第31話 男同士の語り合い

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 電車移動を経てショッピングモールに来たのはいいけども。


「なぜ名古屋まで来てテイと二人なんだ」

「それは俺の台詞なんだが」


 テイと二人してブティックの外で待ちぼうけ、という状況である。

 どうなの。千愛(ちあ)とユウちゃん二人してはしゃぎながら服を見ているんだけど。楽しそうだから別にいいっちゃいいんだけども。

 混ざって感想を求められるたびに「可愛い」「世界一可愛いよ」しか言わなかったせいなのか、早々に追い出された俺です。


「なあ、コウ」

「なに」

「……お前どうやって雪野さんに告ったの?」


 なんだ、どうした。急に困る。

 人通りの多い場所で言うことでもない。


「いや、そりゃあ、なあ」

「なんつうか、雪野さんお前にべた惚れじゃん」

「……そうなのかなあ」


 テイに言われても恥ずかしいだけなんだけど。


「そういうお前も、あの子にめちゃめちゃ好かれてんじゃん」

「そうなんだよなあ」


 そうなんだよなあ、って。

 よく言ったな、お前。


「可愛いし面倒見よさそうだし。悪い子じゃなさそうだし? わざわざ東きてまでナンパするほどか?」

「言うなよ。そりゃあ……その。他でどうこうなるくらいなら、その程度っつうか」

「ひっで」

「まあどうともならなかったわけだが」

「天罰だな」

「それしか選択肢がないのかよ、そこにいくのは本当にありなのかよ、とか。お前はそういうこと考えなかったのか?」


 テイの反論に少しだけ考えてみる。

 真っ先に思い出したのは苺の水着姿で。

 あいつが頬を染めながら本気で告白してきたら、どうだろう。


「……しっくりこねえな。俺は千愛がいいから、他はあくまで他なんだよ。どんだけ綺麗だろうと、可愛かろうとさ」

「その感覚はわからなくもないけど」


 二人して、ブティックん中で試着を終えてきゃっきゃとはしゃぐ二人を見る。


「ほんとのとこどうなの。あの子が嫌でこっちに来たのか?」

「ちげえよ。そうじゃなくて……離れれば、ちったあわかるかと思ったんだ」


 ありがたみとか、そういうの。

 千愛と何か話していたみたいだけど、こういう話だったのだろうか。

 しみじみと語るテイはもの憂げで。


「結局俺のことわかってて、そばにいたら大事にしてくれてるってわかるのアイツだけだから」


 頬杖をついて深呼吸。


「そこまで出来るアイツを大事にしたいって。それでもいいのかな」

「普通じゃん?」

「俺流されてない?」

「好きで、大事にするってんなら、それは別に何にも流されてないと思うぞ」

「……そっか」


 難しく考えすぎなんだよ、と肘でつついたら笑われた。


「コウは気楽に生きてんのな」

「お前こそ、大して頭よくねえくせにぐだぐだしすぎ」

「そうじゃねえと東日本までいきませんよ」

「確かに」

「でもちっと、すっきりした」

「そっか」


 テイと笑っていたら女子二人が戻ってきた。

 もうちょっとショッピングをーと意気込む女子二人を見てから、俺とテイは目配せする。


「ちょっと分かれてぶらつこうぜ」

「雪野さんはコウと。ユウは俺と……な?」


 女子二人は驚いた顔で俺たちを見て、戸惑い気味に頷くのだった。




 つづく。

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