This is a apple/That is a citron 02

見覚えのない部屋が視界に映ったとき、自身がどうなったのかを察した。

囲炉裏の灯が燃えている。

その傍らで舟をこぐ女性を見やり、声をかける。


「もし、そこの御方」

「へゃあ!あ、お目覚めになられましたか」

少しだけ愉快な声で意識を直ぐに現世のものにしてくれた女性はこちらに向き直り。

「ええと、こんなときどうせばいいんだべか、あの」

「あなたが私を救ってくれたのでしょう。あの雪の中から」

特徴的な方言言葉が出るほど慌てている女性を落ち着かせるように、出来るだけ柔らかく確認を取る。

「は、はいい」

「やはりそうでしたか、ありがとう。命を救われました」

「い、いえそんな。御貴族様に気を使われるようなことでは」

どうやら勘違いをしているようだ。

「ああ、私は貴族ではございませんよ、しがない旅人、とでも言いましょうか」

「ええ、でもその、立派なお召し物は」

「只の普段着です。失礼ですがここはどこでしょう?」

「城の離れだ、いえ、です」

「城?あ、そうではなく、土地の名前や、あるいは国の名前をお願いします」

この時点で嫌な予感が脳裏を駆け巡った。

「?奥州の津軽ですが」

「えっと、今何年でしょうか?」

「永禄3年です」

私は頭を抱えた。


永禄3年、桶狭間の戦いで有名な。

そう、薄々予想をしていたが戦国時代である。


そして、最悪なのが。

ここが、津軽の地だということだ。

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