Going ago/Coming ago 09


静観を選択した。

高みの見物ではないが、ガタガタ騒いでも意味はない。


「主、そう縮こまっては余計に目立つだけなのでは?」

「そうはいってもさぁ、藤丸、怖えものは怖いだよ」

涙目の主も愛らしくていらっしゃる。

「では私の後ろにお隠れ下さい、何もないよりはマシでしょう」

とはいえ、この光景を見ていれば年頃の少女に見せられるものではないことが理解できるだろう。


前に広がるは彼の代物を杖のように振り回す大男。

眼は血走り、表情は鬼気迫る。

農作業で出来たらしい傷跡と寒さで凍り壊死した傷口が生々しい。

正直このまま眼前に出てきたらうっかり攻撃してしまいそうな程度には怖い。


何でも村一番の大男で、相撲の名手なのだとか。

これを含めて3人が果敢にも挑み、どれも認められずに退場していった。

ある者はこれは新しいものさしだといい。

またある者はバットのようにして球を弾くものだといい。

そして、今の大男はこれは戦用の杖である、見事な演武をお見せしよう、と。

まあ、列席の顔を見やるに、美しいわけではないようだ。

むしろかなり視界の暴力らしい。

あ、退場した。

というかこの時代すでに野球の概念とかあるのだろうか。

かなり画期的じゃないか?顔は覚えておこう。

その後も挑戦者は犠牲になり続け、10人を超えたあたりで打ち止めとなった。


「他に誰ぞ居らんのか?」

呼びかけるが、得られる利益よりも不興を買う方が恐ろしいのだろう。

皆尻込みしている。

ヤベ、目が合った。


「そういえば、我が娘が新しく家臣を得たそうだ」

城主の表情を見て悟る。

……これが理由か。

体のいい面目を付けて娘に付く悪い虫を排除する。

育児放棄した親とは思えないほどにいい父親だよ、まったく。


「では、やって見せよ、えーと?」

「藤丸と申します」

「そうかそうか、出来ねば娘には今後近寄らぬように」

「そんな、困るだよおっとぅ」

身を乗り出そうとする主を押しとどめる。

「ここでお待ちください、貴方が相対すのは無謀です」

「うん?どうした?やらぬのか?」

実に白々しい。

まあ、命の恩人の父親といえども、その宝物を放置するわけにはいかぬので。

「では、先にお願いしたき事がいくつか」

「ほう?ほう!ほう!やってもおらぬのにか!良いぞ良いぞ、申してみなが」

火縄銃、ポルトガルから伝来した日本で最も有名な銃。

「この代物、見事扱えた暁にはその木箱ごと頂きたい」

これ、猟銃には持って来いなのだ。

「あと、一回オーバーホール完全分解・精密点検しないと危なくて使えたもんじゃないのである程度期間をいただきたい、整備のための場所も」

「「「多いな!!??」」」

仕方あるまい、赤錆が浮いた、低精度の初期型、火薬は確実に湿気ている。

こんなのがマトモに動くはずがない。

しかし、直せるかなコレ。

暴発してお陀仏とかシャレにならん。

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