7月13日 ①

 いよいよB組の見回りに当たる日の昼休みになった。今回はC組も急遽同時に見回りを行うことになり、これに伴って少し先生の数も増やしたみたいで今日は人が多い。昇降口付近で彼らの様子を見ることになった私たち研究部は日差しに照らされた中で生活委員たちの様子をじっと伺っていた。

 大体人数的に集まってきたところで、私たちも少し散らばろうとする。その時、校舎の裏からすごい勢いで飛び出してきた生徒がいた。

「ちょっとあれ」

 美緒ちゃんが声に出したときにはもう彼女、白石先輩は見回りを始めようとする人たちの間で噂話を始めていた。

「みんなみんなー、最近自転車のイタズラが多いじゃん?」

「うん」

「だからこんなことしなきゃいけないんじゃないか」

「お前何で来たんだよ」

「それっぽいの見たことがある人がいるんだって!」

「エー!」

「マジかよ」

「うん、なんでも、人目を気にして立ち去ったり、なんかその人が立ち去った後にはひっかき傷みたいのが自転車についていたり、マジックペンみたいなの持ってうろうろして居たりする人がいたんだってさ! で、どっかで見たことあると思っていたら、ああ、よくこの辺にいる人だと思いだしたらしいんだけれどー」

「おいおい」

「本当か?」

「まあ、体育館裏でそんなこと話しているのが聞こえたんだけどさ! んじゃみんな! 見回り頑張ってねー!」

 白石先輩はこの前以上に饒舌で、まるでミュージカル俳優のように堂々と大声で物語っていた。白石先輩はそのまま私たちには目もくれず行ってしまう。

「白石先輩!」

 私が呼びかけてもかき消されてしまった。

「おい、さっきの白石の話本当かよ」

「体育館裏で話しているんだからいかにも、って感じだけど」

「だったらその人に聞けば犯人分かるじゃん」

「でもどこの誰とか言ってなかったな」

「そういえばね。麻里奈ちゃん、会った人の顔と名前はすぐに覚えちゃうのに」

「本当に行きずりに聞いただけかもしれないぜ」

「マイフェアキティのこともあって先走っちゃったんじゃない?」

 見回りの方はちょっとした騒ぎになっている。

「あいつ余計なことを……」と田村先生が口走っている。

「なんかおかしくない?」

 騒ぎを呆然と見ていた私に、美緒ちゃんが話しかけた。

「へ?」

「だって、白石先輩が聞いたのは単なる噂話でしょ? なのに同級生以外にも聞こえそうなあんな大声。まるで宣伝しているよう」

 宣伝しているように。そうだ、前にあった時にはあんな風に魅せるような話し方はしていなかった。

「そういえば、白石先輩は私たちのことが見えていないようだった。あそこから走ってきて私たちが見えないことはなかったはずなのに……」

 私は周囲をキョロキョロして気付いた。元気と城崎君もいない。

「先輩、元気と城崎君が――」

「ああ、姿が見えない。もしかしたら何か企んでいる」

「えっ」

 私は口に手を当てた。そういえば、昨日生活委員が、とかなんとか変なことを聞いてきた気がする。

 高瀬先輩は田村先生に何か耳打ちしている。田村先生はそれを聞くと、「分かった、こっちは何とかする。危険なことはしないように」と言って見回りの集団に駆けて行った。

「美緒ちゃん、元気たちを探しに行こう」

「その方がよさそうね」

 美緒ちゃんと2人歩き出そうとすると高瀬先輩が駆け寄ってきた。

「2人ともちょっと待って。2人は俺が探しに行く」

「私たちも行きます」

「2人にはちょっと頼みたいことがある」

 高瀬先輩は私たちに用件を囁く。

「どうしてですか?」

「万が一、白石が話した噂の本人の手がかりが犯人にあるとしたら、真っ先に疑われてもおかしくない。2人は身の安全を最優先に。よろしく頼む」

 そう言って高瀬先輩は白石先輩が向かった方へ走っていった。

「やっぱり私たちも……」

「でも、高瀬先輩の言うことも一理あるわ。あっちはすぐに見つかる。それに万が一が本当になったら取り返しのつかないことになるかもしれないわよ」

「そうだね」と私は返事して、私たちも駆けだした。

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