第7話

「はいはい、メドロス大王ですね、メドロス大王。ノエル、ちゃんと覚えましたよ」


 本当かしらね、と、クローデットは眉をしかめた。


 召還魔法の実行者は、クローデットではなくノエルだった。

 ここ最近――ノエルが彼女の弟子になってから――は、いつもこうである。


 理由は単純。

 クローデットなら一週間がかりで行使するこの魔術を、ノエルは、たったの数秒でこなしてしまうからに他ならない。


 師弟の関係にありながら、実のところ、魔法使いとしての素養は、弟子――ノエルのほうが師匠のそれをはるかに上回る。


 頭がおポンチでまともに使いこなすことはできないノエル。

 だが、その潜在的な魔力量は、大陸第一の魔法使いと呼ばれる、クローデットのざっと百倍である。


 魔法を操作する技術――ノエルのおふざけに限ってだが――に至っては、二十年の修行をした彼女と出会ったとき既に互角だった。


 そんな彼女をどうしてクローデットが預かっているかといえば、いきがかり。

 暴走すれば、世界を滅ぼしかねない彼女に、一番近しいであろう魔法使いの彼女が、師匠という形で彼女を監視することになったのだ。


「魔力さえなければ、普通にかしましいだけの娘なんだけれど」


 どうしてこんな娘に、不相応な力が宿ったのか、と、いつもクローデットは考える。

 神様がこの世界にいるのならば、なんとも捻くれたものである。


「師匠、ちょっといいですか?」

「なにノエル。術に集中してちょうだい」

「いま、私、ちょっと思ったんですけどね」


 振り返ってこちらを見つめる少女。


 世界を破壊しかねない凶悪な魔女。


 そう呼ばれてクローデットに引き渡されたこの娘は、その前評判にも関わらず、彼女を思わずほっこりとせるような笑顔をよく見せた。


 今回もまた、彼女はそんな顔をして、師匠に向かって微笑んだ。


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