第23話 膨張する戦渦


我を貫く生物と和を保つ生物

侵略と共存の不思議な調和

臨界に達した均衡は崩れ

飽くなき闘争心を搾り出す



 第二十三話 『膨張する戦渦』



 ここは餓狼乱のアジト……の跡。

以前、犬神部隊に攻撃され、今では廃墟と化していた。

そこから北に数十キロ離れた場所の地下に、タケルの部下たち餓狼乱は移り住んでいた。

「今頃アニキ達はどうしているかなぁ?……」

「そりゃおまえアニキの事だ、そろそろ紅薔薇のアネゴを取り返しているだろうよ」

「アニキなら絶対やってくれるって! オレはそう信じているからな!」

「よし、アニキ達をいつでも出迎えれるように、ここを立派な基地にしておこうぜ!」

「おうよ! でないとアニキ達に会わせるツラねぇもんな! さぁやるぜ!」

「オオッ!」


 一度は破壊された餓狼乱のアジト。

だが、部下達はタケルの帰還を信じ、いつでも餓狼乱を立ち上げられるように万全の準備をしていた。

しかし、皮肉にもその願いは叶うことはないのだった。


「だめだっぴょ……とてもホントのこと言えないだっぴょ……」

その様子を遠くから見ているポリニャック。

どうやら戦武艦『光明』から投げ落とされたが、なんとか命は無事だったようだ。

だが、傷だらけのボロボロの体で、ポリニャックはその場をトボトボと去っていくしかなかった。

そのちいさな背中には、例えようのない悲しみが、たくさん背負わされていた。

タケルはここには帰ってこない。そして、タケルの心も戻ってくることはないだろう。



 ここは戦武艦光明のブリッジ。

「あん、何だって? レジオヌールへ行けだと?」

タケルたち特務攻撃部隊は、アマテラスの護衛を兼ね、レジオヌールへと向かっている最中だった。

最近、獣人達がヤマトの国に対して反乱を起こすという情報が流れた。

その対策として、同盟国であるレジオヌールのレジオン王に、皇帝アマテラスが謁見を申し出たのだ。

普通ならば、立場的に上位にあたるヤマトの国から出向くことはないのだが、そこはアマテラスという男の度量を見せつける恰好の場であった。

周囲を切り立った崖に囲まれた、城砦都市レジオヌール。

そこに戦武艦光明は着陸した。

レジオヌールの人々は、今まで見たこともない巨大な黒い影に怯え、みな家に逃げ込んだ。

そして、ヤマトの絶対的な軍事力を見せ付けられたのであった。


「ふぅん、ここがレジオヌールか、いいトコじゃねぇか。よっぽどここの王がしっかりしてんだろうな」

タケルはアマテラスの方をチラリと見ながら言った。

「ふふ、イヤミのつもりか、タケル? 相変わらず口の減らないヤツじゃな」

絶対的権力を持ち、意見する者ですら即刻死刑にさせるアマテラス。

それに対し、何故タケルは生意気な口をきけるのだろうか?

兵は皆不思議がっていたが、それを口に出して言う者は誰ひとりとしていなかった。

「皇帝アマテラス様のおーなーりーっ!!」

♪パパラパララパパパパーーー!

軽快なラッパの音とレジオヌール兵の出迎えで、レジオン王の皇室に招かれたアマテラスとタケル達。

豪華や派手さはないが、センスの良さそうな装飾品が飾られた雰囲気の良い部屋であった。

そして、そこにいた以外な人物に、タケルは驚きを隠せなかった。

「しゃ、シャルル!……シャルルじゃねぇか!」

「た、タケルさん!? ど、どうしてここに……」

驚いているのはシャルルも同じであった。

「それに、後ろにいるのは天狗に般若じゃねぇか!?……てめぇら、これはどういうこったよ!」

「ふはは、驚いたのはワシもいっしょじゃ、タケル。まさか貴様がヤマトのサムライになっていたとはな」

「……てめぇ、死んだはずじゃなかったのか?……」

タケルは天狗を睨み付けた。

「獣人の森では世話になったな。だが、ワシはあんな攻撃では死にはせん。それにしても紅薔薇……よくもぬけぬけとヤマトに戻れたものだ」

紅薔薇は下唇を噛み、天狗の視線を外した。

「アマテラス様の前で失礼だぞ、天狗!」

レジオン王は天狗を叱りつけた。

「まぁまぁよいではないか、レジオン殿。有能なる部下は有能な王のもとにつくものですからな。おっと、これでは逆にイヤミになってしまったかな、天狗よ? わはは!」

「くっ!」

(ふふん、さすがだなこの大将はイヤミも天下一品だぜ。

それにしても天狗がシャルルと一緒にいるのはどういうこった?

天狗はもとヤマトの国にいたハズ……それがなぜレジオヌールにいるんだ?)


「とにかく立ち話もなんですから、奥の応接間へどうぞ」

「うむ、ところでタケルとシャルル王子はどうやら知り合いのようだな。どうだろうレジオン王、この2人に別室で積もる話でもさせてやってはどうかな?」

「それは良い考えですな。シャルルや、タケル殿とベランダの方に行っていなさい。それと般若、おまえもついて行ってやれ。天狗は私と一緒に」

「承知しましたレジオン王」

(ふん、レジオン王め、護衛などつけおってあくまでひとりになるスキを見せんな……)

アマテラスは用心深いレジオン王に対して、心の中でそう思った。

「ではタケルと紅薔薇は向こうへ行っておれ。犬神と銀杏はワシの側に」

「はっ! アマテラス様!」

「はーい☆ わかりました☆」


 タケルと紅薔薇、そしてシャルルと般若はベランダの方へと向かった。

石畳が敷かれたベランダは、見事な庭園が一望できる見晴らしの良い場所だった。

「さって……まずは何から話せばいいんだ? お互い聞きたい事がありすぎるってカンジだな、シャルル」

シャルルの心中。

(これがあのタケルさんなのか? なんだか人相もずいぶんと変わってしまって、まるで別人のようだ……)

「まずはタケルさんが、何故ヤマトの国のサムライになったのか……それを聞きたいです」

「いきなり直球ど真ん中かよ。ま、いいや。話してやるよ」

タケルはベランダの柵に寄りかかり、腕組みをした。

「まぁ、別にこれといった理由なんてねぇけどな。ちっぽけな場所よりも、大きなとこで自分の力を試したかっただけだぜ」

紅薔薇は不満げな顔でタケルの方をチラと見た。

その仕草を見たシャルルは、それ以上はタケルに聞くのをやめた。

「そうですか、どうやら方向性は違えど、紅薔薇さんを助ける事が出来たようですね」

「さぁて、どうだかな。これで助けたと言えるのか……なぁ、紅薔薇?」

「……」

紅薔薇は顔を背けたまま何も答えない。

「質問を続けていいですか? 萌さんや他の仲間はどうしているんですか?」

「ああ、あいつらね。殺したよ、俺が。でもポリニャックだけはワザと逃がしてやったがな。ぎゃはは!」

「……そうですか……」

タケルは、シャルルの顔をじっと睨み付けた。

「すげぇな……おまえは」

「どうしてですか?」

「知り合いは死んだというのに動じない。それに、その理由も聞こうとはしない。さすがだぜ」

「……タケルさんにもいろいろと理由があったのがわかりますから」

「この俺の変貌ぶりを見ればわかるってか。さすが王子様になっただけのことはあるな、シャルル」

「王子様になった訳ではありません。もともと、王になる家柄だっただけです」

「はははっ! 言ってくれるぜ! それじゃあ、こんどは俺から質問だ。シャルルは王子になって何をするつもりなんだ?」

今度は、タケルが質問してきた。

「はい。今の世の中は、弱いもの同士が争っている時ではないと思います。強い者が弱い者を統治し、さらなる平和を作り出さねばならないのです」

「おう、ご立派、ご立派! ガキのくせにたいしたもんだ!」

タケルは手を叩いて茶化した。

「貴様! シャルル様に無礼な口の聞き方は許さんぞ!」

「おやおや、やっと口を開いたと思ったら無礼ときたもんだ。何様だよ、般若てめぇは?」

一度は拳を交えた者同士、2人の決着はまだついていなかったのだ。

「まぁまぁふたりとも。以前はいろいろありましたけど、今はお互い同盟国なんですから仲良くしましょうよ。」

「そうか……ヤマトのサムライになった俺と、レジオヌールの王子になったおまえ……味方から敵になったおかげで味方になったってことか……ん? なんだかこんがらがってきたな」

「その通りですよ。これからは共通の敵と戦わなくてはならないのですからね」

「共通の敵だって? 何者なんだいそれは?」

そう尋ねたのは紅薔薇だった。

「以前、般若と天狗が行っていた作戦……それは獣人狩りだったのです。ヤマトの国で洗脳し、戦力としていたのですが、理由はそれだけではないのです」

「獣人狩りを命令していたのがヤマトの国……それを行っていたのがレジオヌールだったワケか……」

「そうです。獣人狩りの本当の目的は、統率力と戦闘力をつけはじめた獣人を抑制するためです。ひとりではたいしたことなくても、集団になるとあなどれない戦力になりますからね」

「……となると、あたし達の共通の敵ってのは、『獣人』ってことかい?」

「その通りです、紅薔薇さん。もともと争いを好まない獣人族は、ヤマトの管轄から外れ、間接的にしか人間に関与していませんでした。そのおかげで今まで調和が取れていたのですが……」

「そのバランスが崩れてきたってことなのか?」

シャルルは無言でうなずいた。

「獣人か……」

タケルはぼそりとつぶやいた。そして、少しだけポリニャックのことを思い出した。

「シャルル、俺はこの世界の獣人って存在が、イマイチわからねぇんだ。簡単に説明してくんねぇか?」

「そうですね……タケルさんのいた世界の人間とは、二本の足で地上を歩き、自然の摂理から背を向け、生物の頂点に君臨した存在を呼ぶのですよね?」

「う、う~ん……ま、まぁ悪い言い方すればそんなところかな……」

タケルはどこか腑に落ちない顔をした。

「ふん、己の自我しか尊重しない偏った生物だな」

「ん? ど、どういう意味だ?」

「低脳な貴様には理解できないようだな、タケル」

「この野郎……俺をコケにしてんのか?」

「般若! 言葉を慎みなさい」

「はっ、シャルル様……」

シャルルの一声で、般若は押し黙った。

般若という男、シャルルに対してよほど忠義を重んじているようだ。


「出来るだけ分かり易く話します」

「ああ、頼むぜ」

「このヤマトの世界では、『獣人』と呼ばれる種族が存在し、人間と同等の権利を主張し合い、ともに共存してきました。かつて、獣人同士の争いがあった時、人間を凌駕する戦力を持っているのに、けして多種族制圧の為にそれを振るう事はなかったそうです」

「ふむ、ふむ」

「それが近年、人間の勝手な行為が目立ち始めた頃、その均衡は崩れつつあります。それは、この世界の歴史上初めてのことです」

「なるほど、人間と同等の権利を持つ種族……獣人か……」

「まぁ、ボクも、古い書物を読んで知っただけですけどね」

「もともと獣人は、大きな徒党を組みはしないが、近頃、獣人族をまとめるリーダー……いや、王のような存在が出現したようなのだ」

般若がタケルを見ながら話を続けた。

「獣人の王か……それってまさか氷の山に居たボブソンとかいうジイさんのことか?」

「いえ、その人ではありませんが、どうやらその力を受け継いだ人物のようなのです」

「力を受け継いだだって? あそこではベンが修行してるんだぜ。まさかベンの野郎が獣人の王になったのか? へっ、まさかな、あんな腰抜けが王になれるわけねぇぜ!」

「確証はありませんけど……でも人は、あるきっかけでいくらでも変わる事が出来ますから……」


 シャルルの言葉に、タケルと紅薔薇は何も言い返す事が出来なかった。

確かにある物事で、人は変わってしまう事を身をもって知っていたからだった。


「貴様のように、仲間を裏切ってまで出世したいヤツもいるってことだ」

「んだと! 般若てめぇ、俺にケンカ売ってんのか!」

「俺はまだおまえを仲間だと認めていない。それに俺より弱い者の言うことに、耳を貸すつもりもない」

「ふん、俺がおめぇより弱いってのか? 以前の俺とは違うぜ。なんならここで試してみるか?」

「おもしろい、望むところだ」

ボシュウッ!

タケルと般若は、お互いのインガを放出し合った。

「ちょ、ちょっと、こんなところでケンカしないで下さいよ、タケルさん! それに般若も!」

シャルルは必死に2人を止めようとした。

(タケルさんのインガ、以前よりかなり強くなっている……短期間でこんなに成長できるものなのか?)

「ふ……少しはマシになったようだな、タケル」

「ヘン! 俺のインガは、まだまだこんなモンじゃねぇぜ? オラァッ!!」

ドバアッ! バシュオーッ!

タケルのインガは爆発するように一気に膨れ上がった。

「くっ!……こ、この力は!」

これにはさすがの般若も驚いたようだった。

「さぁいくぜ、般若! 死んじまっても文句言うなよ!」

「おもしろい冗談だ……来いオボロギタケル!」

一触即発。お互いは今にも飛び掛る寸前だった。その時……!


 ドッゴオォォォン! ボォン!


 突如、大きな爆発音とともに城が揺れた。

「なんだい? 今の衝撃は!?」

「わかりません! とにかくここは危険です! あ!」

驚きのあまり声を上げたシャルルの見た先には……そこにはなんと!

見たこともない武神機が、空中からレジオヌール城に向かって攻撃を仕掛けていたのだった。

「む、こんなときに敵か……」

「俺はかまわねぇんだけどな、逃げてもいいんだぜ、般若?」

「くっ、貴様! 私を愚弄するな!」

激怒した般若は、タケルに向かって攻撃を繰り出した。タケルも負けじと攻撃する。

グゴゴ!……グラグラ……

だが、正体不明の武神機が攻撃したせいで、振動によりバランスを崩した般若は、タケルの一撃を顔面に喰らってしまった。そして、その衝撃で般若の面が外れてしまう。

「あ!……て、てめぇは……」

タケルはその顔に、確かに見覚えがあった。

それは地球で一緒だった『カブレ』の顔であった。その顔はさらに凛々しくなっていた。

「か、カブレ?……なんでおめぇが……一体どういうこったよ、カブレ?」

「私はそのような名前ではない! 私は顔も名前も全てを捨て般若になったのだ!」

「何言ってんだよ、カブレ……どうして今まで黙っていたんだ? あれからどうしてたんだ? 地球はどうなった? 俺はその時の記憶がねぇんだ、教えてくれ!」

「……やはり貴様はまだそんな事を言っているのか……貴様には大事な使命があるのを忘れおって!」

「使命? なんだ?……何を言ってやがる!?」

ドッガァァン!!

正体不明の武神機の攻撃はさらに激しさを増す。

「とにかく話は後だ、タケル。今はあの武神機の攻撃を防ぐのが先だ!」

「仕方ねぇがそのようだな……いくぜ! 紅薔薇!」

「ああ、わかったよ!」

タケルと紅薔薇、そして般若は武神機で出撃した。


 タケルは驚いていた。

(般若の正体が、あのカブレだったなんて……何故今まで黙っていやがったんだ?

それに俺の使命だと? あいつは何かを知っているようだった……

地球からこの世界にやってきた俺達には、やはり何か意味があったのか……?)


 タケルは、カブレの話で頭が少し混乱気味だった。

無理はない。全てが混乱するような出来事の連続であったのだから。

タケルは冷静になるよう自分に言い聞かせ、頭をブンブンと横に振った。


その様子を見た紅薔薇は思った。

(今のタケルは、昔のタケルに少しだけ戻ったようだった……残酷さが少し抜けたようだ……

シャルルや地球の知人に会ったからそうなったのか?……

どちらにしろ、タケルの中で何かが揺れているのは確かだ……)


 突如、レジオヌール国に襲い掛かってきた謎の武神機の正体は?

そして、反乱を起こしつつあるという獣人族の真意は?

ヤマトのサムライになったタケルは、戦い続けなければならないのだった。



 レジオヌールの上空から攻撃を加えている四機の武神機。

「どうやらお出ましのようですね……」

「うふん、ゾクゾクするわねぇ~」

「ふんっ! 人間どもめっ! 返り討ちにしてくれるわっ!」


その機体には獣人が乗り込んでいた。早くも獣人達は反乱を起こして攻めてきたのだろうか?

鉄壁の要塞レジオヌール。そしてヤマトの戦武艦『光明』。

そのふたつの強力な戦力に対し、攻め込んでくるとは自殺行為にほかならないだろう。

それとも獣人達は、よほど己の力に自信があるのだろうか?

そしてそこには、タケルの知っているあの人物もいたのだった。


「やってやる! やってやるだぎゃ! うおおっ!!」

ボブソンのもとで修行していたハズのベンが、何故かそこにいた。

ベンにカブレ。あまりにも無常な展開。

『かつての仲間』という概念は、この世界では通用しないのだろうか?


「人間と言えど油断は禁物です……気をつけてください、ガイザックにミリョーネ」 (黒ヒョウの獣人)

「うふっ、心配性ね、ハイネロアは」 (ネコの獣人)

「ふん! おまえら、俺様の攻撃に巻き込まれぬよう気をつけろよ!」 (ライオンの獣人)

獣人の乗る武神機の形は、鎧と言うよりもどこか動物的なフォルムをしていた。

レジオヌール城に、突如攻め込んで来た獣人たち。

ヤマトとレジオヌールの戦力の前に、戦いを挑むことは誰が見ても不利であった。

だがそれだけに、獣人族の根拠ある自信が伺えた。


「紅薔薇! 早く出撃しやがれ! 何モタモタしてやがんだ!」

「わかっているよ……でもあいつが、善十郎が……」

「善十郎? 犬神のことか? あいつはアマテラスの大将の護衛をしてるんだ! あっちはほっておけ!」

「でもあいつが心配なんだよ……タケル、すぐに行くから先に行って!」

紅薔薇はそういって大広間の方に走っていった。

獣人の攻撃で城が揺れ、瓦礫がガラガラと崩れていく。

「待て紅薔薇ッ! ちっ、俺の命令を無視しやがって! それにしても何故、紅薔薇は犬神のヤロウを……仕方ねぇ、俺だけでも出撃するぜ!」

「この城を守るのは私の役目だ、タケル! 貴様は引っ込んでいろ!」

「今はそんなこと言っているヒマねぇんだよ! カブレ! ふたりで出るんだ!」

「私はカブレなどという名ではない! 般若だ!」

「ああそうかい、おめぇがそう言うなら般若って呼んでやるよ! とにかく急ぐんだ!」

般若は武神機のある格納庫へと向かい、タケルは城の外へと飛び出してヤマトタケルを呼んだ。

「うおおおッ! 戦陣のもとへ集え! 大和猛ッ!」

ズッガアァンッ!

黒い天が割れ、稲光とともにヤマトタケルが現れた。

空中でヤマトタケルとメンタルコネクトしたタケルは、大空に向かって咆哮を上げた。

そして獣人達の操る武神機へ向かって猛スピードで飛んでいった。

「なるほど。あの武神機から伝わってくる力強さ……あれが伝説の武神機か……」

般若は、自分専用の武神機、『蛇愚我(じゃぐわ)』へ乗り込んだ。


「おらおらッ! 俺様が来たからにはこれ以上好きにさせないぜッ!」

バシュウ!

猛スピードで上昇し、獣人達の武神機の前に立ちはばかるヤマトタケル。

「これが伝説の武神機ですか。なるほど、只者ではないインガをまとっていらっしゃる」

「まぁ! たくましいわぁ~」

「ふんっ! そうでなくては困るッ! こいつは俺の獲物だッ! 誰も手を出すなよッ!」

獣人達はヤマトタケルを一斉に取り囲んだ。

「いいぜ、三機いっぺんに相手してやる……さぁ来いッ!」

バッチィン!

ヤマトタケルは背中の刀、烈火と氷舞を抜いて構えをとった。

「待ってくれだぎゃ! そいつはオラにやらせてほしいだぎゃ!」

突然タケルの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。

その声はまさしくベンであった。

「てめぇ……ベン……ベンなのか?」

そこにやってきたベンの武神機、『ガルバイン』。

「……アニキ……久しぶりだぎゃね」

「ベン、てめぇ……」


 久しぶりの再会が、よもやこんな形で実現しようとは、両者夢にも思わなかっただろう。

お互い言いたい事は山ほどあった。しかしそれを言葉には出さず、両者睨み合ったまま沈黙が続く。


「そうでしたねぇベン。あなたはそのタケルという男に恨みがあるんでしたっけ?」

「やだわねぇ~男の恨みって。でも、女のウラミはもっと怖くてよ?」

「ふんっ! そういうことなら貴様がやってみろ! ベンっ!」

「……ありがたいだぎゃ、先輩がた!」

ベン以外の三機の武神機は、この場をベンに任せ、レジオヌール城の中心部へと向かっていった。

「あ! てめぇら待ちやがれ!」

バシュッ!

三機の武神機を追おうとするタケルの前に、ベンの武神機ガルバインが立ちはだかる。

「そこをどけッ! ベン!」

「あ、アニキがヤマトのサムライになっていたとは驚きだぎゃ……だけどもここは通さないだぎゃ」

「てめぇ、俺にケンカ売るとどういう目に合うかわかってんのか!」

「あ、アニキの強さと怖さはわかっているつもりだぎゃ……しかし、オラはアニキを許さないだぎゃ! ポリニャックの悲しみをわからせてやるだぎゃっ!!」

「ポリニャック? あのチビと会ったのか? そうかそうか、ぷっ、くくく……!」

「何を笑っているだぎゃ!」

「それで、あいつ何て言ってたよ? あまりの恐さにションベンちびっていやがったか? ション! ベン! ぎゃはは!」

「……アニキ……そこまで落ちぶれただぎゃか……だったらオラ、容赦せずに全力で倒せるだぎゃ……」

「倒す? ハン! 大きく出たな、ベン! てめぇごときが俺様にかなうとでも思ってんのか? ぎゃはは!」

タケルは腹を抱えて大笑いし、ベンを思いっきりコケにした。

「……変わったんだぎゃよ、オラは……」

「なんだと?」

バギィンッ!

突然の大きな衝撃に、ヤマトタケルがぐらつき体勢を崩した。

「な、なんだ? 今の衝撃は!?」

「ひょっとして、オラの攻撃が見えなかっただぎゃか? アニキ」

「攻撃だと? 今のがてめぇの攻撃だと!?」

「そうだぎゃっ!」

ガシュッ! バガァン!

ベンのガルバインの攻撃は、目にも止まらぬ速さで、疾風の如く繰り出された。

「くっ! そんなバカな! この俺がベンの攻撃をかわすことが出来ないなんてッ!」

「さっきの威勢はどうしただぎゃ! オラごときの攻撃を喰らうなんて調子でも悪いだぎゃか!?」

「こっ、この野郎! バカにしやがって!」

しかし、次々に繰り出されるベンの攻撃を、タケルはかわす事が出来ずに喰らい続けていた。

(ちっ! かなりのスピードとパワーだ……それに俺の動きを先読みした攻撃……

やりずらいぜ、これは……!)

タケルは刀を振り上げて反撃しようとした。その時……

ピタッ!

タケルが攻撃のモーションを繰り出そうとした瞬間、ベンはタケルの間合いに入ってそれを抑えた。

「うッ!これは!?」

「そうだぎゃ!ボブソン師匠直伝の無我意流(ムガイル)だぎゃ!」

ガッギィンッ!

ガルバインの鉤爪が、無防備になったヤマトタケルのボディーを切り裂いた。

「ぐっ!……思い出したぞ、これはあのカメのじっちゃんの使ったワザか!」

防御力の高いヤマトタケルも、この一撃にはかなりのダメージを喰らってしまった。

「もらっただぎゃッ!」

バランスを崩したヤマトタケルに、追い討ちをかけるガルバイン。

バガァンッ!

振り下ろされたガルバインの蹴りをまともに喰らったヤマトタケルは、地面にむかって真っ逆さまに落下した。

ドゴオォン!

城の城壁がガラガラと崩れ、ヤマトタケルは瓦礫に埋もれてしまった。


「何をやっているのだタケル!」

般若は、落下したタケルに怒鳴った。

「それにしても、こいつらのインガは並じゃないっ!」

三機の獣人の武神機を相手にしていた般若は、並ならぬ獣人のインガの前に苦戦していた。

そしてそれは、応戦に出た天狗、紅薔薇、犬神、銀杏も同様であった。

「あたしの炎のインガが通じない! これが獣人の力だってのかいっ!?」

「ここまで力をつけていたとはな……あなどれん奴等だ!」

「動きが、は、早すぎて……きゃあ☆!」

「ぐぐ、くそ! このワシが押されているとは!」

たった三機の武神機の前に、ヤマトとレジオヌール軍は翻弄されてしまった。

それほどまでに強大な力をもった獣人のインガ。そしてそれをまとめる獣人の王の存在。

それは一体どんな人物なのだろうか?


「レジオン王!あぶない!」

アマテラスは、落下してきた石の破片からレジオン王をかばった。

「これはかたじけない、アマテラス殿。さぁ早く奥の安全な場所へ移ろう」

「うむ、それなら我が戦武艦、光明に移ろう。レジオヌールの兵よ! ここはいいから加勢に向かうのだ!」

「い、いやしかし……私どもはレジオン王の護衛に……」

「今はそれよりも敵を討つことが優先だ! このヤマトとレジオヌール国が、やつらに舐められているのだ!      そんな不届き者は許してはおけん! さあ、行け!」

「は、ハッ! わかりました! では王よ、ご無事で!」

「わかった。ここはいいからアマテラス殿の言うとおり、味方の加勢に向かってくれ」

「ハッ!」

そう言って護衛の兵は、全て大広間から出て行った。

「それにしてもさすがですな、アマテラス様。こういった状況だと、つい己の身の保全を優先してしまいがちですからな」

「ふふ、そうたいしたことではあるまい……それが国を統治するものの役目。国あっての王なのですからな」

「いやはや、あなたには感服いたしました。力を合わせて必ず獣人どもを殲滅させましょうぞ!」

「もちろんだとも。それにはまず、邪魔者を先に消さねばなりませんな、レジオン王?」

「邪魔者とはいったい?……誰か他に敵でもいるのですかな?」

「何をとぼけておいでだ。ヤマトの国とレジオヌールがひとつの軍事国家になるには、邪魔な存在がひとりいるではないか?」

「ひとつの軍事国家ですと?……はっ! ま、まさか……」

「やっとおわかりいただけましたかな? 幻影のように無意味な平和を唱える者は、私にとって邪魔なのですよ、レジオン王?」


 グサッ


 アマテラスは持っていた小刀を、レジオン王の胸に深々と突き立てた。

「ぐうぅ……アマテラス殿……あなたという人は……」

「ふふふ」

「一体何を企んでいるッ!? この国を……全世界を戦乱の炎で包むつもりかッ!?」

「貴様のような小国の王如きが、余に意見するなぞ片腹痛いわ。

「な……なんだと?」

「ふん、この世界の本当の真理を知らぬ者が、見せ掛けの平和に酔って戯言を吐きおって……いいだろう、冥途の土産に教えてやろう。このヤマトの世界の本当の存在理由をッ!」

ガラガラと音を立て城が崩れていく中、アマテラスに真実を聞かされながら、レジオン王は死んでいった。

「そんな……バカな……こ、この世界が……」


 はたして、アマテラスの語る、この世界の本当の存在理由とは?

戦いの最中に起こったレジオン王殺害事件……そしてその犯人、皇帝アマテラス。

己の野望を実現させようとするアマテラスの瞳は、メラメラと野望の炎に燃えていた。

そしてこの真実を知る者は誰もいない……はずであったが、ただひとり。

その少年は、一部始終を偶然見てしまったのだった。その少年とは一体?


 ガオォオンッ!

タケルとベンの戦いは続いていた。

地上に降り、獣人形態に変形したガルバインは、ヤマトタケルに執拗な攻撃を繰り返していた。

「くそっ! 変形したらますます攻撃が早くなりやがったぜ!」

「どうだぎゃ! どうだぎゃアニキ!」

「くそっ! こっちだって竜に変形できるんだぜ! 見せてやれ、ヤマトタケル!」

以前、バーストという強大な力を持つリョーマを倒した際に、ヤマトタケルは竜にその姿を変えた。しかし、今の悪に染まったタケルには、その力を発揮する事が出来なかった。

「だめだッ! 変形できねぇ! 竜に変われない!」

「万策尽きたようだぎゃね、アニキ……これでポリニャックの痛みが少しはわかっただぎゃか!?」

「へ……ヘン、えらそう言いやがって! 結局てめぇのやってることと、俺と何の違いがあるってんだよ!?」

「オラはこの世界の争いをやめさせ、獣人の平和を築くために立ち上がっただぎゃ! これ以上、ヤマトや人間の好きにはさせないだぎゃよ!」

「だから戦うってのか? だから破壊して人を殺すってのか!?」

「だ、黙るだぎゃ! アニキに言われる筋合いはないだぎゃー!」

バギャン! ドガガッ!

ヤマトタケルは、またしても城壁に突っ込み、瓦礫に埋もれてしまった。

「へ、へへへ……うへへへ……」

タケルは突然、不気味に笑い出した。

「なんだぎゃ? 打ち所が悪くて頭がおかしくなっただきゃか、アニキ?」

「へへ……いや、なぁに。ちょっとずつわかってきたんだよ」

「!!」

(まさか、ムガイル攻略法に気付いただきゃか?……いくらアニキでもそれはムリだぎゃ……)


 もしタケルが、この短時間でベンのムガイル攻略法を編み出したなら、それは恐るべし戦闘センスである。

ベンは、今までのタケルの急成長ぶりを見てきただけに、背筋が凍る思いをした。


「お、オラだってこの短期間でイッキに強くなっただぎゃ! それはポリニャックのおかげでもあるだぎゃ!」

「ポリニャックだって? ポリニャックがてめぇに何かしたのかよ?」

「あいつは……ボロボロになってオラの前に現れたポリニャックは、もう昔のあどけないポリニャックじゃなくなっていたぎゃ……悲しみによって溢れ出したインガは、オラたちの力を限界まで引き出すインガだったんだぎゃ!」

「ポリニャックのヤロウにそんなインガが……そうか、それでてめぇはそんなに力をつけたってワケだな?」

「ボブソン師匠の過酷な修行を乗り越え、オラは見違えるように強くなっただぎゃ……でも、それでもアニキには適わない、そう確信しただぎゃ……やっぱアニキはすごいだぎゃ……」

「ヘン! 今度は俺を持ち上げようってのか」

「でも! ポリニャックの力を引き出すインガによって、オラの力はこうしてアニキを上回ることができただぎゃ! ポリニャックが受けた悲しみは、オラがアニキに突き返してやるって約束しただぎゃ! だから絶対負けられないだぎゃ!」

「へん! てめぇは昔っから人の力を借りなきゃ何もできねぇクズだったからな! わはは!」

「お、オラを……オラをバカにするのは許せないだぎゃーーーっ!!!」

ブンッ! ザシャ!

「よ、避けた? バカな……オラの攻撃を避けるなんて! マグレだぎゃ!」

ブンッ! スッ!

タケルのヤマトタケルは、先ほどよりもしなやかな動きでベンの攻撃をかわした。

「ま、またっ! まさかアニキは、オラのムガイルを見切っただきゃか? バカな、そんなバカな……」

「不思議なことはひとつもねぇぜ? ずっとてめぇの攻撃を受けながらレッスンしてたんだよ。どうやったらテメェのそのムカツク技をかわせるかってな! だがそれもここまでだ、てめぇの攻撃はもう一度も俺に当たることはねぇ!」

「バカな! バカな!……オラが命をかけて習得したムガイル……それにポリニャックの悲しみを背負っても、アニキの強さには及ばないということだきゃか? そんな理不尽なことってないだぎゃーっ!!」

逆上したベンの攻撃!

しかし、またもタケルをとらえることは出来ず、遂には立場は逆転してしまった。

バゴッ!

タケルの攻撃がはじめてヒットした。ニヤリと笑うタケル。

「バカな! バカな! バカなだぎゃーっ!!」

ブン! シュ! バッ!

虚しくもベンの攻撃は空を切り続ける。

「おめぇの修行は無駄だったようだな! 努力だけでは乗り越えられない壁があることを思い知れッ!」

その瞬間。タケルのインガが爆発的に上がった。

そして、タケルから見たベンの動きは、まるで止まっているようにゆっくりとスローモーションのように見えた。

ドバシュッ!

ヤマトタケルの放った刀の一閃によって、虹のような大きな光が大空に描き出された。

「ぐあっ!……今のオラの力じゃ、まだアニキに敵わないだぎゃかっ!?」

「器が違うんだよ、俺とおまえじゃな!」

「くっ! ぐうぅっ!」

両足をバッサリと切断されたベンのガルバインに、反撃の力は残っていなかった。

だが、タケルはとどめをささない。

オパールやネパールを処刑したほどの残酷なタケルは、何故、ベンを生かしておくのか?

「俺は弱いヤツに興味はねぇ。俺は常に強いやつと戦いてぇんだ。もっと強くなってからまた来い。その為だけにてめぇを生かしといてやるぜ!」

この言葉は、ベンにとって最高の屈辱であった。

タケルの戦闘欲を満たす為だけに生かされる……こんな屈辱はないだろう。

「ううう!……許さない……オラは絶対にアニキを許さないだぎゃ!」

上から見下したタケルの視線。それを下から睨みあげるベンの視線。


 かつてはケンカ友達でありながらも、アニキと慕われた間柄であったニ人。

何の因果か、このニ人はお互いにいがみ合い戦うことになってしまった。

何故そうなったのか? そこにはありきたりな理由は見つからない。

生きるという至極自然な行為によって巻き起こされた悲劇。

それは誰も恨むべきものではない。

だが、他人を恨むことで己を正当化するのが、人のサガと言うべきであろうか。


「おやおや、負けてしまったようですね、ベンは。何とも情けないですなぁ」

「まったくだらしないわね……弱い男に興味はないわよ~」

「ふんっ! だから俺様にやらせろといったのだっ!」

三人の獣人は、ベンのガルバインの側に集まった。

「今度はてめぇらが相手になるってのか? いいぜ、どっからでもかかってきなッ!」

タケルは三人の獣人を相手に戦う気でいた。

ベンひとりにすら手こずったのに、強力なインガを持った獣人三人を、同時に相手にするのは無謀だとわかっていた。

「まぁよいでしょう。我々の役目も果たしたことですから、ここは一旦引くことにしましょうか?」

「そうね、なんだかアタシ疲れちゃったわ~。早く帰ってお肌の手入れしなくちゃ」

「ふん! まだまだ暴れ足りんが、とりあえず王の命令は果たしたからな!」

三人の獣人はベンのガルバインを担いで空に飛び上がった。

「王の命令だと? それは一体誰なんだ!」

「ふふ、そう焦らなくてもいずれわかることですよ、タケルさん」

「焦る男は嫌われるわよ~。ゆっくりやさしく、ね? うふふ」

「ふはは! その時まで首を洗って待っておるがいい、オボロギタケル!」

そう言い残して獣人は上空へと消え去っていった。

「ま、待ちやがれてめぇら!……ち、獣人どもめ、面倒なことになってきやがったぜ」

そう言いながらも、タケルの口元はニヤリと笑っていた。

タケルは、これから起こる戦乱の予感に、身震いするほど喜ぶ自分を感じていた。


 戦いが終わり、レジオヌール城に静寂が戻る。

しかし、その被害は簡単に修復できるものではなかった。

ヤマトタケルから降りたタケルは、紅薔薇を呼びつけた。

「てめぇ、何で隊長の命令を聞かなかった? なんで犬神の野郎を心配した? 言ってみろ!」

「そ、それは……」

紅薔薇は押し黙ってしまった。

「タケル、いや隊長。紅薔薇様に罪はない。女性なら愛しい男性のことを気遣うのが当然なのですよ」

「何だと、愛しい? どういうこった?」

「ふふ、インガの力は強くても、こと男女の関係については全く無頓着のようだ。紅薔薇様は貴様ではなく、私を愛しているのだ。貴様のような非情な男に興味はないということなのだ!」

犬神はタケルに指を突きつけた。しばし睨み合うふたり。

「……へん、そういうことか。クソくだらねぇ感情に振り回されやがって」

タケルは犬神から視線を外し、鼻で笑った。

「くだらないだと? 貴様には紅薔薇様の悲しみなど少しも理解できまい! 身も心も、悪魔に魂を売り払ってしまった貴様にはな!」

「……魂を売って悪魔になったんじゃねぇ、俺自身が好んで悪魔になっただけだ……」

そう言ってタケルは、犬神を鋭い眼光で睨み付けた。

「くっ……!」


 男と女の愛すら否定するタケルには、以前の人間味溢れる心は微塵も残っていないのだろうか?

戦いの欲望こそが、全ての感情を根こそぎ刈り取ってしまったのだろうか?

変わっていく者には他人の声など届かない。

どちらが正しいか決める事など無駄なことなのかもしれない。

そこには、以前の心を全て捨て去った、生粋の悪魔がいるだけであった。


「ゴホゴホ……」

紅薔薇は咳き込み、地面に膝を落とした。

「大丈夫ですか、紅薔薇様? 戦闘でお疲れなのでしょう。さっ私につかまって」

「だ、大丈夫だよ、たいしたことはない……ゴホゴホッ……」

犬神は紅薔薇の肩を抱きかかえた。そしてタケルの方を振り返り冷たい視線を送った。

「へん、クソどもが……!」

タケルの見下した目には、紅薔薇の悲痛の表情は映ってはいない。


 獣人達がレジオヌール城に残した傷跡は、かなりのダメージであった。

ヤマトの戦武艦と、レジオヌール国を同時に奇襲した獣人達。

その戦力を誇示するだけでも十分な効果があったようだ。

獣人の目的はそこにあったのかもしれない。

意気消沈したレジオヌール国は、いつまた襲ってくるかもしれぬ敵に怯え続けることだろう。

心と体に植え付けられた恐怖心。それを簡単に拭える術はない。

そしてここに、自らの野望を推し進める人物が、着々とその願望を実現させていた。

皇帝アマテラス。

同盟国の王を殺してまで手に入れたい野望とは、一体何であろうか?


 タケルの野望、そしてアマテラスの野望。

ふたつの野望は重なり合って膨らんでいった。

そして、更なる戦渦を巻き起こしていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る