顔⑯

 「ごめん! 石川! アタシは山川ともこ、このスマホはこの家でひろった_____」


 あれ?


 ここまで来て、アタシはようやく気付く。


 これ、いなくなった人のもの?


 それが、この家に?


 石川が言ってた言葉が一気に頭を掻き乱す!


 いや、そんな!


 ない……あり得ないよ!


 そんなの何かの間違い……で、トイレにスマホ?


 丁寧に壊さない様にビニールに包んで?


 それって、『いつくるかしらない誰かに気付いてもらう為』に?


 ……ない。


 そっちの方が遥かにあり得ない!


 か、考えればわかる事、でも!


 そう考えちゃったら_____!



 『…なんでお前が……ゆっぽんのもってんの……? 家って、アイツんち? やっぱり……やっぱりそこにあったんだ……』


 「ち、違う! これは、なんでか知らないけど、アイツは関係な____」


 関係ない?


 ここまで来て?

 

 『おねがい』


 「ぇ?」


 『いま、あの家の中にいるんでしょ? だったら探して』


 

 喉の奥から絞り出すような声は震える。


 『ゆっぽんとけんちーを探して……きっと、その家のどこかに閉じ込められてんだよ……二人を助けてよぉ……! ミカもうすぐそこに______pp』



 え?



 アタシは、不意に切れた通話に耳に当てていたスマホの液晶を確認するけど_____充電してください______大きく表示されたのを最後に液晶はまっ黒になる。



 充電切れ。



 残り3%だったスマホは、どんなに電源を入れ直そうとしてもうんともすんともしない!



 探すってそんな……だって、この家にいるって_____ガタン!


 

 廊下の向こうでまた音がした。


 アタシは息を飲む。



 「いるよね……やっぱ、なんで」



 あの部屋には誰かいる。


 それが、いなくなったあの二人でないにしろどうして『いない』だなんて言った?



 アタシはそっと廊下に顔出す。


 一直線の視線の先。


 玄関のほうで、あの子が誰かと喋ってる……ぼそぼそしててちょっと何言ってるか分かんないけれど見るなら今。


 ちょっと覗けばいい。


 それだけで終わる。


 アタシは一歩踏み出す。


 ギッ。


 短く床が軋んだだけなのに、アタシの体がビクッっと跳ねる!

 

 おそるおそる玄関の方を見たけど……良かった、気づかれてない……!


 だ、大丈夫いる訳ない……。


 それは、見ればわかる事。


 きっと、何かの間違いだと思いたい。


 あんな事にアンタが関わったとか、思いたいくない。


 だから、アタシはあの部屋を見るんだ。


 ガタッ、ガタタタ……。



 指をかけてスライドさせた襖は、立て付け悪く音を立てる。


 全部開ける必要はない。


 覗ける程度で十分……だけど、すでに日が落ちて暗くなってしまっているから電気ついていないこの畳間は手の平ほどの隙間からでは暗くて奥はほとんど見えない。


 くっ!


 もっと開けて……いや、いっそ全開にして廊下の明かりで照らせば!


 アタシは、ぎゅっと目をつぶって思い切って襖を開けた!


 

 開けた襖から、ひんやりとした感じがしてアタシは思わず身震いする。


 怖くて目が開けられない。


 もしそこに誰かいたら?


 それが、いなくなった二人の誰かだったら?


 ……って、なんこれ?


 ビビるなんて、アタシらしくもない。



 アタシは目を開けた。


 暗い畳間。


 仏壇。


 ひんやりとした空気は、なんだか人の匂いのするようでいい気がしないけどそこにはやっぱり誰もいない。


 ほっとして、思わずその場に座り込みたい気分になる。



 「なんだよ、やっぱ石川の_____」



 けど。



 アタシは握りしめたスマホに目をやる。


 

 まだだ……コレの説明がつかない。


 

 アタシは畳間を見回す。


 

 仏壇のあるこじんまりとした部屋……あのちょこんと置いてある囲碁の台とか昔来た時と変わらない。


 前はあそこで、あの子のお爺ちゃんが難しい顔しながらほんを片手に一人で碁を打っていたりしたっけ……。



 「やっぱり……」


 

 脚を踏み入れて仏壇の前に立つ。


 仏壇には写真。


 お爺ちゃんとお婆ちゃん。


 死んじゃったんだ……『いない』それは嘘じゃなかった。


 でも、それじゃあの音は?


 

 ガタン!



 真後ろでさっきのおとがする____押し入れ?


 ゴトッ……ごとっ!


 中に何かいる?


 アタシはゆっくり振り向いて、押し入れの戸をじっと見る。



 ガン!


 今度は、明らかに内側から何かがぶつかる!


 

 「だ、だれ? 誰かいる……の?」



 アタシの声に押し入れの気配が、蠢く。


 

 「ねぇ?」


 声をかけるけど、押し入れの中身は何も答えない……気のせい?


 けど、もし、本当にだれかいたら……?


 アタシは、恐る恐る押し入れの戸に手を伸ばす。


 怖い。


 出来ればもう家に帰りたい。


 でも、石川の必死な声が耳にこびりつて離れない。


 石川がこんな風にあの子を疑うのは、遠回しに言えばアタシの所為だと思うし、トイレのタンクからこのスマホが出てきた以上は多分あの子は今回の行方不明事件になにかしら関わっているのは認めざるえない。


 だから、どんなに怖くてもアタシはちゃんと確認しないと!


 誰もいなければ、少なくともあの子が何かしたと言う疑いは晴れる!


 アンタの事は、アタシが一番よく知ってる。


 きっと、こんな事に関わったとして脅されてとかそんなんだきっと!


 アタシは覚悟を決めて、勢いよく押し入れをあけた!


 

 「ぁ……ぇ……?」



 アタシはそれを見たとき、叫ぶよりも先に呼吸を忘れた。

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