夏祭り

『約束だよ?絶対戻ってきてね』

少女は涙を流しながらそういった。

『戻ってくるから泣くなよ、泣き虫』

そういって少年は少女の頭を撫でる。

少年は少女に大切にしていた首飾りをかけてやる。

『これ、大切にしてたもんだから絶対無くすなよ?』

『うん、大切にする』

それが最後の会話だった。


「愛理、夏祭りどうする?」

「夏祭りか、別に行きたいって思わないかな」

そういうと目の前の友人は驚いた顔をしていた。

「どうして?高校生といえば高校デビュー高校デビューといえば夏祭りに浴衣でゴーでしょ?」

それは違う気がするがあえて突っ込まない。

「ねぇ、行こうよ愛理」

「何度言われても行かないものは行かない」

「ぶぅ~けち~」

そういってどこかに行ってしまった。

きっとほかの友達を誘いに行ったのだろう。

「夏祭りか…」

ふと、昔のことを思い出す。

一緒に夏祭りに行った男の子のこと。

今頃あの人は何をしているのだろうか。

そうして日が進み夏祭りの日、私は夏祭りには行かず家でゆっくりしていた。

「あら?今年は夏祭り行かないの?」

母が不思議そうに聞いてくる。確かに私は去年までは毎年行っていた。

でもなぜか今年は行こうと思えなかった。

「ん~、今年からはいいかな~って思って。もう高校生だしはしゃいでも恥ずかしいだけだから」

「あら、そう?せっかくお母さんの家から浴衣貰って来たのに」

「おばあちゃんが浴衣を?」

「そう、あなたのためにって新しいのを買ってくれたみたいなの」

そういわれて私の気持ちが少しだけ揺らぐ。

浴衣だって安いわけではない。せっかく買ってもらったのに一度も袖を通さないというのは申し訳ない気がして…

「お祭りちょっとだけ見ようかな」

「あら、そう?それなら着るわよね」

「うん、どれくらいで着つけられる?」

「そうね、30分ほどかしら」

そういわれて時計を見る。今から準備しても花火の時間には間に合うだろう。

「それじゃ、お願いお母さん」

そういって私は母に浴衣の着付けを任せた。


浴衣を着て歩く夏祭り。

周りはカップルであろう男女がたくさんいた。

そんな中私はリンゴ飴を片手にある場所を目指して歩いていた。

そこは幼いころに見つけた二人だけの絶景スポット。

そのスポットを目指して歩く。

慣れない下駄で歩くスピードが遅い。花火の時間に間に合うのだろうか…

なんとか最初の花火が打ちあがる前に来れてゆっくりと腰を下ろす。

それと同時に花火が打ちあがり始める。

「今年も一人でさみしく見てるって、なんか笑える」

毎年ここに来るのは理由がある。

昔、片思いしていた人がもしかしたら来るかもしれない。

その思いで私は毎年ここに来ていた。

「今頃何してるんだろうな」

なんて呟きながら首からかけた思い出の首飾りに触れる。

「そうだな、今頃こうしてるぜ」

その声と同時に頬に冷たい感触が。

あまりにもびっくりしすぎて声にならない悲鳴を上げる。

「綺麗になったな、愛理」

「え、だ…だれ」

「誰って、忘れたのか?」

そういうと見知らぬ彼はため息をついて言った。

「俺だよ、透」

「え、透?でも透は転校しちゃってここには…」

「いるんだよ、今ここに」

その言葉を理解するのに間があったが理解すると同時に涙が出てきた。

「本当に透なんだよね、戻ってきたの?」

「言っただろ?戻ってくるって」

その言葉を聞いて私はもう涙をこらえられなくて大声で泣き出す。

その姿を見て透は笑いだす。

「ホント泣き虫だな」

そういうと透は私を抱き寄せて言った。

「ただいま、愛理」

「ぐすっ…お帰り、透」

透との再開、それを祝福するように花火が上がる。

私にとっての恋が再び始まる。

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