレはパンダ特有の細長い爪で器用に碁石を持ち、パンダとは思えない美しいフォームで鮮やかな囲碁を打っていった。


 園長「……! この実力は? !」


 園長が驚いている……無理もないか、普通の仔パンダのオレが囲碁のプロ試験合格者の実力があったら驚くよな。個人的には園長の囲碁の棋力(囲碁の実力)が高くてそっちに驚いたが……。


 園長「……ありません。私の負けです!」

 オレ(パンダ)「クークー(ありがとうございました)」


 園長が投了(降参)し、対局はオレの中押し勝ちとなった。


『囲碁が出来るパンダ現る! しかも強いらしい』


 この対局の様子は各ニュース番組のほのぼのニュースコーナーでたくさん取り上げられた。

 この時点では、動物園の園長が仔パンダのオレの売り込みのためにわざと投了(降参)したものだとほとんどの人が考えていた。


 しかし……。


 園長「先生、この棋譜を見てください。これはウチの動物園の仔パンダ碁碁(ごご)と私が対局した時のものです。すごいと思いませんか? 碁碁はまだ仔パンダなのにしっかりとした囲碁が打てる。 手を抜いていたとはいえまさか元学生アマタイトル取得者の私を投了させるとは……」


 先生「ふむ、荒削りで少し強引な打ち方だが悪くはない棋風ですな。 この碁はまるでチカラ押しの棋風でプロ試験合格者になったあの若者のようだ……いや、でもそんなハズは……」


 そう……園長は元学生アマ強豪でタイトルを取得したことのある超有名アマ強豪だったのである。


 碁碁(ごご)も人間時代に強豪園長の噂は聞いていたハズだが、パンダに転生した影響か、囲碁の神様が碁碁(ごご)を試しているのか、園長が有名強豪だという記憶が封じられていたのである。


(園長との対局……楽しかったな。 園長はオレが仔パンダだから手を抜いていたみたいだけど本気を出したらもっと強いんだろうな……でもオレはパンダだし、人間がオレ相手に本気で囲碁対局してくれるわけないか……)


 碁碁(ごご)は夜空の星を眺めながらそんなことを思った。

 夜空の星々を碁石に見立てながら……。


 碁碁(ごご)がそんなことを考えている頃、世間はコンピューター囲碁ソフトがプロの囲碁棋士に勝利したというニュースで持ちきりだった。


《とある囲碁の施設》

「プロ棋士に勝った囲碁ソフトと天才囲碁パンダ……どちらが強いか対局させてみてはいかがでしょう?」


「碁碁(ごご)をですか?」


「話題性ですよ……コンピューターVSパンダ……もはや人間同士の戦いとは違うものですが、ニュースとしては面白いでしょう」


《数日後》

 オレが高級囲碁セットでモフモフ棋譜並べにいそしんでいると、園長がオレに対局の話を持ちかけてきた。


「どうだい、碁碁(ごご)……最近とても強いコンピューター囲碁ソフトがデビューしてね。そのソフトと碁碁(ごご)を対局させたいって企画があるんだけど……やってみるかい?」


 コンピューター囲碁ソフトか……囲碁はコンピューターより人間の方が強いと言われていたが、その囲碁ソフトはどれくらいの強さなんだろう?


 碁碁(ごご)はまだ見ぬ対局相手に想いを馳せた。


《対局当日》

 コンピューター囲碁ソフトVS天才囲碁パンダ! 勝利はコンピューターかパンダか?


 もはや人間の入る余地のない謎の囲碁対局だが、報道陣がここまで集まるのを見るのは碁碁(ごご)は初めてだった。


 それもそのはず、現在巷ではコンピューター囲碁ソフトの話題でテレビニュースは持ちきりだが碁碁(ごご)は動物園でパンダライフを送っていたため世間の話題を全く知らなかったのである。


 オレ(パンダ)「クークー(よろしくお願いします)」

 囲碁ソフト「ピコピコピッ(よろしくお願いします)」


 パチリ……。

 パチリ……。


 碁碁(ごご)は人間時代と同じようにちょっと強引で強気な棋風で攻めていった。


(このコンピューター囲碁ソフトなかなか強いな……しかし所詮はAI、単純な攻めしかできないのでは? )


 しかし、中盤で碁碁(ごご)は囲碁ソフトがこれまでのAIとわけが違うことに気づく。


 オレ(パンダ)「クーククーワー? (……何ィッ、この一手は?)」


 囲碁ソフト「ピピピッ(ニヤリッ)」


 そう、新しい囲碁ソフトにはこれまでのAIとは異なり『ディープラーニング』という人間の脳に近い学習法をプログラムとして組み込んでいるのだ。


 これによりこの新しいコンピューター囲碁ソフトには限りなく人間に近い一手が打てるのである。


 碁碁(ごご)は震えていた。

 恐怖?

 絶望?

 いや違う……。

 碁碁(ごご)は、新たな目標ができたことに喜び震えていたのである……!


 オレ(パンダ)「ククー…ワワワークククー(よく、この天才囲碁パンダのオレを本気にさせたよ……くくく、面白い……オレの……オレの本気を見せてやるぜッ! )」


 囲碁ソフト「ピコピコピピピッ(くくく、お主もやるな……だが所詮はパンダ……このAIにはかなわぬよ……)」


 オレ(パンダ)「クククー! クククー! (そんなこと……やってみなければ分からないだろう? ! )」


 形勢はオレの方が不利かもしれない、だがまだ投了するわけにはいかない!


 バチッ!


 囲碁ソフト「ピコピコピピ? ピッ?  (まさか、これまでの悪手が絶妙に生きている? これは一体?)」


 天才囲碁パンダと天才囲碁ソフト……この宿命の対局はまだ始まったばかり……囲碁というのは、様々な人の手によって高みを目指して何千年も伝えられてきた。

 それは何故か……?


 囲碁ソフト「ピコピコピピピッ(何故だ、何故まだ諦めない? 何故まだ囲碁を打とうとする?)」


 オレ(パンダ)「ククーワワワー! (そんなの……お前だって同じだろう囲碁ソフト? )」


 そう、オレたちはどんなものになろうと、どんな状態だろうと囲碁を打ち続ける……。


 神の一手を極めるために!


【完】


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