第2話 連続放火事件

マッチ売りの少女の父親の家を後にし町へと向かう一行。

その中でエクスは一人悩んでいた。


「そうだよな……運命の書には産まれてから死ぬまでの役割が書かれているもんな。

 でもあそこまであっけらかんと死を……」


「エクス、さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」


「いや、ちょっと考え事してたんだ。何でもない」


タオがシェインにキツく言われてからふさぎ込んでいたエクスを見て

心配そうに声をかける。

それを本当はかなり気にしているが何でもないと大丈夫なそぶりを見せてごまかす。

どうせ相談したところで「運命の書に書かれていることに逆らう事は出来ない」と

ぴしゃりと言われるのを分かっているからだ。



この世界の人々は生まれ落ちた瞬間に自分の人生のすべて……

産まれてから死ぬまでの一生、

そのすべてが書かれた運命の書を手に入れる。

そしてその通りに書かれた人生を何の疑問も抱かずに歩む。

それが当たり前の事であり逆らうことは無い。

というか逆らおうという気にすらならない。

エクス達のように運命の書に何も書かれていない人間以外は。



そうこうしているうちに一行は町へとたどり着いた。

年の瀬も迫る町は年越しのための買い物や祭りの準備に追われていた。

賑やかで平和な町そのものといった雰囲気だった。


「とりあえず町は……大丈夫そうだな」


タオが安心したのも束の間、路地裏からヴィランが現れる。


「あんまり大丈夫じゃ無さそうかも」


エクス達は戦闘態勢に入る。

ヴィラン達の部隊には先ほどまでは見かけなかった、

いかにも屈強そうないかつい見た目の巨体を誇るメガ・ヴィランが混ざる。

そのメガ・ヴィランは見た目通りの強さで、手ごわい。

巨体から繰り出される一撃に盾でガードする腕がビリビリと痺れる。


「調子に乗るな!」


最初こそ押され気味だったがタオが前の戦いでは使ってなかった

必殺技を相手に食らわす。

荒々しい強烈な槍の一撃。それにはメガ・ヴィランですら

耐えられるものではなかったようで直撃を食らったものも

それの巻き添えをくった雑魚ヴィランも大きく吹き飛び、消え去った。


「ふぅ……何とかなったな」


ヒーローの姿から普段の姿へと戻ったタオが危なげなく……

とは言えなかった戦いを振り返る。


「こんな街中にまでヴィランがいるなんて」

「今はまだいいけど、早くしないとこの町もヴィランに飲み込まれる」


レイナとシェインが危機感を募らせる。

シンデレラの想区では町全体がヴィランに飲み込まれたことすらあった。

この町もうそうなるかもしれない。

一行が不安げに思った、その時だった。


「火事だぁ! 火事だぁ!」


村人の叫び声が広場に響き渡る。


「また火事かよ!」

「行ってみましょう!」


一行は火事の現場へと向かう。



現場にたどり着くとそこでは今まさに炎に包まれ燃え盛る家があった。


「うわあああ! 家がぁ! 俺の家がぁああ!!!」


火事になった家の主であろう中年の男が泣き崩れている。

燃え盛る家の中に中に入ろうとしていているのか他の村人に押さえつけられている。


「あんたたちも手伝ってくれ!」


村人に促されて一行が消火活動に加わろうとした時だった。


「!? あれ!」


シェインが指差した先には家の中にいるヴィランがいた。


「火事になってる家の中からヴィランが!?」


エクス達に気付いたのかヴィラン達が次々と家の中から出てきた。

火だるまになっている、というよりは炎を身にまとっていると表現したほうが正しい、

別段熱がっているわけではなさそうな炎に包まれたヴィランが

燃え盛る家から次々と現れる。

エクスはシンデレラの想区で手に入れた氷の剣に切り替えてヴィランに対抗する。


「クソッ!」


エクスは氷の剣に切り替える事が出来たが

他のメンバーは氷属性の武器を用意できなかった。

炎をまとった拳の一撃は鎧越しにも炎の熱さを感じる。

それでも何とか抗い、5分5分の状況だった。


「邪魔をするな!」


そこでエクスが孤軍奮闘する。氷の剣で手早く次々とヴィラン達を斬っていく。

彼の奮闘もあって何とかヴィランを全滅させることが出来た。


「手ごわかった」

「だんだんヴィランが強くなってる……カオステラーに近づいてるって事かしら?」

「!?」


シェインとレイナが戦いを終えた率直な感想を呟いていた時、

エクスの目……目というか直感は見た。

家の中に、今まさに燃え盛る家の中に誰かがいるのを。


「どうした? エクス」

「いや、さっき一瞬家の中に人がいたような気がして」

「火事になってる家の中に人なんているわけない。ヴィランじゃあるまいし」

「そうよ。何かの見間違いなんじゃないの?」


自ら火だるまになるような、文字通り自殺行為をする奴がどこにいる?

とレイナとシェインはエクスの意見をバッサリと切った。


「そんな事より早く火を消さないと!」

「あ、そ、そうだね」


シェインに促されるままエクスは消火活動に加わった。



1時間後



一行は何とか火を消すことが出来た。が、家は全焼してしまった。


「また火事かよ……最近多くないか?」

「ああ。これで6件目だぜ?」

「そんなに多いんですか?」


エクスが村人たちのボヤキを聞いて尋ねる。


「ああ。ここ3日間で6件、連続放火が続いてる。

 犯人は見つかってないし、手がかりすら無い。

 次はどこで火の手が上がるかみんな不安になってるんだ」

「そうですか……」

「もう遅いし、宿で泊まりましょう。

 あと明日の朝みんなに伝えたいことがあるから、よろしくね」


レイナに促されるがまま、一行は宿へと向かっていった。

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