七夕

「ぱぱ〜みてみて〜」

とてとてと走ってくる息子。

小さな手には長方形に切られた色画用紙が握られていた。

「たなばなのおねがいかいたの」

「七夕のお願いごとか。なんて書いたんだ?」

「えーっとね、ないしょー」

そう言うとまたどこかに走って行ってしまった。

「保育園で飾る為に書いたらしいのよ。そのうち見せてくれるわよ」

晩御飯の後片付けを終わらせ手を拭きながら楓が戻ってくる。

「そう言えば楓も毎年願い事書いてたよな」

付き合ってる時も結婚してからも毎年欠かさず書いて飾っていた。

笹にではなく玄関につけたフックに引っ掛けただけだが。

「もちろん今年も書くから!今年は紘也も書いてよ」

そう言って色画用紙を出す。

というかどこから出した。嫁よ。

短冊を受け取り思案する。

(正直こういうことは苦手なんだよな)

「七夕当日までに書いておいてね」

「はいよ」


結局、当日になっても何も書けず悩んでいた。

「お?なんだ?短冊なんかとにらめっこして」

「先輩。願い事とかあります?」

「そうだな、働かずにお金が手に入りますように?」

「先輩に聞いた俺が馬鹿でした」

この先輩にまともな答えを望んだのは間違いだった。

悩みに悩んで結局簡単な願い事になってしまったがこれが一番の願いなので気にしないでおくことにした。

「ただいま」

「おかえりーーぱぱー。みてぼくのおねがい!」

息子が短冊を手渡してくるので読んでみるとそこには子供らしい字で『ぱぱとままとずっといれますように』と書かれていた。

「いい願い事だな、きっと叶うぞ」

「やったー!ままー、ぱぱもよろこんでくれた!」

息子のあとに続いて部屋に入る。

「良かったね。それじゃこれはお部屋に飾ろうか」

「うん!!」

楓に短冊を手渡し椅子に座る。

「それじゃ、パパも帰ってきたしご飯にしようか」

「俺も手伝うよ」

「お皿とコップを出しておいて」

楓に言われるがまま食器を準備していく。

そうしている間にも並べられていくおかず。

あまりにも美味しそうだったのでこっそりとひとつつまむ。

「あーぱぱ先にたべた!!」

「しー、言わない」

「前はバレなかったかも知れないけど今は可愛いお知らせさんがいるからすぐバレるわね」

「ちょ!その言い方だと前からバレてるじゃん!」

「知らないとでも?」

「ごめんなさい!」

あまりの迫力に謝ってしまう。

「ぱぱわるいことしたの?」

「そうよ、ご飯勝手に食べちゃったのよ?」

「ぱぱ、わるいんだ」

息子にまで責められて完全に小さくなる。

「ほ、ほら早く準備しないとご飯冷めるから」

「ごはん!たべたい」

息子に急かされ楓と紘也は急いで準備をし始めた。


「もう寝た?」

「そりゃもうぐっすりと」

二人揃って淹れたコーヒーを飲む。

「ところで書けた?」

「一応な。ただ願い事かどうか怪しくなったけどな」

そう言って紘也は書いた短冊を取り出す。

それを見た楓は笑いながら言った。

「私と同じこと書いてある」

「同じ?」

そう聞くと楓は自分の書いたであろう短冊を見せる。

それを見た紘也は楓と同じように笑い出す。

「たしかに同じだな」

「これ、せっかくだし一緒に飾ろうね」

「そうだな、あいつのも一緒にな」


翌朝、息子は自分の短冊の隣に飾られてるものが気になったのか楓に聞いた。

「まま、あれなんてかいてあるの?」

「あれはね、パパとママのお願いごとだよ?」

「ままとぱぱのおねがいもかなうといいね!」

「そうね、すぐに叶うわよ」


そう。だって二人の願いは

『これから家族みんなが元気で幸せに暮らせますよう』

『新しい家族も含めて元気に暮らせますように』

なのだから。

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