第24話 一方ただただ休む

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 明け方近く。

 薬と女将さんのおかげで、地獄の痛みがだいぶ和らいでいた。

 本音を言えばあと一日二日は休みたくて、女将さんもおじさん……熊五郎っていうんだって……も、日銭を稼ぐことになるコウも許してくれた。

 コウに至ってはいい笑顔で「何日でも屁でもない」と言っていたけど、なにかいいことあったのかな。


 ちなみにうちの親はお金送るからって言ってきたけど、コウは断固として受け取る気がないみたい。

 それにしたって一日二日の労働に見合う宿泊代じゃないけど。

 そこは……女将さんたちのご厚意なんだろうなあ。


「それにしても」


 身動きが取れない。

 背中から抱きついて、腰まで抱かれて困る。

 どれだけあたしを離したくないのか。

 自惚れちゃうじゃないか。


 たんに甘ったれなら、さっさと根を上げて帰るなり、あたしを放って行っちゃったりするだろうに。

 働き回って筋肉痛にもなってるみたいで痛がってくせに、妙に嬉しそうなんだよね。充実している顔というか。


「うぇ……へ……」


 夢見て思い出し笑いしてる……。


「……あのう」


 あたしに腕枕をしてくれている手がもぞもぞと動いて、胸に。

 夢を見ながら揉んでいる……。


「なんだかなあ」


 なんともいえない気持ちで見下ろしていたら、もぞもぞもぞもぞと動き続ける手。

 遠慮ないなあ。

 最初の頃はそりゃあもう、触ってもいい? っていちいち聞くレベルできょどっていたのに。

 今では夢見ながら揉んでますよ。人の乳を。


 ほんと、なにやってんだろ。

 明け方に夢見た彼氏に乳を揉まれている。


「わけわかんない」


 だんだん目が冴えてきて今更寝つけないし、落ち着かない。

 振り払っても振り払っても、夢の中にいるくせにめげないし。


 腕の中でなんとか寝返りを打って、コウの顔を見る。

 乳がなくなって背中を撫でて、うなされているかのように苦悶の顔。


 よしよし。


「ってこら」


 腰を抱いてた手が自然にお尻に伸びる。

 どれだけ触りたいんだ。

 ばかじゃないのか。ばかかもしれない。そうか……ばかなのか。


「あれ……」


 お尻じゃだめなのか、コウが呟いて目を開けた。

 ……微妙に傷つく反応です。何に傷ついているのかもよくわからない。


「あ……はよ、何時?」


 眠そうに目を擦りながらお尻をなで続ける。

 ……もはや本能?


「しらない。六時とかそのあたりじゃない?」

「んんん……」


 目を擦った手を枕の上にのばして、スマホを手にした。

 目元に眩しい光が届く。


「もうちょい寝れる……」


 ほっとしたように息を吐くと、コウはスマホを置いた手をお尻に。

 っておい。


「あのう。寝るのでは」

「ちあ……触ってる……」

「なんで。なんでなの」

「……しあわせ?」


 いや、聞かれても。


「って、そこはやだってば」


 コウの指先が不穏なところに伸びたので身じろぎしたら、不満げに喉を鳴らされた。

 獣か何かかな。


「だめ?」

「……んー」


 気分じゃないと言おうと思ったら、諦めたのか。

 両手はお尻から離れて、かたっぽで頭を撫でてきた。


「これなら、だめ?」

「いいよ」


 寝かせてくれるのかな、と思ってコウの背中に手を回す。

 元々あったかい布団と体温にだんだん気持ちよくなってきた時だった。

 コウの腰が不自然に離れる。

 寝ているときはついつい、足を絡めてくっついてたいから、自然と追いかける腰。

 なんでかはすぐにわかった。


「ごめ」

「……元気だよね」


 男の子ってすごいなあ……もうね、純粋にすごいと思う。


「したいの?」

「ち、ちあが嫌ならいい」


 がまんする、と呟く口を引き寄せた。


 ……ここ最近、甘えて、受け入れることしか出来てない気がする。

 だからこれは、あたしの欲でわがままということにしておこう。


「いいよ」


 がんばらなくてよければ。

 そんなわがままだって、喜んで受け入れちゃうんだから……


 男の子ってすごい。




 つづく。

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