第6話

ん? また夢?


もうアタシは、周りの雰囲気だけで、時間旅行タイムリープしているかどうか、分かるようになっていた。


しかし、久々の時間旅行タイムリープだ。一瞬戸惑ってしまった。


あたりを見回す。そこは、以前と同じこうたの部屋であった。


そして、目の前には机につっ伏して泣いてるこうたがいた。


「どうしたの?」


「お母さんに……成績悪いって怒られて……」


机の上には、「中学受験」と書かれた参考書が置かれていた。


この頃から、受験させるなんて……こうたのお母さんは、教育熱心だったんだな。


「大丈夫だよ。こうたなら、将来、めちゃくちゃ勉強できるようになるから」


アタシはこうたを励ますつもりで、言葉を投げた。


こうたは、うつむいて顔を、アタシに向けた……。


そして、睨みつけて言った。


「お姉ちゃんに何が分かるんだよ! こんなに頑張ってもダメだったんだ! もう無理だよ! どうせ、ボクは勉強できないし、運動もできないし、ダメな人間なんだよ! 何が受験だ! 何が将来だ! そんなの知らないよ! なんで、皆、僕を分かってくれないの!? もうお母さんは嫌いだ! わからず屋のお姉ちゃんも大ッ嫌いだ!!」


そう叫んで、こうたは部屋から飛び出した。


「ちょっと待って!」


こうたを追いかけようとした途端、夢から覚め、手を伸ばした先には、いつもの自分の部屋の天井があった。


▷▷▷▷


その日、登校したら、こうたの姿がなかった。


あんな夢を見たからか、自分のせいではないかと心のどこかで思ってしまう。


そのまま、ホームルームが終わってしまった。


こうたがいない……。まるで片方の翼が折れてしまった比翼ひよくの気分だ。


すると。


「かなえ、この後、職員室に来い」


と担任に呼ばれた。


▷▷▷▷


「はい」


担任から、紙を一枚もらった。


「『はい』って、何ですかこれ?」


「プリントだよ。ホームルームで配った」


「いや、アタシ貰いましたから」


「違う。こうた君の分だよ」


え? この人なんて言った?


「届けて来てくれないか? はい、これ住所」


公務員として、そんな簡単に、プライバシー侵害していいのか?


住所を確認したら、アタシの家に近いことが分かった。


だから、アタシを指名したのだろう。


「分かりました。とりあえず、学校終わったら、こうたに届けておきます」


「まあ、彼の家に行っても、こうた君はいないんだけどね」


はい? この人しれっと何言ってんだ?


「家出したらしい。朝、お母さんから電話かかってきた。昨晩、こうた君とお母さんで喧嘩したんだと」


「喧嘩……」


それはまるで夢の中のアタシとこうたみたい……。


「こうた君、元々、偏差値の高い名門私立校に通ってたんだよ。


そこの勉強についていく為に無理をしてたら、体調崩した。


結果、退学してここに転校してきたんだって。


でも、転校して来ても、夜遅く勉強してて、体の心配をしたお母さんが注意したら、逆上して、家を飛び出したんだって、電話で聞いた」


本当に、どこまで個人情報を漏らすんだよ、この人……。


アタシの頭の中に、嫌いな勉強を押し付けられたこうたの姿が思い浮かぶ。


なんで、そんなやつが狂ったように勉強するように……。


「なんで、あいつ、そこまで勉強するんですか?」


「『罪滅ぼし』らしいよ」


「『罪滅ぼし』? 誰への?」


回転式の椅子を回して、振り向いた担任は、アタシの目を見た。


「……お姉さんへの、だって」

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