17 絶望の利用

 “聖女の賛美歌”付近に到着したウィルは今、鐘塔付近の物陰から鐘塔の様子を観察している。


「まだこんなに……」


 まず驚いたのが、“聖女の賛美歌”で待ち受ける『人の使徒』の残党の数だった。ウィルが“宵闇の礼拝堂”で全滅したと思っていた『人の使徒』は、まだ数十人規模の戦力が残っているらしい。


『ウィル、これでは……』

「……ええ。突入するのは無謀だ」


 いくらウィルが手練の聖騎士だとしても、数十人規模の兵士を相手に立ち回れるほどの実力差はない。何も考えなしに突入してしまっては、ウィルは瞬く間に『人の使徒』の残党に殺害されてしまうだろう。


 では忍びこむのはどうか。それも難しい。リーゼの血が安置されているのは地上10階程の鐘塔の最上階にあたる。この“聖女の賛美歌”はかなり大きな鐘塔だが、塔への入り口は正面の正門しかない。そして正門の周辺は『人の使徒』の残党の数人が微動だにせず周囲を警戒しながら守っている。あの残党たちがなんとかならないかぎり、やはり突入しても見つかってしまうだろう。


 ウィルの心に焦りが生まれる。あの男……エミリオは今何処にいるのだろうか。自分はあの男が虐殺者の手にかかるのを防ぐためにこの場に来たのだが……


「リーゼ。エミリオがどこにいるのか分かりませんか?」

『彼がどこにいるかは分かりませんが、“目”のペンダントであれば、すでにこの地に来ています』

「どこに?」

『正門から南に進んだところです。私達とは違って、鐘塔を囲んでいる城塞の外側でしょうか。その場から微動だにしてないようですね』


 “聖女の賛美歌”は敷地の中央に巨大な鐘塔が建っており、それを囲むように城塞が建てられている。南から鐘塔を目指した場合、城塞から鐘塔までは障害物がなにもないため、身を隠しながら接近することは不可能だ。ウィルは西側から城塞を越えて鐘塔に接近している。西側からなら何本かの木々が植林されており、そこで身を隠すことが可能だ。


 エミリオには“目”の封印の確認を頼んである。ひょっとするとその“目”の持ち主がエミリオなのかもしれないが……どちらにせよ確証がない以上、それはエミリオではないと考えておいたほうが良さそうだ。


 ではユリウスはどこにいるのか。ああやって『人の使徒』の残党がこの地を警備していることから考えると、ユリウスはすでにこの鐘塔の中にいるのかもしれない。ヤツの狙いが何かは分からないが……あの虐殺者はどうだ? 街中で人が集まっているのはこの鐘塔のみになる。故に血と戦いを求めてこの地に姿を表すことは充分考えられるが、残党たちの様子を見る限り、また訪れてはないようだ。


 動けない。何か状況が動き始めるキッカケがなければ、こちらが行動を起こすことは不可能だ。何も出来ないのならば、待つしかない。


「リーゼ、ココで待ちましょう」

『まだ侵入はしないのですか?』

「あなたのペンダントを血のプールに投げ込むのはいつでも可能です。急ぐ必要はあるかもしれませんが、急いては事を仕損じる」

『わかりました。あなたに従います』


 一方でエミリオもまた、鐘塔から見て南の方角にある城塞の入り口付近で足止めを食っていた。それは奇しくも、ウィルに憑依したリーゼが“目のペンダントがある”と言った位置に近かった。


「……」

『エミリオさん、これじゃ……』

「ああ。これじゃ敷地内に入れない」


 エミリオたちは鐘塔の南側にいる。南側は城塞と鐘塔の間には障害物やオブジェクトは何もなく、物陰に隠れながら侵入することは出来ない。


 さらに、城塞から鐘塔までの道のりは、数十人規模の『人の使徒』の残党がひしめいており、見つからないよう静かに素早く鐘塔入り口まで移動することも不可能だ。エミリオもまた、ウィルと同じく足止めを食っていた。


『エミリオさん、あの騎士の人……』

「うん。ウィル?」

『はい。鐘塔から見て西の方角にいます』

「この周辺まで来てるか……なんで分かったの?」

『“心臓”と“舌”がその辺にあるのを感じます』

「そいつがウィルってことか」

『はい……』


 リーゼの声からは悔しさがにじみ出ていたが……やはりエミリオの心には動揺はない。むしろリーゼの報告を聞いて、胸がホッとする不思議な感覚を覚えている。


「“右腕”は? あれも封印は破られてるはずだ」

『“右腕”はあの鐘塔を登ってるところですね』


 今までの流れから考えると、“右腕”はユリウスが持っているはずだ。ということはユリウスはすでに鐘塔に入り、何か目的があって鐘塔を登っていることになる。それが何かは分からないが……鐘塔の最上階にはリーゼの血が祀られた巨大な水槽があったはずだ。リーゼ復活を目論んで最上階を目指しているのかもしれない。


 しかし、ココに来てリーゼは力が増したかのように他の部位の位置をピンポイントで教えてくれる。目の封印が破られたことで、リーゼの力が増したのだろうか?


「ひょっとしてリーゼ、力が強くなった?」

『? なんでですか?』

「だって今まで体の部位の場所なんてわからなかったじゃないか」

『私の封印が破られたってのもあるでしょうけど……んー……多分、“心臓”の封印が破られたからじゃないかなぁ。“心臓”は力を全身に行き渡らせるポンプの役割をしてますから』

「そんなもんなの?」

『じゃないかなーと。ぁあー、そういえばエミリオさん』

「ん?」

『肝心の“目”の位置ですが……』


 そうだ。“心臓”の封印が解けて他の部位の位置がしっかりと分かるようになったのなら、まず“目”の位置を確認するべきだった。鐘塔を守っている『人の使徒』の残党にばかり気を取られていたことをエミリオは自覚し、リーゼの返答を待った。


「そうだ。“目”はどこにある?」

『えーと……真後ろ……です』

「真後ろ?」

『はい』


 急いで背後を振り向くエミリオ。周囲はすでに暗く、エミリオの周辺は城塞からの明かりでかろうじて周囲が見える程度の明るさしかない。その闇に紛れるように、一人の女性が立っていた。


「なんでもっと早く教えてくれなかった!?」

『いや、別に邪気みたいなのはありませんでしたし……』


 のんきにそう答えるリーゼを今、エミリオは本気で張り倒したいと思った。リーゼは『邪気はない』と言った。確かにその通りだ。エミリオは戦闘経験は少ないが、今日一日だけでかなりの修羅場をくぐっている。故に、ある程度の殺気を感じ取ることが出来る程度には敏感に成長した。そのエミリオが殺気を感じない。だからその点に関してはエミリオも文句はない。


「……あなた」

「……ッ」

「だれ?」


 だがその女性は、殺気こそ感じないがその出で立ちは異様そのものだ。書物でしか見たことがないような極東の民族衣装に身を包み、両手には乾いた血がこびり付いた極東の様式のサーベルが左右一本ずつ。薄明かりでぼんやりと闇に浮かぶその姿は、顔や衣装が返り血で汚れきっており、その風貌はエミリオに対して、視覚で邪気を訴えかけていた。


 その女性はエミリオを見ると、一歩一歩、足音を立てずに近づいてきた。


「んー……」

「……」

「答えてくれない?」


 一歩近づくごとに、エミリオの経験と無意識が全力で警報を鳴らした。その異様な女性が一歩近づけば額から冷や汗が吹き出し、一歩近づけば左手が恐怖で震える。近づくことで距離が縮まり、彼女の顔が見えてきた。新雪のように白くきめ細かな肌には乾燥した血がこびりつき、その両目は焦点が定まらず、瞳孔は完全に開ききっていた。


「聞こえてる?」

「……ッ!」

「あなた……だれ?」


 ……思い出した。戦場にふらりと現れては敵味方関係なくその場にいる人間全員を惨殺して回るイカれた異国の女性剣士がいるということを、自警団の先輩から聞いた。あの名前は確か……


「あんたこそ……誰だ……?」

「知ってるくせに……」

「“虐殺者ユキ”か……?」

「うん」


 ついにエミリオの目の前まで来たその女性……ユキは、両手に一本ずつ持ったサーベルを足元にガシャンと落とし、エミリオの頬を両手で優しく挟んだ。


「……ッ!!」

「んー……」


 そのまま両手でエミリオの髪をかきあげ、エミリオの首筋を露わにした後、そこに自分の顔を近づけていくユキ。うなじのすぐそばまで自身の鼻を近づけたユキは、そのまますんすんと鼻を鳴らし、エミリオの匂いを確認しているようだった。


「んー……?」


 何かが引っかかるのか……そのまましばらくエミリオのうなじや耳の匂いをかぐユキ。その間エミリオは動けなかった。経験や無意識が感じる相手の力量云々の話ではない。動物的勘がキャッチした異常なものに対する警戒と、それ以上の恐怖心……それがいまエミリオの身体を支配し、身体の自由を奪っていた。


 エミリオの身体は金縛りにあったように動けない。左手は偶然“魔女の憤慨”の柄のところに置いていたため、手に取ろうと思えば、手に取れるはずである。だがエミリオの身体は動かない。


「……あの人といっしょの匂い?」

「……ッ」


 耳元でそう囁くユキのセリフを聞き、エミリオは心臓が飛び出しそうな恐怖に襲われた。そのまま恐怖で動けないエミリオの顔を再び己が両手の平で挟み込み、自身の顔を接近させるユキ。鼻をすんすんと鳴らしながら、互いの息遣いを感じるほどの……唇が触れそうな距離まで顔を接近させる。


『あわわわわわわわ……エミリオさんあばばばばばばばば』


 リーゼの間抜けで場違いな動揺にツッコミを入れられるほど、今のエミリオに余裕はない。エミリオとユキ、2人の眼差しは今、互いが相手の両目から視線を外さない。エミリオから見たユキの両目……それは、とても澄んだ目だった。その奥底に潜む純粋な殺意……己の愉悦のために人を惨殺したいという、子供の無邪気さにも似た殺意が見え隠れするほどに、ユキの両目は澄んでいた。


「あなた……誰かと一緒?」

「……」

「教えてくれない? んーふふふ……カワイイ……かもしれない……」


 薄明かりであるにも関わらず、ユキの頬にほんのりと朱が差したのがエミリオから見えた。少女のような年不相応なほどの純粋でくったくのない笑顔を浮かべたユキは、そのままエミリオの顔から手を離し、二、三歩後ずさる。二人の間に距離が出来たことで、今まで全力で警報を鳴らし続けていたエミリオの警戒心と恐怖心に余裕が戻り、思考力が戻ってきた。


 心に少し余裕が出来たエミリオは、目の前の女性、ユキを観察する。ココに来て初めてユキの全身を観察する余裕が生まれたエミリオは、ユキが首から真っ赤な宝石がついたペンダントをかけていることに気付いた。


「そのペンダントは……?」

「? これ?」


 やっとエミリオの喉が声を絞り出すことに成功した。エミリオの追求を受けたユキは、自身の胸元にあるペンダントを手に取り、それをエミリオに差し出す。


「ほしいの?」

「お前も……リーゼの封印を狙ってるのか?」

「?」


 意識してなくても喉が震え、恐怖心を帯びた声が出てしまう……このユキという女性は、人の恐怖心をかきたてる何かがあるかのように、エミリオの恐怖心に刺激を与え続けている。それほどまでにユキの風貌は異様で、それでいて底の見えない殺気を周囲に振りまいている。


 ユキは不思議そうな顔をして首を傾げる。仕草と表情だけ見れば、年端のいかない幼女の仕草そのものだが、それが逆にエミリオの恐怖心をかきたてていく。


「リーゼの封印が目的じゃないのか?」

「よくわかんない」

「んじゃ、なんでお前がそれを持ってる? なぜそれを手に入れた!?」

「んー……あの人が見つからなくてむしゃくしゃして……斬った。そしたら部屋があって……」


 ユキが広角を上げてニヤっと笑った。その笑顔は、先ほどの少女のような仕草とは根本的に異なる、成熟した淑女が見せる、恍惚と愉悦の笑顔だった。状況が状況なら、その笑顔を見たエミリオは、その身を劣情にゆだねてしまっていたかも知れないほどに、その笑顔は扇情的に写った。


「箱の中に血が溜まってた……その中から見つけた」

「……ッ!!」

「ほしい? だったら上げるよ?」


 そう言いながらユキはペンダントを外し、鎖の部分を持って再度エミリオに近づいてきた。エミリオの身体を再び恐怖が支配し、その身の自由が奪われる。


「く……くるなッ!」

「んー? 恥ずかしい? こわい? こわくないよ?」


 優しく、エミリオに言い聞かせるようにそうつぶやきながら近づくユキの眼差しは焦点が合っておらず、瞳孔も開ききっている。ユキは先ほどと同じくエミリオの目の前まで来ると、エミリオの首にペンダントの鎖を回し、そのままエミリオの首に手を回して身体に密着しながら鎖を留めた。


「クッ……」

「ほらぁ……こわくない。こわくないよ?」


 その間、エミリオはまったく動けなかった。心臓はユキを警戒して倍近い速さで鼓動し続けた。肌は過敏になりユキの感触を必要以上にエミリオに伝え、脳はユキに首を絞められ殺害されるイメージを作り上げてエミリオの脳裏に刻みつけた。全身がユキの接近を警戒していた。


「は……離れろ……ッ!!」


 その言葉を発することが、ユキへの精一杯の反抗だった。この短時間で強大なプレッシャーを休みなく与え続ける虐殺者ユキ。彼女はゴーレム以上のプレッシャーと恐怖を周囲に振りまく存在であろうことをエミリオは感じた。


 一方のユキは、エミリオの精一杯の抵抗もまったく意に介さないようだった。鎖を留めたユキはそのまま先ほどの幼女のようなほほ笑みでウィルを見つめ、満足気にエミリオの頭を優しくなでる。


「こわかったね。がんばったね」

「……ッ!」

「えらいえらい。いい子。きみ、ホントにいい子」


 狂ってる……この女、何もかもが狂っている。生まれてこの方、これほどまでに不快で恐ろしい接触はエミリオにとってはじめてだった。この女はこちらを完全に子供扱いしている。そしてその本人は時に幼女のような純粋さ……時に淑女のような妖艶さと母性でこちらを振り回す。あらゆる女性的なアプローチでこちらの意識を揺さぶってくるが、それらすべての行き着く先は惨殺。


 彼女にとって、惨殺は愛情表現に近いものであろうことが、その恐ろしく澄んだ両目から伝わってきた。彼女の両目は澄んでいる。ゆえに、その奥底も見えやすい。彼女にとって惨殺とは欲望であり、愛情表現なのだ。地面に落ちた二本のサーベルを拾うユキの背中を見ながら、恐怖で麻痺した頭をなんとか回転させて、エミリオはそんなことを考えていた。


「んー……かわいい……でもダメ」

「……」

「……だからね。あそこにいるヤツらで我慢する」


 ユキは拾ったサーベルを両手に一本ずつ持ち、その左手を鐘塔に向けた。ユキがサーベルを向けたその先……そこには、先程からエミリオが頭を悩ませている『人の使徒』の残党どもがいる。


「……いい?」


 まるで父親に懇願する幼女のような上目遣いでエミリオを見るユキ。全身に力を込めてエミリオがなんとか頷くと、ユキの顔は花開いたかのように、パアッと笑顔になった。


「ありがとう!」

「……ッ」

「あいつらで我慢できるあたしは……いい子?」

「……いい子だッ」

「んふー……」


 喉の奥底からなんとか絞り出したセリフを聞いたユキはぞくぞくっと身体を震わせ、次の瞬間……


「ぁぁぁぁああああアアアアアアアア!!!」


 美しい声で狂気をはらんだ絶叫を上げながら城塞内部に突入した。その場にユキがいなくなり、極限の警戒と緊張が解けたエミリオは、


「ハァッ……ハッ……」


 体中の力が一気に抜け、その場にしゃがみこんでしまった。足に力が入らない。全身が生き延びた安堵と喜びを感じているようだった。それほどまでに、エミリオの全身はユキを警戒していた。これほどまでの安堵と疲労は、フレッシュゴーレムの時以上だ。ペンダントを首にかけられたその瞬間からほのかに身体が温かくなっているが、それに気付かないほどにエミリオの身体は緊張でこわばっていた。


『エミリオさん……大丈夫ですか?』

「ああ……だがこれで、あいつらをなんとか出来る……ハァッ……」


 ここまでの恐怖を感じながらもエミリオがユキと相対したのには理由がある。他の者にバレないよう、エミリオは城塞の陰に隠れて敷地の中の様子を観察する。


 敷地に突入したユキは、自分のそばにいた二人の残党を瞬時に惨殺していた。一人は一瞬で左足を切断され、倒れたところをサーベルで刺し貫かれていた。もう一人は左肩から右足までざっくりと斬りつけられた後、血が吹き出したところで腹部を横薙ぎに斬られ惨殺されていた。


「な……何者だッ!!?」

「んふー……ふふふふふふふ……我慢できる……あたし、我慢できるよ? だから……」

「き、貴様まさか……皆を呼べ! こいつは……!!」

「せめて……せめて、ざっくりイかせてぇぇぇぇええええええ!!?」

「虐殺者……がふぉッ!?」

「ぁぁぁあああああああアアアアア!!!」


 城塞の陰から様子を眺めるエミリオが見た光景。それは、狂っているとしか思えなかったあの虐殺者ユキの、まるで剣術教練の手本のような洗練された無駄のない動きだった。


「貴様ァアアア!!!」

「イかせてぇぇぇぇええええええ!!?」


 次々に襲いかかる残党たちを、ユキは次々と斬り捨てていった。鎧を来た男は鎧ごと斬った。兜を被った兵士は頭から兜ごとサーベルを刺した。盾を構えた兵士は盾ごとなで斬りにし、武器しか持たない兵士は武器ごとその肉を削り落としていた。


『エミリオさん! 今のうちに!!』

「分かってる!」


 その混乱に乗じ、エミリオは敷地内に侵入して全速力で鐘塔まで走り抜ける。


「!? 何者!?」


 何人かは走り去るエミリオに気付いた。だがその途端、


「イヤぁ……見て……こっちを見て!! 目を離さないでぇぇぇえええエエエエエ!!?」

「ガファッ!?」

「ぐあッ!?」


 注意を他に向けたその隙を、ユキが見逃すはずがない。エミリオに気付いた残党たちは、ユキが残らず始末していた。ユキの移動の痕跡のようにおびただしい量の死体が積みあがる。そしてその死体の山は今も成長し続ける。


 しばらく走り続けたところで、エミリオの周囲に人の気配がなくなった。残党のすべてが今、ユキの元にかけつけているようだ。鐘塔の正門を見る。先ほどまでいたはずの見張りの姿がなく、正門には誰もいない。やはり全員ユキの討伐に出払ったようだ。背後を振り返ると、ユキと残党たちの戦い……いや、ユキの手による一方的な虐殺が今も続いている。


「……よし。ハァ……ハァ……中に……入るぞ……」

『はい。わかりました』


 さっきはあれほど恐怖していたあの狂った虐殺者に、今は感謝したい気分だった。意を決し、エミリオは鐘塔の中に侵入する。どのような形であれ、この事件に決着が付く。エミリオはそう信じ、正門の扉を開けた。


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