おまけ

戦場の記憶

load_



かつて賑わっていた市街は墓地よりも生気の失せた廃墟となった。

山河には角や尾を持つ亜人の軍勢。空は火の鳥、浮遊する人頭らがひしめいている。


地獄の者どもにより蹂躙された人界。


穏やかな気配が消えうせた世界。

あるのは怒号、悲鳴、地響き、雷鳴、爆発――戦の音。


戦場の中心では、金属の箱に人面を据えられた電脳司令が両目を明滅させながら戦場を統率している。


『彼』が収まっているのは山すら見下ろせる巨大な機械亀の甲羅の天辺。

正面に敷かれた本陣と並行して世界各地の戦況を瞬時に把握し処理を行っていた。



「地獄軍が南極大陸より侵攻しています!中国支部より増援要請!」


「シルクロード戦線まで誘導せよ!特級退魔士『白炎』出撃体勢!」


霧に包まれた幽谷の巨山が二つに割れ、白い岩石の身体を持つ巨猿が姿を現す。

搭乗する仙人の導きにより、空中を駆ける白猿はたちまち雲の向こうへ消えていく。



「ヨーロッパ西部戦線の吸血鬼部隊を撃退!特級退魔士『ゼウス』もシルクロードへ合流するぞ!」


累々と横たわる紫肌の鬼の死骸はみるみるうちに灰と化し風にさらわれる。

白金の鎧を纏った戦士は上空から敵の全滅を見届け、握っていた雷の槍を掌中からかき消した。

勝利したものの無事ではなく、身に纏った鎧のわき腹や片脚に深々と傷をつけられていた。


搭乗者ナビゲーターが負傷している!一旦下がれ!」



瓦礫の町並みを踏み荒らしながら、巨大な武者鬼の大軍が歩いてくる。

行く手を阻まんと仁王立ちするのは、ただ一人の機械武人だ。


「極東支部基地より『オオキミ』出撃しました!神器『瑞龍剣』の使用許可を求めています!」

「70秒後に使用許可!上級退魔士部隊は直ちにオオキミの後方へ撤退せよ!」



「インド洋に敵増援だ!『D51000』はこれより変形して迎え撃つ!」


二本の線路に跨り湾岸を爆走する黒鉄色の弩級列車は、先頭車両から同じく黒鉄の巨腕を伸ばした。

地面に爪を立て火花を散らしながら強引にブレーキをかける。


連なる車輌が積みあがる様にして人型を構成し終えると、アトミック蒸気機関が燃焼し両腕から青白い蒸気を噴出。


「100cm二連装列車砲スタンバイ!まとめてフッ飛ばしてやるぜ!!」

黒鉄の巨人は線路から立ち上がり、両肩の巨砲を水平線の彼方へ向けた。



「こちら『マッコウキング』!ベーリング海にて魔大蛸と遭遇!交戦中である!!」


光も届かぬ深海。原子力潜水艦のようなボディにまとわりつく巨大な蛸足は海溝から伸びている。


潜水艦の艦首に位置する巨大な潜水服の上半身が、手にした銛を射出し蛸足に突き立てた。

繋がったケーブルを介し電撃を浴びせると同時に、船体ハッチからコバンザメトーピードを海溝へ撃ち込む。


数秒後、怒り狂った巨蛸が本体が果てしなく暗い水底から姿を現した。

古代海底文明の勇者は、自身の三倍はある海の魔物と対峙し身構える。


「シベリアから『アンモパラディン』を向かわせる!それまで持ちこたえろ!」



草原の片隅で、独特のリズムで太鼓を打ち鳴らし、何事かを一心不乱に唱え続ける一団が居る。

「アフリカ戦線の呪術工作隊より念話通信!特級退魔士『グレートジュウカイザー』が合体シークエンスに入りました!60秒後に戦闘展開します!」


サバンナを我が物顔で闊歩する巨大な人面甲虫を牙をむいて取り囲んでいた鋼の猛獣達は、シャーマンの祈りを得て姿かたちを変え始めた。


濃緑色の巨象は体躯を割って両脚と腰になり、その上に乗った青いバッファローも全身を展開。

一拍遅れて跳躍した銀のサイは完全に身体を二分割し、一対の腕となってバッファローに接続される。

胸から上の無い五体を完成させるのは赤色のライオンだ。胸部に収まった百獣の王の頭頂から、もう一つの頭部がせり出した。


瞬く間に完成した巨大な戦士に影が落ちる。上空には大型旅客機に迫る翼長を備えた機械の大鷲。


鷲の身体がバラバラに分解して巨人戦士の鎧と翼となる。

大自然の魂を宿した無敵の獣皇帝が、ここに完成した。



かつては人びとが集い球技に興じていたドームの屋根を踏み破る蹄。

途方も無く巨大な人面牛が一歩踏み出す度、辺りに大地震が発生する。

進攻を止めようと足元から重火器で攻撃を加える退魔士だが、まるで歯が立たない。


「上空から援護を頼む『$◎<■◇△』!」

電脳司令は、人間の可聴域では聞き取ることの出来ない音声で大気圏外へ呼びかけた。


宇宙空間に静止する銀の円盤。

その円盤に、上下の概念が存在する我々から見ればに立つ銀尽くめの巨人。

全身が凹凸のない金属のような何かで覆われているが、その表面は常に流動している。


銀巨人が首を仰ぎ、眼下の青い惑星へ両手を伸ばす。

足下の円盤が太陽の光を吸収すると、惑星へ向けて一筋の光の束が伸びていく。


ほぼ同時に、地上を悠々と歩いていた人面牛の周囲を光が包み、そして、すぐに消えた。


音も無くきて音も無く去った光の跡には、臓腑をくり貫かれ全身の体液を絞りつくされた人面牛の死骸が横たわっていた。



「亜空間レーダーに反応あり!」

電脳司令が通達すると同時に、機械亀の視線の先で空間が歪む。


姿を現したのは巨大な鋼鉄てつの巨体。

地獄の魔族を統べる王にして、最強の切り札。


「――地獄王出現!急行可能な特級退魔士は犀の河原へ集結せよ!」




save_

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る