第3話 運命の歯車

古い置時計の裏にはレンガの壁がある。小さなプラスが描かれた

レンガに手を当てると、秘密の通路が開く。

薄暗いその中を、薄明りを頼りに正面に向かって数歩歩くと、

扉がある。扉はあたしが正面に立つと、

青白い光をチリチリと走らせ、自動的に開け放たれた。

「最後の審判だ」あたしの一言で、

この部屋の全ての歯車が照らし出される。

煌めく、金属。様々な光沢を照らし返す。

機械音をたてて、廻る歯車にはそれぞれ違った特徴があった。

大きいもの、小さいもの。歯の多いもの、少ないもの。

しかし、かすかにいびつな音がまじる。

伝承者が聞いてきた。

「あの音は何ですか」もう秘密にする理由は無い。

「皆の運命を阻害するものの音です」クローバーを

巻き込みたくなかったけれど。

少し考える様子をした伝承者は言った。

「運命の歯車を守る、順守じゅんしゅ魔法はご存知ですね?」

「はい」

「特定の人物に運命を託す、選定せんてい魔法を伝授します」

クローバーの目が潤んでいる。彼女も、あたし同様に辛いんだ。

目頭が熱いよ…。

「伝承者よ。ありがとう、感謝します」

あたしは、その日、選定魔法の呪文と魔法陣を得た。


高度七千メートルの一室に特別な部屋がある。

ここは、植物のための温室。神の階層の中でも、

唯一、生命が息づく部屋だ。

二人で最後のティータイムを味わっていた。

クローバーがため息をついて言った。

「あなたも、ここまで来るまで、ずっと黙ってたんだね。

歴代の西の神はなぜ皆そんな風なのかしら」

早く相談していれば、ここまで悲惨な状況になって

いなかったかもしれない。それでも、隠していたときは必死だった。

きっと、歴代の西の神たちも。

「…クローバーに、困った顔をして欲しくなかったのかも知れないね」

クローバーがすぐ答える。

「それが困るのよ!私も、皆の隠し事する顔は嫌いだもの!」

「…あたし、もう神様では居られないの。西の神として最初に出会ったときに言っていたでしょ?人から信じられなくなった神様は存在できないと。そのときが、あたしに来たんだ。透けていると、さっき、言っていたでしょ?あたしの希薄きはくさは加速している。もう会えないかもしれないわね」

夢中になって吐露とろしていたが、気付くと、クローバーは

静かに涙していた。そして言った。

「…知って…いたよ。…皆、そうだったもの。…でも、あなたは友達なの…、…大切な友達なの!」

嬉しかった。とても、とっても。

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