第35話 バースト


白銀の狼は絶対的開放感を欲し超越の雄叫びをあげた

その目に映るのは尊敬かはたまた憎しみか

心の闇を取り払った時そこにはただ月が見えるだけだった 



 第三十五話 『バースト』



 追憶の淵の民の協力を求め、コンタクトをとろうとしたタケル達一行。

だが、獣人族と手を組まれ、攻撃を受けて捕らわれてしまう。

地底で出会った少女、ガラ・ハ。彼女こそ、最後の少女として継承者と崇められていた。

しかし、反乱が起こり、タケル達はそれに巻き込まれてしまう。

そして、そこに現れた謎の武神機。黒い大和猛。

その正体とはいったい。


「あ、あれはまるで黒いヤマトタケルじゃねぇか! なんであんなもんがここに!?」

「それにすごいインガです! 乗っているのは……」

「ああ、たぶんあのコロサスとかいうヤロウだな。さっき会った時のインガとはまた段違いに強いぜ!」

「な、なぜコロサスが私を裏切ったのでしょうか? 私にはとても信じられません……」

「ふふふ! 聞こえるか、ガラ・ハ!」

「その声はコロサスなのですね!」

「俺達はいつまでもおまえに従うのをやめたのだ! ここで死んでいくがいい!」

「ま、待ちなさい! 私の話を聞くのです!」

グガガガガガ……ブォオッ!

「うっ……やべぇ! とんでもねぇインガを集中していやがる! ふせろ!」

「いつまでも後継者気取りでいるがいい! さらばだ、ガラ・ハ!」

「やめるのです! コロサス!」

「ちぃッ! 死ぬ気かよ!?」

タケルは、無防備で突っ立っているガラ・ハを抱きかかえて伏せさせた。

「無礼ですよ! は、放しなさい!タケル!」

「いてっ! まったくオテンバなお姫様だぜ!」

ズギャオォッ! ボッゴォン!

黒いヤマトタケルは、急加速で飛び上がり、地底の天井を突き破っていった。

「くっ! ムチャしやがる! このままじゃ、ここが崩れるのも時間の問題だ!」

「それでは早くここから脱出しましょう。さぁゲキル、先導しなさい」

「はっ、ガラ・ハ様……し、しかし、この状況では逃げ道がありません……」

「なんですと? では、私はどうやって地上へ出るというのですか?」

「はぁ……申し訳ありません……タケル殿、どうしたらいいでしょう?」

「地上の人間には頼りません。ゲキル、あなたが何とかしなさい!」

「まったく、後継者だか滑稽者だか知らねぇが、ノンキしてる場合じゃねぇぞ! このままじゃ俺達は間違いなくペシャンコになって死ぬ! いや、それよりも溶岩で焼かれるのが先か!」

「そんな……い、いや! 私はまだ死にたくない! 私は追憶の淵の民の後継者なのですよ!? なんとかしなさい! ゲキル!」

「お、落ち着きください、ガラ・ハ様」

「フン、ここ一番で取り乱すヤツのどこが後継者だよ? それよりも、なんとかしねぇと本当にやべぇぜ……おい? シャルル」

「まってください……ボクが……なんとかしますから……ううう!」

「何をしようってんだ、シャルル? そんなにインガを集中して……うっ!」

ズオオオォ……ム!

すると、不思議なことに、タケル達のまわりの空間が歪んでいった。

「これは銀杏のワザ!……まさか瞬間移動だってぇのか!?」

「みなさん! ボクにつかまってください!」

バシュウ!

次の瞬間、タケル達は光に包まれ、そしてこの場から消えていった。



 地上では、捕らわれの紅薔薇たちが、タケルの帰りを心配していた。

「この振動! そしてこいつらの不審な動き! 何があったんだい、タケル?!」

多数の反乱者によって追憶の淵の民同士の争いが起こり、その少数派は死んでいった。

グゴゴ……ボッゴォン!

そして、地面から突如飛び出してきた黒い武神機。

「まるでヤマトタケルじゃないか!?……でも乗っているのはタケルじゃない! 禍々しいヤツだ!」

紅薔薇は、反乱軍のリーダーであるコロサスの邪悪なインガを感じ取った。

「ふふふ、感じる、感じるぞ! ここには女共がいる! 俺たちが夢見た女どもの楽園があるのだ!」


 追憶の淵の民の男共にとって、女とはたったひとりの気高く尊い存在だった。

しかし、コロサスの目の前には幾人もの女がいる。

そんな当たり前の光景も、コロサスたちにとっては夢のような光景だった。

お互いに厳しい戒律で縛り上げた抑圧は、膨れ上がって弾ける結果となってしまった。

『たったひとりの後継者』という図式が、脆くも崩れてしまった瞬間であった。


「うへへへ! おんな! 女だぁ!」

「なんだこいつらは! 追憶の淵の民と獣人族の共同作戦だってぇのかい? この紅薔薇を甘くみるんじゃないよ! 食らえ! 炎のインガ!」

炎のインガで機械人を焼き払う紅薔薇。しかし、敵の数はハンパではない。

「きゃぁー!」

「うわあ!」

「ネパール! キリリ! くそっ、数が多すぎる!やばいよタケル、早く戻って!」


 一方、こちらはサンドサーペント号。

「くそ、なんだこいつらは! 童魔よりも手ごわい! オババさまは下がっていて!」

マリューは、瀕死の体でみんなを守っていた。そこに、コロサスの黒い武神機がやってきた。

「ふふ、威勢のいいヤツだな。決めたぞ! 俺の女はおまえだ!」

黒いヤマトタケルに乗ったコロサスは、マリューに歩み寄ると両腕で掴んだ。

「くそっ! はなせ!」

「ますます俺好みだな。俺はコロサス、この追憶の淵を支配し、新しくコロサス帝国を築くのだ。そしてこの武神機の力で、地球を我が物にしてやる! ふふふ!」


 その様子を見ていた我王たち獣人族。

「哀れだな、人間ってぇのは。結局、力をもったヤツがすることはどいつも同じ。揃いも揃って地球征服ときたもんだ」

「ほんとだっぴょ……地球がこんなになっても、まったく反省してないだっぴょね」

「これが人間だぎゃよ。まったくバカな種族だぎゃね、タケルも同類だぎゃ」


(……ほんとにそうだっぴょ……あのときのダーリンは、確かにヒドイ男だったっぴょ。

でもそれは、キトラという別の精神に支配さていたからで、今のダーリンにはそういった悪意は感じられなかっただっぴょ。もとのダーリンにもどった感じ……いや、もっと大きく大人になったと感じるだっぴょ……だったらウチらが敵対する意味はもうないんじゃ……)

ポリニャックは心の中で、人間は愚かな生き物だと思っていた。

だが、タケルに対しては、以前のような憎しみは薄れていた。

しかし、それを理解するには遅すぎたのかもしれない。


「誰がバカだって?」


「う、この声はタケル? ど、どこだぎゃ!」

辺りを見回すベン。しかしタケルはどこにもいない。

「ここだ! マヌケ!」

ドギャ!

なんとタケル達は、獣人族の戦武艦、アシュギィネのブリッジに瞬間移動してしまったようだ。

「あら? ここはどこなのかしら?」

ガラ・ハとゲキルはあたりをキョロキョロと見回した。

「すいませんタケルさん、どこに出るかまでは調整できなかったみたいで……まさか、こんな所に……」

「いや、上出来だぜシャルル。おかげでこんな賑やかな場所に出られたんだからな」

「ほう、よく生きて戻ってこられたな、タケル。そのガキのインガに救われたな」

「ああ、さすがレジオヌールの指導者だぜ。俺にはないインガを持っている」

「いえ、行き当たりばったりにやってみましたから、うまく行くとは思いませんでした」

「初挑戦で初成功か、たいしたガキだな。だけどよ、せっかくのそのインガも、こちらにとっては好都合だな。一度に餓狼乱とレジオヌールの頭を潰せるのだからな」

我王は戦いを仕掛けようと身構えた。

「おい、待てよ、俺は戦うつもりはねぇぜ?」

「なんだと? それはこの状況が分が悪いからか? まさかビビりやがったのか」

「ちがうさ……俺はもう、ほとほと人間に愛想が尽きたようだぜ……」

「どういうことだ、タケル。それではまるで、我ら獣人と手を組みたいと聞こえるがな?」

「それもいいかな……だけど、俺が手を組みたいのは、本当に地球を平和にしたいヤツだけだ。人間だからとか獣人だからとか、そんなくだらねぇことは関係ねぇ」

「ダーリ……タケル……」

ポリニャックの目は潤んでいた。またタケルと一緒にいられる。そう思うと顔つきまで嬉しくなってきた。

「騙されるんじゃないだぎゃ、ポリニャック! オラはこんなヤツ信用しないだぎゃ!」

ベンは、昨日のことを思い出した。

「オラは誓っただぎゃ! 人間を倒す! そしてタケルを倒すだぎゃ! うおお!」

ブババ! バシュオ!

ベンはいきなりタケルに襲い掛かってきた。

パンチの連打、そして鋭いキック。それをなんとかかわすタケル。

「おまえのインガには殺気がこもってやがる……完全に俺を殺す気でいるな?」

「そうだぎゃ! オラはタケルを殺したいだぎゃ!」

「そうかい! でもそんなんじゃこの地球は何も変わらない! 誰も救えないぜ!」

「おまえを殺せば救われる者がいるだぎゃ! オラぁ!」

ベンのムガイルは、少しずつであるがタケルを押していた。

「くっ! ちったぁやるようになったな、ベン。誉めてやるぜ?」

「冗談言ったら困るだぎゃ、オラはまだ全然本気じゃないだぎゃ!」

「へん! 冗談までうまくなりやがったか!」

ふたりは、激しく何度もぶつかり合った。

「まてッ!」

その時、我王が立ちはだかり、ふたりを止めた。

「我王さまっ! どうしてだぎゃ? オラにタケルを討たせてほしいだぎゃ!」

「タケル、さっきてめぇが言った人間に愛想が尽きた事……それに、地球を本当に平和にするという事……それがどういうことか見せてもらうぜ。その為に、ここから出してやる」

「がっ、我王さまっ!?」

「黙っていろ、ベン。俺に殺されたいのか?」

「い、いや……そうじゃないだぎゃ……でも」

「おまえの気持ちはわかっている。まずは、タケルがどんなふうに追憶の淵の民と、人間同士の決着をつけるか見せてもらう。それが終わったら、思いっきりケンカさせてやるぜ」

「あ、ありがとうございますだぎゃ、我王さま!」

「へん! 粋な計らいするじゃねぇか。ちょっぴり見直したぜ?」

「よせ、タケル。俺はその女の絶望する顔を見れただけで満足だからよ」

我王は、側にいるガラ・ハに不適な笑いを見せ付けた。

「こ……この無礼者! 私に向かってその侮辱は許しません! ゲキル、何とかしてやりなさい!」

「あ、はい……しかし……」

ゲキルは困惑していた。生身の勝負で我王に勝てる訳がない。

「まったく思い上がった人間だな。いいか、教えてやる! 追憶の淵でてめぇが崇められていたのはてめぇの力じゃねぇんだよ! たまたま周りの環境が、てめぇを物としての価値を上げてくれただけだ!」

「い、一度ならず二度までも……この無礼者ッ!……ううぅ……うわ~ん!」

「おやおや、遂には泣き出しちまったか。とんだ後継者だな、わははは!」

「うわ~ん! うわ~ん! お父様ぁ! あいつをやっつけてよぉ!」

「よ、よしよし、プディン。泣くんじゃないよ……」


 その様子を見て呆気にとられるタケルとシャルル。

「お父様だって? まさかガラ・ハはあんたの娘だってのか?」

「うぅ……そうじゃ。ワシだって好きでこの娘を後継者にしたかった訳じゃない。最後のひとりの女になってガラ・ハの名を継ぐ以上、どうしようもなかったんじゃ……」

「そうだったのか。どうやらあんたも苦労したようだな」

「あの、それでも、ガラ・ハさんには確かにカリスマがありました。それなのに、なぜコロサスについて反乱する者が出たのか不思議です」

「なかなかするどい子供だ……確かに娘に従う者は多かったが、ひとつだけ気になる事があるのじゃ……」

「お父様、それは何なの? プディンには何かいけないところがあったのかしら?」

「そうではないが、後継者になる為には女は完全に生身の体でなければならなかった……だが、この溶岩地帯に囲まれた厳しい環境では、生きていくだけでも辛い事なのじゃ……」


 そしてゲキルは語った。

プディンが幼少の頃、病気にかかって生死を彷徨ったこと。

そしてこのままでは確実に死んでしまうこと。

娘を想うゲキルは、内密でプディンを少しだけ機械化したのだった。

少しでも機械化したら、後継者の資格がなくなってしまうのは当然知っての事だった。

だが、後継者になれることは、追憶の淵では名誉なことだった。

だから、ゲキルはそれを隠し通し、遂にはプディンを後継者にしてしまったのだ。


「そうだったの……この体はすでに機械なのね……それなのに私は、純粋な体だと思っていたのね……」

「すまいない、プディン……親の勝手な都合で、ワシはおまえを危険な目にあわせてしまったのだ……」

「いえ、私こそお父様の気持ちも知らずに……我侭な娘を許してください!……」

ふたりの親子は強く抱き合った。それを見たシャルルの目は潤んでいた。

(親子っていいもんだなぁ……)

「あのなぁ、俺の船の中でクサい芝居はやめろよな」

我王はプイ顔を背けて腕を組んだ。

「さぁ、獣人族の長よ、私の覚悟は出来ました。煮るなり焼くなり好きにしなさい。私は追憶の淵の後継者として、最後を遂げるつもりです」

「おお! さすが我が娘プディン!立派じゃぞぉ! おお、立派だぁ!」

プディンとゲキルは、またも抱き合って号泣した。

「いいかげんにしろ! 鬱陶しいんだよてめぇらは。もう価値のない女なんかに用はねぇ。それより、死を選ぶよりもっと価値ある存在になろうって気はねぇのか? なぁ、タケル」

「ああ、そうだな、そのほうがずっといい」

「でも……どうすれば?」

「俺がなんとかしてみせるさ! あのコロサスってヤロウは、このままにしておけないぜ!」

「タケルさん……ありがとう……」

「けど、それからはあんた次第だぜ、お姫様?」

「わかりました。本当の意味での後継者に、私はなってみせます!」

そう言い切ったガラ・ハの瞳は輝きを取り戻していた。

「それでこそ、後継者、最後の女だぜ!」


 タケルはシャルルの方に振り返った。

無言でうなずくシャルルは、瞬間移動のインガを使った。

光に包まれて消えていくタケル達。その時もタケルとベンの目はお互いを睨んだままだった。

「みすみす見逃すなんて、どうかしちまったのかなぁ、俺も。なぁ、ボブじぃ?」

「ふぉふぉ、さぁてどうかの。ワシは何も言う事はない、オヌシの好きにしたらええ」

「へっ、ボブじぃらしいや。さぁて、ハイネロア達に連絡をしろ! 女の人質を解放しろと!」

我王の命令で、餓狼乱とレジオヌールの女の人質は解放された。

だが、コロサスの命令で人質をとっているものはまだいる。油断はならない。


 我王の命令で人質を解放し、アシュギィネへ撤退の命令を受けた獣人たち。

そしてそこには、我王の側近である獣人三人衆もいた。

「くそっ! どうして我王様は撤退の命令を下したんだ!? わけがわからんぞッ!」

「よしなさい、ガイザック。どこで我王様が聞いているかわかりませんよ。あの方のインガは私達を超越していますからね」

「そうよん、ハイネロアみたいに黙って言う事聞いていれば、私達の地位も安泰するのよん」

「そういうことだ、ミリョーネ。頭を使うのも出世のうちですからね」

「ぐむむ!……だが俺は我慢できぬ! それでは納得できぬのだ!」

荒々しい性格のガイザックは、我王に対しての不審感を積もらせていたのだった。



 そして。瞬間移動で紅薔薇たちのもとへ戻ってきたタケル。

「大丈夫か、みんな!? 遅くなってすまねぇ!」

「タケル、これはいったいどういうことなんだい? 獣人族があたしらを解放するなんて……」

「それはあとでゆっくり説明するさ。それより他の状況はどうだ?」

「サンドサーペント号のキリリさんと、マリューさんと銀杏ちゃんがまだ捕まっています!」

「本当かネパール? どうやらそこには、反乱軍がいるようだな……病人を狙うなんて汚ねぇヤツラだ! 行くぞ、紅薔薇!」

「はいよ!」

「ぼ、ボクも行きます!」

タケルと紅薔薇、そしてシャルルは、捕らわれのサンドサーペント号へと急いだ。


 伝説の武神機、ヤマトタケルにメンタルコネクトしたタケル。

シャルルも同じく伝説の武神機カムイにメンタルコネクトする。

そして、紅薔薇もコスモスグレンで出撃した。

「タケル! ザコはまかせてあんたは黒い武神機を!」

「わかったぜ! 一気にいくぜシャルル!」

「はいタケルさん! ボクが援護します!」

ズガガッ! ボォン!

ヤマトタケルとカムイのコンビネーション攻撃によって、コロサス反乱軍の武神機は次々に破壊されていった。そして、目の前にはあの黒い武神機の姿が見えた。

「いやがったな! マリューを放しやがれ! コロサス!」

「む? あの武神機……この黒いヤマト(ブラックヤマト)に似ているぞ」

「へん! 似ていて当たり前だぜ、それは以前、俺が古の大戦で……ぐわっ!」

「くっくっ、先手必勝! スキだらけだぞ!」

「きたねぇヤロウだ! いいか、聞きやがれ! その武神機は……おわっ!」

「よっぽど余所見が好きとみえる。戦いの最中に何をゴチャゴチャ言っているのだ!」

「だから聞けって! それは、その武神機は俺の……」

「武神機だと? いいかよく聞け! このブラックヤマトは古の大戦時、勇者タケル様が使っていたものなのだ! それを俺が受け継いだのだ! どうだ、驚いたか!」

「だ・か・ら! それは俺が!」

「まさかキサマ、ブラックヤマトの偽者に乗っているということは、この武神機を手にするつもりだな? そうはさせん! キサマなどには渡す事はできん!」

「ちがうって! これはニセモノじゃねぇし、その武神機だって……ああ、もう! めんどクセェ!」

「偽者は偽者らしく死んでもらう! がああっ!」

ズァウオッ!

ブラックヤマトはインガを爆発させ、パワーを一気に上げた。

「ぐっ! でけぇ口叩くだけはあるな!」

「きえええええッ!」

メキメキメキ!

尚もパワーを上げ続けるブラックヤマト。

「ううっ? この攻撃的なインガ! まさかバーストだってぇのか!?」

「いえ、ちがうようです。でも、バーストしないでここまでパワーを上げるなんて!」

「いくぞ! くらえっ!」

ブオシュッ! ガッキィン!

ヤマトタケルは、ブラックヤマトの太刀を受け止めた。

「ぐぐ……かなりのインガだが、パワーだけが戦いじゃねえぜ! とりゃ!」

バッキィン!

ヤマトタケルは刀を弾き、間髪入れず反撃の太刀を振り下ろす。

「うおおおッ!」

ブラックヤマトはその攻撃に耐え切れず、後ろの岩に突っ込んだ。

「どうでぇ!」

「ぐ……やるな! ならば!」

「おっと、もうおまえのパワーだけの攻撃は通用しねぇ! 見切ったぜ!」

「いいのか? おまえの達の大事な女が人質になっているのだぞ」

「なにッ!? きたねぇぞ!」

捕われのマリューの首には、機械化人の刀があてられていた。

「ふふふ、俺は欲しい物を手に入れるためなら何でもやる男なのだ!」

「くそっ! 威張って言うことじゃねぇぞ! それにしても、なんとかしねぇと……ん?」

ヤマトタケルは、構えをやめて刀を仕舞い、その場に棒立ちになった。

まさか、超パワーのコロサスを前に、戦いを放棄したのだろうか? どうしたタケル!

「降参か? いまさら謝っても許しはしないぞ! 死ねぇッ!」

ボッグォン!

「うぐ! なにぃ!?」

ヤマトタケルは、ブラックヤマトの刀を弾き、正拳突きを脇腹に打ち込んだ。

「きさま! 人質がどうなっても……あれ?」

しかし、人質をとっていた機械化人たちは倒れ、捕らわれのマリューはそこにいなかった。

傍らには、武神機から降りたシャルルが、マリューとともに手を振っていた。

「すでにシャルルが助け出していたんだ! 相変わらず機転の利くヤツだぜ! さぁどうするコロサス? そっちこそ降参しても許してやらねぇぞ!」

「かっ、返せッ! その女は誰にもわたさない! それは俺の女だーーッ!!」

絶叫のように大声を上げるコロサス。それは当然、マリューの耳にも入った。

「な!……なにを言って……私はおまえの物なんかではない!」

「いや、俺は決めたんだ! 他の女なんかはもう目に入らない! 俺はおまえだけを見詰めていたいんだ! それだけ好きなんだ! 愛してしまったんだーーッ!!」

「!……」

戦場に響く突然の告白。その言葉にマリューは赤面した。

「こんなところで告白しやがって……ラブコメじゃねぇっつうの! おい、マリューも何とか言ってやれよ!」

しかし、マリューは真っ赤になったまま呆然としていた。

それは無理もないかもしれない。

幼い頃からサクシオンとして感情を捨て、恋愛にも全く無縁で童魔と戦ってきたのだから。


 こちらは、タケルとコロサスの戦いを観戦していた獣人族。

「ま、まったく、は、恥ずかしいヤツだぜ! なぁ!」

「ほ、ほんとだぎゃよ!」

我王はそれを聞いて照れていた。ベンも照れていた。そしてボブソンも照れていた。

「ああ! うらやましいだっぴょ! ウチも戦いの最中、劇的にプロポーズされたいだっぴょ!」

ただひとり、ポリニャックだけはぴょんぴょんと跳ね、ひとりで盛り上がっていた。


「俺の言っていることは本当だ……おまえと一緒になりたい! 俺と結婚してくれッ!」

「……そ、そんなこといったって……わ、私はどうすればいいか……」

「あちゃ~……マリューのやつ、完全に舞い上がっちまってるぜ。おいコロサス! 戦うのかプロポーズするのかどっちかにしてくれよ!」

「よし、では戦いはやめだ」

「な、なんだって!? アッサリした野郎だ!」

「俺は戦いより愛を選ぶ。今の俺にはおまえしか映らないのだ……」

マリューはますます真っ赤になり、下を向いて俯いた。

「戦いより愛か……でも、それだけスッキリしてるヤツは嫌いじゃないぜ?」

「タケル! こいつは追憶の淵の民から反乱し、地球を征服しようとしていたんだよ? それをそんな簡単に許していいのかい?」

「さぁな、確かにこいつのした事は悪いことだ。でも、こいつは変われそうな気がするんだ」

タケルは、ブラックヤマトを降りてマリューの側に駆け寄っていくコロサスを見守った。


「おお、我が愛しの女よ! 俺は間違っていた! 俺は真実の愛に目覚めたようだぞ! 女!」

「お、おんな、おんなって……わたしにはマリューという名があるんだ」

「そうか、ではマリュー! 俺は誓うぞ、おまえが住むこの地球を必ず平和にしてみせると!」

「か、勝手に決めるなよ! わ、私は強い男しか興味がないんだ……その、古の勇者タケルとか……」

マリューはちらりとタケルの方を見た。

「だったら問題ない! 俺は古の勇者タケルと同等の強さを持っているのだ!」

「でも、負けてしまっただろ? おまえはその古のタケルに」

「負けた?……何を言っているんだ? そもそも俺は、古のタケルと戦った事などないぞ?」

そこに紅薔薇が近づいてきた。

「まーだ気が付かないのかねぇ。あんたが戦ったその男こそ、古の勇者タケルだよ」

紅薔薇は、コロサスにわかるように説明をした。

「す、すると、あの男が……いや、あのお方が本当に! い、古の勇者タケル様だというのか!?」

皆は苦笑いして頷いた。

「ふえぇ! そうとは知らずにすみませんでした! 俺はあなたを尊敬していたんだ!」

「いいってことよ。それよりも、反乱軍をなんとかしてくれねぇか?」

「わかりました。よく聞けおまえら! 俺はこれからマリューとの愛に生きる! 地球征服なんて興味がねぇ! やりたいヤツだけでやるんだ!」

すると、反乱軍の仲間達は、怒り出すどころかコロサスを祝福し始めた。

「ありがとう同士! さぁ、おまえらも、愛のために生きるんだ!」

「おおー!」 「コロサス万歳! コロサス万歳!」 「愛! 愛! 愛だー!」

コロサスの仲間たちは歓喜に包まれた。


「へん、どうやら人望だけはあるようじゃねぇか、仲間に信頼されてる証拠だな」

「そのようだね。しかし、こうも女の為に尽くせるなんて、ちょっぴり羨ましいねぇ」

「ん、そうか? 女ってそういうもんなのか?」

「全部がそうじゃないけど……あれを見ればわかるだろ、タケル」

紅薔薇は、コロサスとマリューを指差した。

そこには、恥じらいながらも嬉しそうなマリューの顔があった。

「ほんとうだな、あいつがあんな顔するなんて……やっぱ女だなぁ」

「タケルはもうちょっと女のこと勉強したほうがいいかもね?」

「はは、勉強ねぇ……勉強、べんきょうっと。ベンきょう……ん?」

「どうしたんだい、タケル?」

「どうやら、大事なことを忘れていたようだぜ!」

タケルが構える先、瓦礫の山の上にはベンの姿があった。

黒装束に身を包み、骸骨の数珠を首から垂らしたその不気味な姿。

その姿には、以前、餓狼乱にいた頃のベンの面影はなかった。

「あれは、ベンじゃないか!」

「ひさしぶりだぎゃね、アネゴ……だども今はゆっくり挨拶しているヒマはないだぎゃ」

「ふぅん、しばらく見ないうちに偉くなったもんだねぇ。そりゃそうか、もうそっちで臆病者ってバカにするヤツもいないからかね?」

「アネゴ……そこをどくだぎゃ……オラに一瞬で殺されたくなかったら……」

紅薔薇の米神がピクリと引きつった。

「へぇ、あたしの恐ろしさを忘れちまったようだねぇ? それを思い出させてやるよっ!」

「よせ! 紅薔薇!」

ズボボボボッ! ボオゥッ!

紅薔薇は、炎のインガをベンに向けて乱射した。ベンの全身は灼熱の炎に包まれる。

「ふん! あたしをバカにしたら許さないよ! いくらあんたでもね……あっ!」

声を上げて驚く紅薔薇。それもその筈。

完璧に決まった炎のインガだが、ベンはそれをいとも簡単に掻き消し、体には火傷ひとつなかった。

「ば、バカな……あたしの全力のインガをモロに喰らったんだよ?……それなのに……」

「それだけあいつは強くなったんだ……下がっていてくれ、紅薔薇」

険しい顔つきで、タケルは紅薔薇の前に一歩踏み出した。

それを見た紅薔薇は、事の重大さを理解し、後ろへと下がった。


 タケルとベンの睨み合い。

「さ~て、ケンカの続きををおっぱじめようじゃねぇか」

「ケンカ? 何を言っているだぎゃ、オラはそんなつもりはないだぎゃよ」

「へん、殺る気まんまんでいやがるくせに。そうか、殺し合いってことか」

「それもちがうだぎゃ」

「ふん、じゃあ、今から俺たちがする事はなんだってんだよ?」

「それは、オラがタケルを殺すという、ただのお芝居に過ぎないだぎゃよ……」

「ははっ、その芝居、シナリオがすでに破綻してるぜ?」

「だったら書き直せばいいだけのことだぎゃ……」

「できるのかい?」

「簡単だぎゃ」

タケルとベンは、身動きひとつせずにお互いをジッと睨んでいた。

火山に囲まれたこの地では、立っているだけでも体力を奪われる。

この、過酷な状況で、タケルとベンの因縁の対決が始まろうとしていた。


 しばしの沈黙。ズズズ……!

突如、火山のひとつが火を噴き、地面が揺れた。

「!……」

紅薔薇は、つい火山に目をやったその時。タケルとベンは動き出した!

「でりゃ!」

「ウオオッ!」

タケルはジャンプ一番、ベンにケリを振り下ろす。

パシッ! ズガガァツ!

タケルのケリを両手の平できれいにさばく。曲げられた勢いはそのまま地面に激突する。

ベンの反撃。手刀のツメがタケルの頬をかする。タケルはかわした反動のまま左肘鉄を撃つ。

しかし、またもそれを両手でさばき勢いを殺した。

ところがそれはタケルのフェイントで、ベンの膝にタケルのケリが入った。

グキッ!

体制を崩すベン。チャンスとばかりに正拳突きを打ち込むタケル。

しかし、それもまたベンのフェイントだった。空中へ飛び上がり、一回転して踵を落とす。

ガギャンッ!

それを両腕クロスで防いだタケル。お互いがニヤリと笑う。お互いが「やるな」と感じる。

ザッ!

両者は一度距離をとって離れた。タケルの腕が軋み、ベンの膝が疼く。

「ボブソン直伝の無我意流(ムガイル)か……前より手強くなったなぁ」

「そっちのインガの盾も厄介だぎゃね」

「おう、これは鉄一族の円に習った技だ。ちっとやそっとじゃ砕けねぇぜ」

「それはスゴイだぎゃね、タケルはやっぱり強いだぎゃ……」

「へん! 何をいまさら。俺にゴマ擦ってどうするよ?」

「でもこれでわかっただぎゃよ……その程度の強さならオラの方が強いってことが」

「いちいちムカツク言い方しやがって! じゃあ見せてみろよ! おまえの全力を!」

「いいだぎゃ……でも、その前に片付けないといけないヤツがいるだぎゃ……」

「ん、片付ける?……誰だそれは?」

「それは……こいつだぎゃ!」

ブオッ! ガギンッ!

すると突然、岩山の影から誰かがベンに襲いかかってきた。その攻撃を片手で受け止めるベン。

ベンを襲った人物は、ライオンの獣人ガイザックだった。

「ぐっ! よ、よくも俺様のインガがわかったな! ハイネロアのこの発明品も失敗作だったようだぜ!」

ガイザックは腰のベルトの機械に手をあてた。


「あ! あれは、私の作ったインガイレーサーではないか! いつのまに……ガイザックめ!」

「インガイレーサー? それはどういう機械なんだ」

「は、はい、我王様。あれはインガの余波を無効化し、敵にインガを察知されない装置です」

「だが、ベンには見破られたちまったな、失敗作なのか?」

「い、いえ、あれはテストを充分重ねた完成品で、どんなインガでも隠すことができます!」

「ほう、だったら何で俺に黙っていたんだ? まさかてめぇ、あの機械で良からぬ事を企てようとしていたんじゃねぇだろうな?」

「い、いえ! 滅相もございません! ただ報告を忘れていただけでして……お、お許しを!」

「ふん、まぁ許してやろう。部下を一度に二人も減らすことはねぇからな」

「え? は、はぁ……」

「だがな、そりゃ完全に失敗作だぜ。インガを隠しても殺気は消せねぇ。ベンはガイザックの殺気を感じたんだろうな」

「そ、そんなことが……」

「ふぉふぉ、ワシのムガイルならそれも可能じゃて。攻撃するだけがインガじゃないわ」

だとすると、ベンは強大なパワーと共に、特殊なインガも身につけたと言うのか?

タケルの苦手とするインガに、どう戦えばよいのだろうか?


 ベリ! ガイザックはベルトを引き千切って捨てた。

「フン! こんなものはいらん! 最初からこんなものはなくても、俺様はおまえを殺すことができたのだ!」

「まったく……あんたはいつも口が達者だぎゃね、だから強くなれないだぎゃよ」

「なんだと!? 我王様にひいきされて付け上がりやがって! 俺様はそれが気に食わないのだ!」

「ふぅ……オラはもう、あんたの顔を見飽きただぎゃよ、だから消えてくれだぎゃ」

ベンはくるりと背を向け、ガイザックから離れた。

「バカにしおって! 俺様をなめるなぁ!……あ? あれ?」

ベンを背後から攻撃しようとしたガイザック。

ところが、攻撃しようにも武器を持っていない。

「手! 手がねぇーっ! うおぶっ!」

すでに手を切り落とされていたガイザックは、喉から血を勢いよく噴出し、そのまま倒れた。

「最初の一撃で、あんたは死んでいただぎゃよ……つくづく鈍感なヤツだぎゃ」


 タケルは戦慄を肌で感じた。

ベンがガイザックの手を切り落とすまでは見えていた。

だが、喉への攻撃は、タケルには見えていなかった。それほどまでに素早い攻撃だった。

(バカな……俺にも見えない攻撃を繰り出していたってのか? これがベンの実力なのか?

こいつはもう、いままでのベンじゃねぇ……完全に生まれ変わった新しい力だぜ……)

ベンの体からは、目が霞むほどの凝縮されたインガが噴出していた。

冷ややかな目でタケルを睨むベン。タケルの額に汗がつたる。


「武神機を呼ぶだぎゃ」

「な、なんだと?」

「伝説の武神機、ヤマトタケルを呼べと言っているだぎゃ……さぁ、はやく!」

「勝手こきやがって!……よし、いいぜ! その自信満々の鼻をへし折ってやるぜ!」

「じゃあオラは、そのダンゴっ鼻をもぎ取ってやるだぎゃよ」

「ほざきやがれけ! 天空雷鳴! 破壊の限りを尽くせ! いでよヤマトタケル!」

ピッシャァン! グゴゴゴ……!

空が割れ稲光とともに現れた伝説の武神機ヤマトタケル。

タケルはジャンプして、胸部の瑠璃玉とメンタルコネクトを完了させた。


 一方こちらは獣人族。

タケルとベン。その因縁の戦いの行く末を見届けているのだった。

「うう!……ベンがあそこまでやるとは驚きました……」

我王はハイネロアの驚く顔を横目に口を開いた。

「俺がガルバインをベンに渡したのには意味があるんだ。ベンには目標があった……」

「も、目標ですか……?」

「そうだ。ベンにはタケルを乗り越えたいという強い願いがあった。だから、あそこまでインガが成長したんだ。だが、おのれの保身と自己顕示欲にほだされたガイザックは、無様な最後を遂げる運命だった。わかったか、ハイネロアにミリョーネ!」

ハイネロアとミリョーネは、我王に心を見透かされていたようだ。


 ガッギャァン!


「はじまったぞ!」

我王の叫ぶ声とともに、ヤマトタケルとガルバインの戦いは始まった。

ヤマトタケルの太刀をムガイルでさばき、距離をとって獣人形態に変形したガルバイン。

どうやら、先手をとったのはベンのようだった。

「ぐわっ!」

シュシュン!

あまりにも速いガルバインの動きに、タケルはその動きに翻弄されていた。

ガルバインの爪が、牙が、ヤマトタケルに少しずつダメージを与えていった。

「くそっ! チョコマカと動きやがって! うおお!」

タケルも負けずと、インガを膨張させてスピードを上げる。

しかし、獣人であるベンの動きは野生的であり変則的でもあった。

苦戦するかのように見えたタケル。だが、タケルにも本来の戦闘のセンスがあった。

目に見えない死角からの攻撃を、カンで察知して攻撃をかわしていく。

それはもうお互いが、目と耳を頼りにせずに、五感を超越している戦いであった。


 その戦闘のレベルの高さに、さすがの我王も息を飲んだ。

「一見互角のように見えるが、タケルの伝説の武神機はいわば特別製。ところがベンの武神機ガルバインは、獣人族の最新鋭機だとしても性能的には及ばない……」

「しかし、戦いは互角じゃ……となると……」

「それを差し引いて比べれば、ベンのインガが勝っているのは明白か」

「す、すごいだっぴょ、ベン! やれー! やっつけちゃ……え……」

だがしかし、ポリニャックの心には、迷いの心が僅かに芽生えていたのだった。

タケルは人間であり確かに敵だが、ベンがタケルを倒すことが本当に正しいのだろうか?

そんな決着をつけてしまったら、もう後には戻れない状況に陥ってしまうのではないかと。

複雑な心境のポリニャックは、今はただふたりの戦いを見守るしかなかった。


「はぁっ! はぁっ!……まさかベンがここまでやるとは思わなかったぜ……どうやらポリニャックがインガを引き出したってのも、まんざらウソじゃねぇみたいだな……」

「それは違うだぎゃ」

「なんだと? どういうこった?」

「確かにオラは、ポリニャックにインガを引き出してもらっただぎゃ。だけど、それはきっかけに過ぎず直ぐに行き詰っただぎゃ。それから限界値を越えられたのは、自分で言うのもなんだぎゃ、オラのインガの力だっただぎゃ」


「た、確かにそうじゃ……」

「ボブじぃ?」

「ワシのところに弟子入りしたベンは、デキの悪い見込みのないヤツじゃった……だが、極限の状態に置かれたベンの体に異変がおきたのじゃ……それがヤツの眠っていたインガの潜在能力……その成長度は、タケルより遥かに上じゃ!」


「それが何だってんだ! こうなったらバーサクモードでケリをつけてやる! うおお!」

バシュオ! ブイィン!

ヤマトタケルの装甲が展開し、各部からビームファングが突き出した。

これがヤマトタケルの真の力、バーサクモードだ!

「師匠……見ていて欲しいだぎゃ。誰にも見せたことのないオラの本当の力を!」

「なんじゃと!? ワシにも見せてない本当の力じゃと? そんなものがあるのか!」

「そうだぎゃ!……これが!……オラの!……本当の力だぎゃーッ!!」

バッシュオオオッ! バリバリバリ!

なんと! ベンのガルバインが金色に眩しく光り、巨大化していった。

「うっ! なんだ、このデタラメなインガプレッシャーは!?……バカな……これはまるで!」

「そうだぎゃ、オラは自分で究極の力を編み出しただぎゃ、それがこの力……!」


 空から眩い光が降り注ぎ、インガウェーブがガルバインの体に集まっていく。

その現象を例えるなら、宇宙から神聖なメッセージを受けているようであった。


「バーストだとぉッ!?」

我王が声を荒げた。

「……し、信じられん! まさかベンがこれほどまでに力をつけていたとは……しかし、それも納得できるかもしれん……」

「どういうこった、ボブじい?」

「考えてもみい、今まで、幾多の激戦を体験してきたベンは、強大なインガを肌で感じてきたのじゃ。だから、インガの質や物量を知らずのうちに、おのれの体に刻み込んでいたのじゃ」

「そうなのか? だからって、そんなに簡単なことじゃねぇぜ、バーストを起こすってのはよ」

「今まで見てきたバーストとは、邪悪なインガに身を委ねることで可能としてきた……じゃがベンは、邪悪どころかあのような透き通ったインガでバーストしたのじゃ。いわば、バーストを超えたバーストじゃ!」

「バーストを超えたバーストだと?」

「そうじゃ、タケルの驚きは相当なもんじゃろう……この戦いは先が見えたかもしれん……」

「ああ、タケルのヤツ……負けるぜ」


 同じく紅薔薇たちも、ベンのバーストに驚いていた。

「ベンのヤツがバーストをするなんて……しかもあれは、邪悪インガに捕らわれたバーストなんかじゃない気がするよ! インガウェーブが輝いて見える!」

「そ、そうですね……あれではまるで……神聖なる光のようです」

「そんなことが……いったいバーストって何なんだよ、ザクロ!」

「は、はい、ヤマトの研究ではこう解明されています。


Battle・・・・(戦い)

Universal・・(宇宙的)

Radiance・・(光輝)

Sacred・・・(神聖な)

Transform・・(形質転換)


その頭文字をとって、BURST(バースト)と呼ばれ、己の体の生体エネルギーを収束具現化し、鎧としてまとう現象だと言われています。今まで観測されたデータでは、邪悪なインガに取り込まれて自己破壊するケースが多かったのですが、今回はどうやら違うようです……」

「ということは……ベンのヤツ! バーストを自分のものにしたっていうのかい!?」

尚も膨れ上がっていくベンのインガに、紅薔薇たちはただ立ち竦んでいるしかなかった。

その絶対的な力の前に。


 驚きの色を隠せないタケル。

「じょ、冗談じゃねぇぜ……リョーマや犬神が身を犠牲にして会得した力を……それをベンのヤロウは邪悪に染まらずバーストしたってのか? それをたったひとりでやったってのか!?」

タケルの体に旋律が走った。

「そろそろいくだぎゃよ……タケル……」

「くっ!」

バギャァン!

「ぐおおッ! も、ものすげぇ一撃だッ! 骨が軋む!」

ドギャオン!

「ちぃ! 防ぐだけで手一杯だ!一度離れて体制を整えさせてもらうぜ!」

タケルは、ガルバインから高速で離れて距離をとった。

「そうはさせないだぎゃ!」

ビュシュン!

なんと、ガルバインはその巨体をものともせず、タケルの行く手を阻んだのだ。

「ちぃ! でけぇくせに素早いやつだ! うごっ!」

ガルバインがヤマトタケルを蹴り上げ、さらに拳を叩きつける連続攻撃!

「ぐがあッ!」

それを高速落下して受け止めるガルバイン。そのままヤマトタケルを握りつぶす。

「ぎゃああッ!」

その凄まじいまでの攻撃力に、タケルは悶絶した。


「す、凄まじい攻撃! それに、あんなに苦しそうなタケルの声は聞いたことがないよ!」

「な、なんとかしないと……!」

「よし! サンドサーペントを突撃させるよ! みんなは降りな!」

「ちょ、ちょと! 無茶しないでよ、キリリ!」

「今はそんな場合じゃないでしょ! タケルが死ぬかもしれないのよ!」

確かにキリリの云う事は正しかった。

どんな強敵をも乗り越えてきたタケルの姿を見続けてきた仲間たちは、今度もなんとかしてくれるだろうと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

だが、今回はそういう気持ちは微塵も感じられず、ただ、絶望の二文字が重く圧し掛かってくるだけだった。

「キリリ! あたしのインガも預けるよ!」

「わ、わたしも手伝います!」

「サンキュー! 紅薔薇! ネパール! さぁ、エンジン全開、全速全身!」

「わ、わたしだってまだやれる……!」

「古の勇者よ! どうか受け取ってくれ!」

地上からは、マリューとコロサスのインガも送られてきた。

「受け取ったよ! みんな! いっけぇーッ!」

キイィィン!

皆のインガをまとい、収束されてドリルのようになったサンドサーペント号は、ガルバインに向かって突撃する! はたして通用するのか?!


 バッギャァン!


「おい……何やって……」

タケルが気付いた時にはもう遅かった。

そこには、空中で分解するサンドサーペント号の残骸の姿が見えた。

「バカヤロウ……なにやってんだよーッ!」

ボッゴ……オォン……!

サンドサーペント号は、脆くも地面に激突して爆発した。

ベンの強大なインガの前には、あまりにも呆気無い最後であった。

「この散ってゆくインガ……これはキリリ……う、うおお!」

一瞬、ガルバインの拳がゆるんだ隙に、タケルはなんとか脱出することができた。


「はぁっ! はぁっ!……ゆ、ゆるせねぇ! よくもキリリを!……うおおおおッ!」

ガッギィン!

ヤマトタケルのビームファングが、ガルバインの上体を仰け反らせた。

「さっきよりはインガがアップしたようだぎゃね。でもそれは、憎しみのインガだぎゃ!」

「うるせぇ! そんなことはどうでもいいッ! 俺はお前を許さねぇッ!」

ガルバインを連続攻撃するタケル。

しかし、ヤマトタケルの周りには、黒い霧のようなモヤが集まって見えた。

「あっ! あれは黒い大渦の力! タケル、だめだ! そんな気持ちで戦っていては、邪悪に取り込まれてしまうぞ!」

マリューは必死になって叫んだ。しかし、その声はタケルには届かない。

「あっはっは! これでもう実感しただぎゃ!」

「何をだってんだ、ベン!」

「タケルは黒い大渦の邪気を取り込んでインガをアップさせた……だがそれもオラの純粋なバーストには効かないだぎゃ……ということは、オラはタケルよりも勝っているということだぎゃ!」

「こんのヤロー!」

ズッガァッ! ドッゴォン!

激しくぶつかり合う力と力。

結果、無残にも地面に叩きつけられたのは、タケルのヤマトタケルだった。

「うごっ! ぐふ……」

口から血を吐いたタケル。そして小さくなって消えていくインガ。

誰もがタケルの敗北を悟り、生命の危険を感じた。

「た……タケルのインガが消えていく! 死んでしまったというのかい!?」

「そ……そんな……」

「タケルさーーーん!」


 かつて、仲間だった友は敵となり、尖った刃を向ける。

叫ぶようにお互いの意思をぶつけ合い、激突する力と力。

絶対無比の力の前に、抵抗する術はないのだろうか?

そして、タケルは本当に死んでしまったのだろうか?


「やった! ついにタケルを倒しただぎゃーーーッ!!」


 ベンは吠える。何度も何度も、吠え続けた。

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