夕食

「わー、すき焼きや!」

「ひなが食べたいかなって選んどいた」

「ふみ大好き!」

「!?」


 リムジンから降りて玄関から冷たい廊下を通り史月の部屋の襖を開けると、ふわりと甘い匂いがした。

 何かと思って卓上を見ると、もう夕食の準備は整っていた。


 それぞれ座椅子の前に置かれた卓上コンロの上でくつくつと煮えるネギや春菊、豆腐に肉といった具だくさんのすき焼き鍋に、ほうれんそうの胡麻和えとお櫃、伏せられた茶碗、卵と取り皿とレンゲが置いてあり、湯気が立っている味噌汁からは置かれてまだ間もないことを知ることが出来た。その手前には白いおしぼりと黒塗りの箸。


 大好きといわれて固まっている史月に気付きもせずに、ひなこはさっさと部屋の中へと入ってしまった。いそいそと座椅子に座ると。いまだ立ちっぱなしの史月を不思議そうに振り返った。


「どないしたん?」

「別に」


 若干むすりと顔を固くさせて史月も部屋の中に入り、座椅子まで歩いていくと腰を下ろした。


(あ、耳赤い・・・寒かったんやろか)


 お昼と同じようにおしぼりで手を拭いて、お櫃からごはんをよそって。


「「いただきます」」


 2人同時に手を合わせた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る