第11話 攻撃力最大・・・

残酷な表現ありです苦手な方は、ご注意ください


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 この『試し』で見る限り、まっとうな格闘技術を持つ対戦相手はいなかった。

今回の対戦相手も『回復魔法』こそ使うが攻撃自体は単調で直線的。

ディフェンスも無きに等しい。ドロ試合を『回復魔法』の力で手に入れた相対的なタフネスにより勝ち残って来ただけだろう。

だからキールにはいつも余裕があった。だからこそ、相手を思いやる事が許された。

今のキールにはその余裕は無い。相手の攻撃をかわし、タイミングをはかる。

1撃で決める。相手に回復魔法を使う余裕を与えず終わらせる。その1撃を放つタイミングを。

これじゃない。つかみかかってくる相手をかわす。

ピクリと反応するが、違う。もう少し高い位置への攻撃を・・・

これか・・・違う。もっと体重を載せてこい。

き・・た。わずかに体を沈みこませ、相手の意識を下に向ける。

相手の右腕のさらに外側から大きくフルスウィング。相手の視線を意識を誘導し作った死角からの大きなスウィングブロー。

この『試し』で初めてキールは拳を使った。

相手の突進力さえ利用する左のカウンターブローが、相手のコメカミを正確に捉えた。

頭骨は硬い。嫌な感触と共に左拳が砕け、相手の頭骨がひび割れる。

全てのエネルギーを吸収し、その場に崩れ落ちる対戦者。この段階でおそらくは意識は既に無いが、攻撃を止めるわけにはいかない。左拳という代償をすでに払ってしまった。ここで相手が意識を回復し『回復魔法』を使われたら。一気に流れは相手に傾くのだから。

攻撃により逆に相手が意識を取り戻すリスクを避けるため、攻撃は頭部に集中する必要がある。

既に意識のない相手の頭を蹴り上げる。嫌な感触だ。これは相手の首をくじいただろう。

まだ止められない。勝負ありの判定が出ていないからだ。

相手の目・鼻・口から赤いものが流れているのを見ながら、さらに蹴り上げる。

まだか、まだ判定は出ないのか。

横たわる相手の頭部を踏みつぶす。グシャリと相手の頭部の砕ける感触が伝わる。

もうこれ以上はダメだ。とめてくれ。

しかし、まだ判定は出ない。

更にキールは再度相手の頭部を踏み砕く。

一瞬相手の体がビクンと跳ね完全に力を失って横たわった。

ここにきてようやく判定が下った

「勝負あり」

闘技場の地面にぼろ布のように横たわる人間だったもの。すでに息をしていない。

『勝った。勝ったが最低の気分だ』







吐き気を抑えながら戻ると、クーフェンが居た

「良く勝った。回復魔法の使い手が相手の場合は今回のように『殺せ』。意識を失っても、意識さえ戻れば相手は回復し襲ってくる。だから判定員も回復魔法の使い手は生きている限り闘えると判断する」



キールは無言で立ち尽くすしかなかった

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