あなたの言う通りにするから

湖城マコト

愛が重すぎる!

「……俺達、別れようぜ」

「えっ?」


 私は一瞬、言葉の意味が理解出来ずに放心してしまった。

 別れる? 別れるってどういうこと? 私、今までずっとあなたに尽くしてきたのに……


「……分かれるって、何で?」

「お前さ、はっきり言って重いんだよ」

「重いって、どこが?」


 私の行動は全て愛する彼のためだ。それを重いというのなら、それは私の愛の重さということになる。愛が重いことの、どこに問題があるの?


「四六時中俺の行動を監視してさ。いくら付き合ってるからって、そんなことされて気分が良いわけないだろ」

「どうして? 私はあなたが好きだから、いつだってあなたのことを見ていたいの。それがいけないこと?」

「物事には限度ってものがあるだろう!」


 何で? 10分おきに連絡するのがいけなかったの? GPSで逐一あなたの居場所を確認していたのがいけなかったの? あなたの携帯から勝手に全ての女の連絡先を消したのがいけなかったの?


「とにかく、俺達はこれでお終いだ」

「そんなの嫌! お願いだから許して。何でもあなたの言う通りにするから」

「だったら――」


 良かった。何か条件を出してくれるということは許してくれるということだ。やっぱり彼は優しい――


「――俺の前から消えてくれ」

「えっ?」


 それがあなたの願いなの? あなたのお願いなら叶えてあげたい。でも、そしたら私はあなたと会えなくなってしまう。

 そんなの嫌! そんなの嫌! そんなの嫌! そんなの嫌!


「そんなの嫌!」


 堪らず私は、感情の赴くままに彼の部屋を飛び出した。


「……どうしたらいいの」


 部屋を飛び出した私は近所の公園のブランコに揺られていた。彼と別れずに済む方法は何かないの?

 頭はあまり良くない方だけど、無い頭で必死に考える。

 失った好感度を取り戻すには、彼のお願いを叶えてあげるのが一番だと思う。だけど、それだと私は彼と離れ離れに。それでは本末転倒だ。

 彼の願いと、彼と別れたくないという私の願い。その二つを同時に叶えるハッピーエンドはないのだろうか?


 目を伏せて私は思考する。


「そうだ、これだ」


 ヒントは思わぬところに存在していた。今の私の状態こそがそれだった。

 起死回生のアイデアを思いつき、私は仲直りに必要な物を揃えるため、ホームセンターへと向かった。




 部屋のインターホンを鳴らすと、彼はすぐに玄関の鍵を開けてくれた。


「何の用だ?」

「仲直りしたくて」

「言っただろ。俺の前から消えてくれって」

「分かってるよ。あなたのことが大好きだから、その願いはちゃんと叶えてあげる」

「……だったら何でここに」

「あなたの願い、叶えてあげる!」


 私は懐に忍ばせていたマイナスドライバーを抜き、躊躇なく彼の右目へと突き刺した。


「あああああああああああ! 目が! 目が!」


 数度捩じってドライバーを抜くと、彼の潰れた右目から血が垂れて来た。これで目標の半分は達成だ。


「お、お前、なななな、何のつもりだ!」


 彼は血に染まる右目を抑えて、必死の形相で私を睨み付けて来た。


 ……どうしてそんな目で見られないといけないの? 


「私は、あなたの願いを叶えてあげてるだけだよ?」

「やめっ――」


 私は彼の残った左目目掛けてドライバーを突き立てた。


「ぎゃああああああああああ! 見えない、何も見えない――」


 彼は痛みにのたうち回った。両目とも徹底的に潰した。これで、彼の願いは叶ったはずだ。


「これで、あなたの前から私の姿は消えたでしょう?」


 これで、これからも一緒にいられるね。




 了


 

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