7月11日 1

 週末明け、俺たちは自転車の見回りが終わった後、駐輪場に章を呼び出して話をした。今日はD組の見回りの日だった。今日も川崎先生が田村先生に不満をぶつけてきた。しかし、幸いにもイタズラされた自転車はなかった。

「なるほど、B組の見回りの日に自転車のイタズラが起きているんじゃないか、と。そういうわけだな」

「はい」

 田村先生が短くまとめたところで、話を聞いていた冬樹先輩が「3人ともよく気付いたね」とコメントした。

「確かに気になる話ね。でもどういう関係があるっていうの?」

 牧羽さんが聞く。それもそうなのだ。B組の見回りの日は監視の目が緩くてやりやすい、と言うことはおそらくない。川崎先生以下同じ先生が自転車の見回りについている。

「そこまで絞り込めたのはいいとして、一体どうやって見つけ出すんだ?」

 田村先生の言う通りだ。見回り人数を多くする? 一緒に見回りをする? それとも昼休み中見張っているのか?

「怪しい生徒を見かけたら持ち物検査をする、それくらいしかありませんね」

 冬樹先輩は言う。他の誰からも案が出ない。

「でも不思議ですよね。生活委員や先生方が見回りしていて、教室や職員室の窓からよく見えて、しかも最近は私たちまで見回りして。なんだかこんなに人の目が多いのに怪しい人1人出てこないなんて」

 澄香が辺りを見回してそう言う。

「そういえばそうね。道路からは丸見えなのに」

 牧羽さんもこう言ってフェンスの方を見た。駐輪場は学校をぐるりと取り囲むフェンスの内側に沿って作られている。学校に面した道路からは丸見えだし、歩いている人もいないわけではない。

「とにかくB組の見回りの日まで待つしかなさそうだな」と田村先生が言った。

「次のB組の見回りの日、7月13日には少し見回りに当たる先生を増やしてみるよう掛け合ってみるか。増田ますだ教頭先生辺りならわかってくれるかもしれないし」

「でもチャンスもそれだけですね」

 冬樹先輩が言った。篤志がすぐに「どうしてですか?」と聞く。

「16日から夏休みが始まる。土日にイタズラが起きていないところを見ると、夏休みに入ってまで続ける気はおそらくない。そうなるとさすがに夏休み明けには目的も何もかも忘れてイタズラをやめるだろう。つまりイタズラされる自転車もなくなるということだ。

 だが、犯人が分からずじまいなら、もしかしたら罪悪感も感じないまま自転車のイタズラをしていたこと自体忘れてしまう。そうなれば被害者の泣き寝入りで終わってしまうし、期間をおいてまたこんなことが繰り返されるかもしれない」

「そんなこと、許されるわけがないですよ!」

 篤志が叫んだ。あまりの気迫に、誰も声を出すことができなかった。

 冬樹先輩が篤志の肩を軽く叩くと、篤志は我に返ったようにあたりを見回した。

「絶対に、見つけて謝らせないと……」

 篤志が口走った。

「篤志の言うとおりだ。みんな、絶対に犯人を見つけよう」

「ああ。明日も見回りは行う。B組と他の組との相違点を見つけるにもしっかり行わなくてはならないし、何より今後もこの通りになるとは限らない。田辺君、情報ありがとう。無理にとは言わないけれど、見回りに来られる日は来てくれるかな?」

 章は「はい」と頷いた。

 疑問はいくつかあるにせよ、とにかく来る13日。ここが勝負どころだというのは確かな話だ。これ以上有益な話もないので、今は解散になった。昇降口で靴を履き替えようとしたその時、1人の女子生徒がすり足でこちらに向かってきた。

「コラコラコラー! プリーズギブミーインフォメ―ショーン!」

「囁くような声で言わなくてもいいじゃないですか」

 声量は違うが、紛れもなく白石先輩である。

「あんまり聞かれたくないの! 教室の窓から見てたけどなんかチャリ置き場でこそこそやって! 一緒にマイフェアキティの敵を取るんじゃなかったの!」

 研究部はマイフェアキティだけでなくすべてのイタズラされた自転車の敵をとる。そのために動いていることをわかっているのだろうか……。

「で、どうしたんですか?」

「だからプリーズギブミーインフォメ―ション。知ってること教えて」

 最初から分かりやすい言葉で言ってください。

「じゃあその代わりと言っても何ですが……」

「ん? 何?」

「何で俺のこと分かったんですか?」

 俺は白石先輩とは今まで1回しか会っていない。教室の窓から見ていたのではよく分からなかったのではないか?

「フフン、アタシは人の顔と名前を覚えるのが得意なのだよん。蓬莱君、君だけじゃなく城崎君も小倉ちゃんも牧羽ちゃんも一緒だったし」

「はあ……」

 俺はため息をついてB組の見回りの日、13日に次のイタズラが起こるかもしれないことを伝えた。

「ふーん、B組の見回りの日に何かがある、か。そう考えるきっかけとなったリストとやらは?」

 白石先輩は俺に詰め寄ってくる。仕方なしに俺は日付しか見えないようにリストを折って白石先輩に見せた。

「んー、よく分かんないけど全部1年B組・2年B組・3年B組の生活委員が見回っている日なのね。……なんかヤバくない?」

 自分が2年B組だからか、心配しているようだ。

「何で折ってあるの?」

「わ! 見ちゃダメですよ!」

 一応個人情報を扱っているのだからいくらリストに名が乗る白石先輩でもホイホイ見せるわけにはいかない。そんなこともお構いなしに「うるさい」と白石先輩は俺の口をふさぐ。本当は普段の自分の方がよっぽどうるさいが。

「ふうん、こういう感じ。アタシと全然違うのね……みんな1年生と2年生。しかも同じ日にイタズラされたのは同じクラスの人」

 俺は白石先輩からリストをひったくった。白石先輩の言う通りだ。そういえば冬樹先輩も3年生は被害に遭っていないと言っていたっけ。

「思ったけどそれぞれのB組の生活委員全員に尋問して怪しい人を見なかったか聞いて回ればいいんじゃない?」

 白石先輩が何を言うかと思えば、かなりの難題を提案してきた。

「確かに1年B組は澄香、2年B組は先輩に協力してもらって生活委員に個別に聞くとしましょう。でも3年生はどうするんですか? それに、先生方も見回りにはついていますし、怪しい人を見ているなら誰かが報告しています」

「ん? それもそうか、3年生いないんだっけ。うーん、私も安須美あすみさん、あ、佳奈美のお姉さんね、と佐瀬先輩くらいしか知らないし」

 でも実際なぜここまで目撃情報がないのかは気になる。それに毎回B組の見回りの日。それならば。

「先輩、耳を貸してください」

「何? ……ふーん、面白そう!」

 ちょっと賭けに出てみてもいいのではないだろうか。後で篤志にも話しておこう。

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