Going ago/Coming ago 05

その昔、こんな会話があった。

「ほほう、これが献上品か」

ふむ、懐かしい御仁。

城代、儂が幼い頃。城を治めていた男だ。

「ええ、堺では大変な人気があります」

「では貴重なものではないのか」

「いえいえ、これも商い物、快く取引させていただきました。

堺とはそういうものであります」

「ふむ、どう使うのかとんと見当もつかぬが、まあいいじゃろう」

「それでは?」

商人は何かを期待するように目配せする。

「よかろう、褒美を取らせる、おい、ここにあれを持て」

「はっ、ではこれを」

有力な一族の男、このころはまだこんなにも若かったな。

「望みの書状じゃ、好きにせい、えっと、なんじゃったか」

「長谷川でございます」

「そうじゃった、今後とも励むがよい」

「ありがたく」

場面が切り替わる。

「城代様、なしてそんなガラクタ受け取ったんだ?」

若い、未だ童子の自分を見るのは奇妙な感じがする。

時折見る池に映った自分の顔とは似ても似つかない。

「おお、若様。なんでもこれが堺で人気の代物らしいぞ」

「堺……。なんだばそれ?」

堺の名は広く知れ渡っている。

まだ未熟な自分の知識の浅さ、まあ今も浅いのだろうが。

「大きな湊じゃ、商いが盛んでな、船が常に往来するのよ」

「はあ、よくわかんねぇけど凄いんだな」

「そうじゃ、若様が城主となるとき差し上げよう」

ああ、そういえばあのガラクタはどこにやったのだったか。

「いいんだか?」

「良い良い、どうせ使い方など我ら田舎侍にはわかるまい。

まあそれまでは預かっておくがの」

あの後、興味を失ったのか調べることもしなかった。

「ありがたやありがたや」

今は、倉庫にでも保管しておいたのだったか?

ああ、宝物庫の奥に木箱で入れておいたのだった。

ならおそらく捨ててはいないだろう。


……ふむ、余興にはちょうどいいか。

しかし、何なのだろうなこの珍妙な夢は。

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