最終話 共同作業とエピローグ

 それから俺達はリビングに戻って、哀來に気になっていた事を聞いた。

「なぁ、何であの子に俺達の出会いの話をしたんだ?」

 いろいろ短縮していた部分もあるがあれくらいの子には難しい話だ。

「わたくし、いつか小夜様との出会いをわたくし達の子供に教えてあげたいのです。『こんな事があったから貴方は産まれたのよ』って」

「俺の復讐心から産まれた、って聞いたらどんな顔するんだろうな」

 あまり良い反応ではないと思うが。

「確かにあまり良い話ではありません。犠牲になった方も多いですから」

 親父、柏野さん。そして哀來の親父さん。

 この男達が犠牲になって今の俺達がいる。

 一生かけても感謝しきれないだろう。

 その分哀來と、これから増えていくであろう家族を大切にしていかなければならない。

 親父、義理父さん! 

 貴方達の死は無駄にはしません!

 まだ時間は掛かりますが約束どおり俺と哀來は結婚します!

 もう哀來をあんな悲しい目に逢わせたりしない!

「小夜様。明日は休日です。今日柏野の所に行けなかった分、明日は早く行きましょう」

「そうだな」

 柏野さんの取り調べはまだ続いている。

 いつかの裁判に向けて俺達も心の準備をしておかなくちゃな。

「差し入れも持って行きましょう。」

「そうだな」

 ガチャ

 リビングのドアが開き、アルトが何か持って入って来た。

「小夜にきてた」

 そう言って渡してきたのは封筒だった。

「どちら様からですか?」

「宛先は……!?」

 こ、拘置所!?

 ま、まさか……アイツから……!?

「どうしました? かなり驚いているみたいですが」

「いや! 何でもない!」

 俺はつい、封筒を強く握り締めた。

「そ、そうだ! そろそろ夕食をつくった方がいいんじゃないか? 今日はお袋遅くなるって言っていたし」

「そ、そうでした! 早く準備しないと!」

 哀來は急いでキッチンへ向かった。

 俺はその隙に封筒を持ってトイレに入った。ここなら誰にも見られずに見る事ができる。

 封を切って中身を見た。

「やっぱり……」

 大光からだった。

 コイツからの手紙は読んでおく。『哀來を取り戻す』なんて事が書いていたら大変だからな。

 内容はこうだった。

『朱雀小夜、私だ。二ヶ月ぶりと言うべきか? 私は正直、貴様には完敗した。父親の仇をとる為に哀來に近づき、そして私を代用監獄行きにするとは恐れ入った。

 貴様も思っているかもしれないが私は死刑を逃れられないみたいだ。当然と言えば当然だ。2人の男、1人は実の兄を手にかけてしまったのだから。

 ここでの生活はきつい。今まで思い通りの生活をしてきた分、自分の罪の重さを感じている。

 私は十分に反省している。どうか一度哀來に会わせてくれ。

 死刑になる前にでも哀來の顔を見たい。可愛い姪でもあるのだから。

 

 P・S 君の演奏はすばらしかった。君を燕家の専属演奏家として雇いたかった』

「……」

 俺は正直どう反応していいかわからなかった。

 最後だったせいかP・Sの部分が特に印象に残っている。

 犯人に褒められるなんて変な気持ちだ。

 これはまだ哀來には伝えないでおこう。

 あれから半年を過ぎたら様子を見て考えよう。

 俺は手紙を封筒を封筒の中に入れて自室に行き、引き出しの中に閉まった。

 キッチンの方へ行くと哀來は包丁で野菜を切っていた。どうやらサラダをつくっているみたいだ。

「手伝うよ」

「ありがとうございます」

 俺は切った野菜を皿の中に入れていった。どれも同じような量で入れていかなければいけないので難しい。

 途中から野菜を切り終わった哀來も加わり、作業のスピードが早くなった。

「できた!」

「できましたね!」

 きれいに4等分できた。

 ……そういえばこれが哀來との初めての共同作業の様な気がする。

「小夜様……いろんな事がありましたが、わたくしはこれからも」

「!?」

 哀來がいきなりキスしてきた。


「これからもずっとアナタを愛し続けます」


 満点の笑みでかけられた言葉に俺は迷わず返事をした。


「俺もお前を一生愛し続けるぞ! 哀來!」


                  ~完~


ご愛読ありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

復讐しに行ったら自分好みの女がいた(改稿前) 初夢なすび @hatuyumenasubi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ