第3話 火事とヴィランとカオステラー

翌朝、宿屋の部屋の中で作戦会議が行われていた。


「あくまで私の考え、だけどいいかしら?」


会議の中心のにいるレイナが自論を述べ始める。


「火事が起きた家の中からヴィランが出てきたという事は

 カオステラーが一連の火事に関係していると思う。

 そしてマッチ売りの少女は行方が分からないし死んでいるわけでもなさそうな点。

 彼女が行方不明になったのが4日前、謎の連続放火事件が起き始めたのも4日前。

 ……妙に話が繋がってない?」


「まさか……」

「そう。マッチ売りの少女がカオステラーに憑りつかれて、

 放火してる可能性が高いと思うわ」


彼女は自身の結論を述べた。


「どうする?」

「多分火事があるところにマッチ売りの少女がいると思うわ。

 みんなは手分けして町の見回りを頼むわ。火事が起こったら知らせて」

「ちょっとまって! じゃあ昨日僕が見た家の中にいた人って、まさか!」


エクスが声をあげる。

昨日見た人影はつまり……


「……もしかしたらマッチ売りの少女だったのかもしれないわ。

 あのときは良く考えないであんな事言っちゃってごめんね」

「ところでシェインは?」

「箱庭の王国にこもったきり出てこない。多分武器をいじくりまわしているんだろ?

 そのうち出てくるよ。お嬢の話は後で俺が伝えておくから」



宿屋を出ると一行は街の各地へと散って行った。

火事は無いか、ヴィランはいないか、探す。


「エクス、何か変わったことはあった?」

「いや、何もなかったよ」

「俺も特に異状なしだなぁ」


日没の時刻になったので一行は先日泊まった宿屋で落ち合った。

幸運なのか不運なのかは分からないがその日は空振りに終わるかと思われていた。


「あとはシェインか……お、来た。何かあったか?」

「郊外にヴィラン達が集まってる。何かすると思う」

「!!」


緊張が走る。


「行ってみましょう」

「そうだな。シェイン、案内してくれ」

「分かった」


一行はシェインに案内されてヴィランのいる場所へと向かうことになった。



30分後



「この辺りにいたんだけど……」


シェインに案内されたのは郊外にある空き地。

彼女が言うにはここにヴィラン達が固まっていたらしい。


「ヴィラン共! 隠れてないで出てこい!」


タオがヒーローの姿に変身して叫ぶ。

それを見て残りの3人もヒーローの姿へと変身する。

と同時に森の中から魔法弾や矢が飛んできた。


「なめるな!」


飛んできたものを剣で弾き飛ばし、あるいは盾で防ぐ。


「行くぞ! エクス! お嬢! シェイン! 援護してくれ!」


一行は勢いよく森の中に突っ込む。

予想通り森の中には炎ヴィランと弓や魔法を使うヴィランが陣取っていた。


タオは槍で炎ヴィランを突き刺す。

と同時に穂先から強烈な冷気が噴き出した。

身体の炎は吹き消され、2度目の突きで完全に力を失い、消滅した。


「ふふふ……対炎ヴィラン用にチューニングしたのが効いたみたいだね」


シェインが氷の魔法弾を撃って援護する。

彼女の攻撃を喰らった炎ヴィランは自慢の炎が消え、動きが鈍くなる。


シェインがみんなの武器に氷のコアをはめ込んで急きょ対炎ヴィラン用に仕上げた1品だ。

それのおかげで特に炎ヴィランに対してはかなり有利に戦う事が出来た。

コアから流れ出す氷の魔力は炎ヴィランの力を劇的に弱めて動きを鈍くし、

攻撃の手を止めさせ急所を突くことを容易くしてくれた。


手早く炎ヴィランを片づけると残っているのは前衛という盾を無くした

弓や魔法使いという接近戦には向かない者たち。

抵抗はしたものの敵うはずも無くあっさりと倒された。


「シェイン、助かったよ。お前のおかげだな」

「ふふっ。ありがとう」


武器をチューニングしてくれたシェインに礼を言うタオ。

戦いが終わって辺りを見回すと既に日は落ちたというのに

ぞろぞろと人が集まりだした。


「あの、すいません。何かあったんですか?」


エクスが代表して尋ねる。


「近くの養豚場で火事が起きたらしいんぜ」

「これで7件目か。やな話だな」

「!!」


また火事が起きたらしい。


「来たか……!」

「気を引き締めていきましょう」


一行はカオステラーとの戦いを考えつつ集まった人と一緒に

火事の現場へ向かう事にした。



現場に着くと豚小屋が炎に包まれていた。

エクスたちは小屋の窓や入り口から中の様子をうかがう。

予想通り、中には炎ヴィランがいた。


「!! やっぱり豚小屋の中にヴィランが!」

「あの時と同じだ! 多分中にカオステラーがいる!」

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ね……行こう」


一行は燃え盛る小屋の中へと突っ込んでいった。


「グギィ!?」


炎ヴィランは仲間2~3名がふっとばされた事で異変に気付く。

振り返ると空白の書を持つ者達4名が冷気を発する武器を構えていた。


「グギャアアアア!」


敵討ちだ。とでも言わんばかりに雄たけびを上げる。

仲間が集まり一斉に相手に襲い掛かる。

が、相手は強かった。


相手自身の強さもかなりものもだったが

特に冷気を発する武器という自分たちには天敵とも言っていい武器を

持っていたのが大きく、大きく分が悪かった。

次々と味方は切り捨てられ、全滅した。


「奥に誰かいるね」


「気をつけましょう。こんなところにいる人なんて普通の人じゃないでしょうから」


全員改めて気を引き締め、豚小屋の奥へと歩みを進めた。




「あ~うめぇ~~~~。豚肉うめぇ~~~~」


燃え盛る豚小屋の奥には文字通り「豚の丸焼き」を喰っているやせぎすな女がいた。


「あなたがカオステラーね」


レイナが尋ねる。女は豚を喰う手を止めて立ち上がる。


「そういうお前らこそ何だ? ああ。もしかして空白の書を持つ奴らか?」


「だったらどうした?」


「あの人に色々教えてもらったよ。

 もううんざりなんだよ。同じ話を延々と繰り返す世界の事も、

 行き倒れて死ぬっていうオレの運命もな」


「お話の中心人物であるあなたが運命の書に逆らうとどうなるか分かってるの!?」


「知るかボケ! 死にたくねえ、ただ生きたいっていう願いすら許さねえなんつー

 クソッタレな脚本なんていらねえんだよ!」


女は吐き捨てる様に言い切った。


「相手になってやるよ。

 全員キッタネェ焚き木にしてやるぜぇ!」

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