リボン

ゆらゆらときらめくサテンに、目を奪われた。綺麗な濃いめの青で結い上げられたポニーテールは、地下鉄の風にさらりとたなびいて、美しかった。


その昔、リボンで髪を結わえるのに憧れた。きっかけは覚えていない。しかし憧れは強く、ケーキ屋さんのリボンやサンタさんからのプレゼントにかかったリボンを手に入れては長い髪を束ねようと奮闘した。


しかし平べったいつやつやは、私の髪にはまるで引っかからなかった。すぐにするりとほどけて落ちてしまう。こればかりは母に頼んでもダメで、リボンはお菓子の缶にためこまれるばかりだった。


中学生くらいになって、ヘアゴムで結んだ上からおしゃれとして付け足すということを知った。


そのときの気分は絶望的だった。利便性と可愛らしさは両立できない。何事にも裏側がある。世界の厳しさを知ったような心もちで、私は雑誌に載った色とりどりのシュシュを眺めていた。


可愛いものは得てしてそうで、何かしらの不便や制約がつきまとう。わざわざ黒ゴムで結った上から飾りをつける、そのひと手間がどうにも面倒で、飾り付きのゴムをそのまま使っていた。


ちなみに髪が多いので飾り付きのゴムはすぐにのびのびになってだめにしてしまう。それでも「着飾りたい乙女心」に「ズボラ心」が勝っていた。


そしてズボラ心に従った結果、私はショートにした。ショートも面倒じゃん、という声が上がりそうなものだが、ちょっといいシャンプーやちょっといい櫛を使えばうまくまとまるのであまり気にならない。


しかし。


リボンがひらひら揺れるポニーテールへの憧れは、社会に出た今でも捨てきれていないようだ。

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