第3話

ん? ここは?


そこは知らない部屋。窓の外からは団地が連なっているのが見える。


多分、ここも団地だろう。団地特有の古びたにおいが漂う和室。


振り向くと、そこには、勉強机に向かって勉強しているこうたの姿があった。


体は少し大きくなって、小学生くらい。机の隣にはランドセルがかけられてある。


また、知らぬ間に時間旅行タイムリープしたのか……。


すぐ様、状況を把握し、こうたに話しかける。


「あれ? 勉強偉い……」


前言撤回。つい勉強机に向かっているから、勉強しているものだと思ってた。


しかし、彼が手にしてたのは、漫画雑誌のグラビアであった。


……この頃から男はこういうものが好きなのか。


見つけたのが「男はエロ本を読んでてなんぼ」という少しずれた感性(自覚あり)を持ったアタシであったことは、不幸中の幸いだろう。


「うわ! お、お、お姉ちゃん!」


こうたは驚きのあまり、椅子ごと背もたれから転倒する。


「こら! そんなの見てないで、勉強しなきゃダメでしょ!?」


一応、建前だけでも、まともなことを言っておこう。


「ご、ごめんなさい……」


ん? こうたの顔をよく見ると、目の横に青いアザがあった。


「その怪我どうしたの? 喧嘩?」


「…………」


こうたはうつむいたまま、顔を上げようとしない。


アタシは察した。たぶん、この子は喧嘩に負けたのだろう。負けず嫌いだからな、こうたは……。


アタシは頭を撫でながら言った。


「とりあえず、ご飯にしようか? お母さんがもうご飯作ったと思うし」


先ほどから、かすかに空いた扉の隙間からいい匂いがしてきていた。


こうたも話がそらされたのを好機と見て、「うん」と頷いて台所に向かった。


アタシもお腹空いたし行こうかな、と思った矢先に意識が遠のく。


▷▷▷▷


「おい、この問題答えろ」


「へ?」


ヨダレを垂らしながら、寝ぼけ眼で目の前の強面の数学教師を見つめる。


「…………それは、あゆみちゃんが知っています」


「お前が答えろッ!」


丸まった教科書がアタシの頭からいい音を奏でた。

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