第6話 砂の海賊アジジ

はたして人は、自分の邪魔をする存在が失せれば満足できるのか

相対する者の存在があるからこそ、己を満足させるのではないだろうか



 第六話 『砂の海賊アジジ』



 自然の摂理というものがある。

力なきものは力あるものに敗れ、強い者は弱いものに統治される。

この世界、「ヤマト」の理であり、ごく当たり前の理である。

それが、全宇宙の万物の法則。


 ヤマトの人々は、より多くの食料を求め、金を求め、そして土地を求め、他国へと侵略をしていった。

結果、各地で暴動が起こり、戦乱の世が続いた。それは、地球という星の戦国時代に少し似ていた。

ヤマトというひとつの星。

この星のこの世界では、それが当たり前になっているのかもしれない。

そんな世界に、記憶を失くして放り出された少年、「タケル」

しかし、タケルは熱砂で倒れ、いまにも命の灯が尽きようとしていた・・・



「オイ! いい加減起きやがれッ!」

ゴスッ!

「いてッ!!」

タケルの首は、反対側に捻れるほどの衝撃を頭に受けた。

「いたた……ん? どこだここは?」


 タケルが目を覚ますとそこは船の上だった。木で組み上げられた船の上の甲板だった。

「船……なのか? ということは、ここは海……」

辺りを見回すと、ガラの悪そうな船員たちが、忙しそうにあくせく走り回っている。

だとすると、ここは地獄の熱砂から開放された、水しぶき舞う海の上!

タケルは嬉しくなって、ガバっと起き上がると船の外へ身を乗り出した。

「おほぅ! うみぃー!!……あり?」


 ところが、そこは、青く透き通るような海面でもなく、水しぶき舞う水面でもなかった。

殺風景な灼熱の砂漠であった。その砂の上を、この船は滑走しているのだった。


「ありゃ、なんでぇ! 海の上かと思ったらさっきの砂漠じゃねぇかよ!」

タケルはとても残念そうだった。

ゴヅンッ!

突然タケルの頭上にまた衝撃が起こった。

「いってぇ! 何するんだこの野郎!」

「オイっ! 新入り! いつまでも寝ぼけてねぇで働きやがれっ!

ここで働かない奴は、生きていく資格がねぇんだぞ、ワレ!」


 タケルが振り返ると、そこには、いかにも海賊というファッションに身を包んだ男が立っていた。

その男の姿がまた特徴的で、フランスパンのように大きな鼻に、不精に生えたモジャモジャのヒゲ。

片目に眼帯、左足は義足のようだった。


「なんだ、オメェは?……仮装パーティでも出るのかよ?」

ドゴヅンッ!

またまたタケルの頭に衝撃が起こった。

「いってぇな! 3度も殴りやがって、このモジャヒゲ野郎!」

「ほぅ、威勢のいい男だな、ワレ……」

その男は、上着に隠された腕を組むと、右腕の代わりにサーベルがついていた。

「な、何者だよ、てめぇ……」

「ワシか? ワシは砂の海賊であり、この船、サンドサーペント号の船長……」

「す、砂の海賊だってぇ?」

「その船長であるアジジだっ! ワレ!」


タケルは、海賊の船長と名乗るこの男に困惑した。

その井出達や船の様子を見ると、冗談ではないことを理解した。


「アジジ……俺は確か砂漠に飛ばされて、それで……どうしてここにいるんだ?」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで帆を張るのを手伝いやがれ! 

今度、文句言ったらドタマかち割るぞ、ワレ!」

アジジと名乗る海賊の、有無を言わさぬ迫力に、タケルは思わず飲み込まれた。


「なんだよ、いったいこいつは……ありゃ? あそこにいるのはベンとポリニャックじゃねぇか?」

船の船室入り口からは、ベンが荷物を抱え、えっちらおっちらと運んでいた。

その横ではポリニャックが一生懸命モップがけをしていた。

「おい、ベン! それにポリニャック!」

「あ、アニキも気がついただぎゃか!」

タケルはベンのところに走って近づいた。

「おい、どうなってんだよベン! 俺達はたしか砂漠に飛ばされて、それから……えっと……」

「あのアジジとかいう海賊の船長に助けられただぎゃよ。

やたら怒ってコワイだけども、悪い人間じゃねぇだぎゃよ」

「ああ、顔は悪者そのものだけどな……なんかこう、調子が狂っちまうなぁ」

タケルは頭の後ろをポリポリと掻いて、アジジの方をちらっと見た。

「コラァッ! おめぇ何サボってんだ! メシぬきにしちまうぞ、ワレ!」

「ひえっ、メシぬき!? それだけはカンベン!」

タケルは、こりゃたまらんと思い、マジメに帆を張る仕事を手伝った。

そして、夕暮れまでみっちり働かされ、ヘトヘトになった頃、やっと仕事が終わったのだった。



「よぅしっ! 今からメシにする! 見張りを交代でつけ、警備をおこたるなよ、ワレ!」

タケルとベンは疲れ果て、背中を合わせその場にペタンと座り込んだ。

しかしポリニャックだけは、元気イッパイでウキウキしていた。

「ああッ、これぞ海賊! これぞ男のロマン! 

そんな汗臭い男達の生きる場所に、ウチは今いるんだっぴょねぇ、ああ~ッ!」

どうやらポリニャックは、ひとり勝手に妄想の世界へ入り込んでいるようだった。


「のん気でいいよなぁ、夢見る乙女はよ。これからどうなるんだよ、俺たち?……」

「さぁ、そんなことオラに聞かれても困るだぎゃ……それよりメシが喰いたいだぎゃ……」

「はっはっ! 船の仕事はどうだ、ワレ! けっこうキツイだろ? はっは!!」

豪快な笑いとともに、船長のアジジがタケルたちの前にやってきた。

「オッサン、砂の海賊っていったい何者なんだよ?」

「アジジ船長と呼べ! しかし口の聞き方を知らんガキだな、ワレ。まぁ元気があってよろしい!

はっは!」

「オラ、聞いたことあるだぎゃ。ジュジュエンの砂漠に徘徊するタチの悪い海賊……

砂の盗賊ってのはアンタ達のことだぎゃ?」

「タチの悪いとは失敬な! キサマも口が悪いな、ワレ!

ま、今夜は船員初日だ。大目に見て歓迎会を開いてやるから感謝しろ、クソガキども! はっは!」


(口の悪さはオッサンも変わらないじゃねぇかよ……)

そう思ったタケルの前に、酒やご馳走が運ばれると、とたんに元気な態度に変わった。

「ひゃあ、待ってましたぁ!」

そう言うが早いか、タケルとベンは料理にかぶりついた。

「まったく元気のいいガキどもだな、ワレ! ハッハ!」


船上の甲板でテーブルを囲み、船員とタケル達はおおいに飲み喰い、語り、そして踊った。

砂漠の夜はかなり冷え込むが、それを感じさせないほど熱く盛り上がっていった。

そして、船上から見える漆黒の空に、大きく光る月が最高のつまみになった。


「おほほぅ! 海賊ってのも悪くねぇじゃねぇか!……ヒック!」

タケルは酔って、すでに出来あがっていた。

「アホゥ! ただ楽しいことばかりじゃねぇぞ、ワレ! この辛い環境で生きていくのは大変なことだ。

しかし! 苦労した分、喜びも大きいのが良いところだな。わっはっは!!」

船長アジジもかなりの大酒飲みで、完全に出来あがっていた。


「しかし、てめぇ達もよっぽどバカだな。この砂漠をなんの装備もなしで渡ろうとするなんてよ?」

一緒のテーブルにいた船員がタケルにそう尋ねた。

「それがよ……聞くも涙。これには深ぁー~い訳があるだぎゃよ? ね、アニキ」

テーブルのすみで、シンミリと渋く酒を飲んでいたベンが急に語り出した。

「お! いいねぇ、そういうヤツ! ワシは他人の生き様まで深く突っ込みはしねぇ。

この船に乗っている奴はみんな訳アリの連中ばかりだからな。」

「そうみてぇだな。どいつもこいつも悪人ヅラしてるからな~」

「言ってくれるな、タケル! だがよ、てめぇには、こう……何か他の奴とは違う何かを

背負っている気がしてならねぇんだよ、ワレ!」

「さすが砂の海賊アジジ船長だっぴょ! ダーリンのすごさを見抜くなんて、スゴいっぴょ!」

「だぁりんだぁ? こんな小さなレディーを射止めちまうなんざぁ、いやはや、

おめぇさんはたいした男だな! はっは!」

「ちげぇよ、オッサン! コイツとは何でもねぇよ!」 

タケルは頑なに否定した。

「あーん! ひどいだっぴょ! あの夜の事は、間違いだったとでも言うだっぴょか?」

「オーッ!?」 むさ苦しい男どもが身を乗り出して話に混じってきた。

「あの夜? あぁ、ポリニャックが夜中にオシッコしたいって、俺を起こしたコトかぁ?」

「ああん! それ言っちゃダメだっぴょ~! もぅ、お嫁に行けないだっぴょ~~っ!!」

ワハハハハっ!! 船中には明るい笑いが広がっっていった。


「あれぇ、ちょっとォ? ずいぶん盛り上がっているじゃない?」

その時、アジジの側にひとりの少女がやってきた。

それを見たタケルは、ギョッっとして驚いた。

「な~にキミ? お化けでも見たように、人の顔見て驚いちゃってぇ。

ア、わかった、いわゆる人目惚れってヤツゥ? なんちゃってね、アハハ!」

その少女は明るくケタケタと笑った。

「オマエは……も、萌! な、なんでこんなところにいるんだよッ!?」

タケルは、その少女の肩を掴んだ。

「も、モエ?……ちょ、ちょっと! 私は違うわよ……あン、もぅ離してッ!」

バッチィン!

その少女はタケルの頬を、力一杯ひっぱたいた。

「う……す、すまねぇ、どうやら酔っ払って見間違えたらしい……」

「もぅダーリン! ウワキはだめだっぴょ!」

ポリニャックが怒って、ぴょんと飛び跳ねた。

「おいタケル。こいつは、キリリって言ってな、この船のコックだ。

おめぇが誰と間違えたかしらねぇが、よっぽどの訳アリらしいな」

「……」

タケルは無言でうなずいた。

「良かったら、オレに話しちゃくれねぇか?」

さきほどの、キリリを誰かと見間違えたタケルの豹変ぶりに、アジジはタケルに深い関心を持ったようだ。


「あー、コホン。それならオラに任せるだぎゃよ!」

そう言ってベンは、三味線のような楽器を持ってきて、引き語りを始めた。

「はぁ~~! オラのアニキはよォ~! ダンゴっ鼻の暴力男~! あ、チョイナチョイナ!」

「ぐ!……てめぇ、ベン!」

ベンを殴ろうとするタケルを、船員が笑いながら取り抑えた。


タケルも、ベンの引き語りが上手いので、仕方なく許す事にした。

その引き語りは、しばしの間続き、船上の皆は誰もがそれに聞き入った。

いつのまにか見張の船員までもがそこに聞き集まったいた。

そしてフィナーレ。ベンの語りは最高潮を迎えた。


「コレがアニキのジンセイ! ワォ! セツナイ、ハカナイ、ドウショモナイ! ワォワーオ! イェイ!」

いつのまにかラップ調になっていた。

オォ~ッ!! パチパチパチ! 船上の皆が、涙を流して感動している。

「いやぁ! イイ話しだったなぁ!」 「とっても泣けただよ!」

(泣ける話じゃねぇんだけどな……) タケルはそう思った。


「いやまぁとにかく! タケル、おめぇのいきさつはわかったぜ、ワレ!」

「おいおい……本当にいまのでわかったのかよ?」

しかし、アジジは涙を拭いながら、頬を涙でグショグショにして感動していた。

「実はよ、オレもオマェと同じ世界から来たかもしれねぇ……って言ったらどうする、ワレ?」

「い、今なんつった、オッサン!?」

タケルは驚いてアジジの顔を見上げた。

「だから、かもしれねぇって話だ。ま、落ち着いて聞けや。オレもな、昔この砂漠で倒れてたんだ。左目、右手、左足……そこいらじゅうがチョン切れた状態でな」

「そ、そいつはヒデェな」

「んで、瀕死のオレを見つけて拾ってくれたのが、ここにいるキリリだ」

タケルはキリリの顔を見た。

(どことなしか似ているぜ、萌に……)


アジジの話は尚も続いた。

「んでな、このキリリの親父が、この船の船長だった。

オレはそのオヤジに憧れと尊敬を抱いて、この船の為に働いた。働いた。働いた。

最初は、よそ物だって煙たがっていた船員達も、次第に心を開いてくれたんだな、ワレ!」

「てへへへ……」 船員とアジジは照れ臭そうに顔を合わせて笑った。

「ところがだ、ワレ! あいつらが……ヤマトの連中がオヤジを!!」

アジジの顔付きが急に険しくなり、押し黙ってしまった。


「そこから先は、アタイが話すわ」

そう言って、キリリが話しを続けた。

「私ら砂の海賊はいわゆる義賊よ。だから、困ってる人は絶対に襲わない。

襲うのは、暴利をむさぼるクズたちだけだわ」

「へぇ~、海賊っていうわりには良い人たちだっぴょね」

「だから、この地域を管理しているヤマトの連中からすれば、反乱分子を抑える、

いわば必要悪って存在なの」

「またヤマトか……」

「でもだぎゃよ? 義賊って言っても、結局、金や食料を相手から奪い取ってるだけだぎゃ?」

ベンの発言に、一瞬、場が固まった。

「ち、ちがう! アタイ達は人の命を無闇に奪うことはしない!」

「でも、ケガさせたりはするんだぎゃ?」

「そ、それはたまには……でも、仕方のないことさ!」

「よせよ! ベン!」

タケルは、返答に困るキリリに助け舟を出した。どうもベンは、自分の考えを主張したがる性格らしい。


「それで、あんたの親父はどうなったんだ? キリリ」

「ヤマトの国の連中は、アタイ達を兵隊にしようと持ちかけてきたのさ。

ヤマト軍は武力強化を進めていたからね。もちろんオヤジは断ったさ。

でも、それが原因で見せしめに殺されちまったよ……」

「そうか……ヤマトの国……ヤマトか」

またしてもヤマト。この言葉はいつもタケルの耳に入ってくる。


「ひどい話だっぴょね! ヤマト軍は!」 

ポリニャックが憤慨している。

「ああ、最近のヤマト国は、なにかと騒がしいからな。獣人狩りも、ヤマト国のヤツラが

行っているっていう、もっぱらのウワサだからな、ワレ」

「なんでだぎゃ! なんでヤマトは獣人を狙うだぎゃ!?」

「おそらく、獣人の戦闘力を、兵力としたいんだろうな、ワレ」

アジジはベンの顔を見てそう言った。

「そ、そんな理由で獣人狩りをしているっていうだぎゃか!?」

「そんなのぜったいに許せないだっぴょ!」

「ヤマトって国が、ここらで番はっている……

キリリの親父を見せしめに殺した……そして兵隊を増やそうとして獣人狩りをしている……

それはわかったけどよ、オッサンは何で、俺と同じ世界から来たかもしれないって思ったんだ?」

タケルはアジジに疑問を投げかけた。

「それはな、ワレ……」

アジジが真面目な顔でタケルを睨んだ。

「そ、それは何だ?」

タケルはゴクリと喉を鳴らした。

「おめぇのデカッ鼻が、俺と似ているからだよっ! わっはっは!!」

「な、何だよそりゃ?! 真剣に聞いて損したぜ!」

まわりのみんなは、タケルとアジジの鼻を一斉に見比べた。そしてナルホドという顔で大笑いした。

その笑いをツマミにして、船上の皆はまた酒を大いに飲み、笑いに明け暮れた。

その時……


ドッゴォオン!


「な、何だいまの音は?」

「見張りは何をしていたんだワレ!?」

「す、すいやせん船長! つい、気をぬいちまって……」

「いいわけはあとだ! それより状況を報告しろ! ワレ!」

「船長! 何者かがこの船を攻撃していやす!」

「むぅ~、無敵とうたわれたこのサンドサーペント号を攻撃するとはどこのバカだ!」

「アジジ、わかったわ! 赤目よ!」

キリリはアジジに向かって叫んだ 。

「なんだと!? 赤目だって!?」



サンドサーペント号に乗るタケル達を襲う謎の敵。

その様子を、遠くから望遠鏡で伺うひとりの人物。

「ふふふ……」

バギーに乗り、派手な黄色のフードをかぶっていた。この男は?……

そう。タケル達を尾行している犬神善十郎であった。

「思い知ったか、タケル! 私の手を汚さなくても貴様を倒してくれるわ。

そいつらはしつこいからな、肉も残らんように切り刻まれるがいい! うわっははは!」

復讐を遂げる為、犬神はタケル達を襲わせたのだった。



サンドサーペント号を襲う物体。アジジはそれを見て驚いていた。

「あれは ヤマトの無人攻撃機だ! 何で俺達を攻撃するんだワレ!」

「わからない! とにかく戦闘準備よ!」

「オッサン! キリリ! 一体どうしたってんだよ!?」

「あいつらが私達を襲ってくるの……見えた、アレよ!」

キリリが船の上から砂の中を指差す。

そこには、触手のように長い手を2本持ち、赤く光る目をした楕円の物体が砂の中から現れた。

「ヤマトのやつらとオッサン達は敵じゃないんだろ? どうして攻撃してくるんだ!?」

「わからん……あれはヤマトのやつらがここら辺を監視するために設置したものだ。

何かしらの警告なのかもしれんが……」

「オッサン! この船にも武器はあるんだろ? それでやっつけちまえよ!」

「しかし、ヤマトにケンカを売るワケにはいかんのだ、ワレ」

「そんなこと言ってたらやられちまうぜ!」


ズガガガガ!

キリリは、船に装備それているモリで赤目という無人機を狙った。

しかし、赤目は動きが素早く、しかも大きさが50センチくらいしかないのでなかなか当たらない。

「キリリ! ワレ!」

「あのネェちゃんが正解だ! 俺にもやらせろ!」

タケルも、モリを持って投げつけるが当たらない。

「たしかにすばしっこい連中だな! しかし、このままじゃラチがあかないぜ! どうするアジジ?!」

「出力を上げて逃げ切るしかないな、ワレ! 

だが、残りの燃料がいつまでもつかわからん! クソ、こんなときに!」


スピードを上げて赤目を引き離そうとするサンドサーペント号。

しかし、燃料が少ないらしく、全てのブースターを全開に出来なかった。

赤目はその数をドンドンと増やし、船の後部にはビッシリと取り付かれてしまった。


「おいおい!まずいんじゃねぇのか!?」

「ひいぃ! こっちまで迫って来ただぎゃ!」

ベンが叫んで指差すと、そこにはウジャウジャと赤目が船内に浸入していた。

「このクソ野郎ッ!」

タケルは赤目に殴りかかった。

ゴヅゥン!

「あてーっ! とんでもなく硬いヤロウだな!」

「素手じゃムリだワレ!こいつを使えタケル!」

アジジは、タケルに向かって刀を投げた。

「サンキュー! よっし、これなら……てやぁ!」

ガギィン!

しかし、赤目にはタケルの刀は効かなかった。

「くそっ! ぜんぜん切れねぇじゃねぇかよ! このナマクラ刀め!」

「そうじゃないよ! 見てな、タケル! 刀ってのはこうやって使うんだよ! はああッ!」

キリリの握った刀から青い光が発せら、赤目はまっぷたつに切断された。

「おおお! くらえ、ワレ!」

アジジの右腕のサーベルからもインガが発せられる。

「あれはインガ……そうか! わかったぜ!」

「大丈夫なのかい、タケル! 素人が無理するんじゃないよ!」

「へへ、俺がシロウトかどうか見てなって……いくぜ! うおお!」

タケルの放出したインガが刀に集まり、それが青白く発光してゆく。

「え?」

キリリもアジジも、タケルのインガに驚いた。

「むぅ! ここまで強大なインガを使うたぁ、やるなタケル!」

「あったりまえよ! くらえッ!」

「バカ! そんな大きなインガを放ったら!……」

ブウゥン! バシュッ!

タケルの刀に収束されたインガが、赤目の大群にむかって放出された。

ズッガアァン!

それを喰らった赤目の大群は木っ端微塵になった。


「やったぜ! どうだいアジジ! キリリ!……あれ?」

確かに赤目の大群をやっつけることはできた。

しかし、あまりにもタケルのインガが強すぎて、サンドサーペント号のエンジンまで傷つけてしまった。


「もう! 赤目をやっつけたのは感謝してるけどね。どうすんのよ? 船まで壊しちゃって!」

キリリはタケルに怒鳴りつけた。

(うわぁ……怒ったところなんか萌そっくりだな……)

タケルは思わずたじろいだ。

「まぁまぁ、赤目を追っ払えたんだから良しとしよう。それにしても驚いたぞ、ワレ!

おまえがそんなに強いインガを持っているなんてな! はっは!」

「ま、まぁな……でも船を壊しちゃイミねぇよな……」

「ちいせぇことは気にすんな、ワレ! もう少しで俺たちのアジトに着くからそこで修理すればいい。

それより酒だ! 勝利の美酒とシャレ込もうじゃねぇか!」

「お、いいねぇオッサン! 今夜はとことんつきあうぜ!」

「まったく……アジジったら考えが軽いんだから!」

「ホントだっぴょね。誰かさんとそっくりだっぴょ」

「そうね。そういえばあのふたり似ているかもね、うふふ」

「そっくりだっぴょ! あはは!」


キリリは思った。

(それにしても、今まで私達を監視していたヤマトの赤目が、何故いきなり襲ってきたのかしら……

ただの暴走なの? いや、そんなことはあり得ない。何かの変化がなければね……

変化……もしかして、タケル達がこの船に来たことが関係しているのかしら……

ただの思い過ごしならいいんだけど……)



そして、あくる日の明朝。

「あ~っ……頭がガンガンするぜ、さすがに飲みすぎたかな……」

タケルは船の甲板に出て、朝の空気を吸った。

「おう、タケル! 早いじゃねぇか、ワレ! 他の船員は二日酔いでブッつぶれているのに、

おめぇは酒もなかなか見所あるじゃねぇか! はっはっ!」

「船員達を酒樽に頭から突っ込んで溺れさせたのはどこの誰だよ? 二日酔いになって当たり前だろ!」

「はっは! 堅いこと言うな!」

「まったく……このオッサンは」

「それより決めたぞ、おれもそのサエナ遺跡とやらへ行くぞ!」

「はぁ? バカ言うなよオッサン! 俺たちゃ遊びに行く訳じゃねぇんだぞ!」

「おれも遊びじゃねぇさ、ワレ! オレもここに来る以前の記憶が全くねぇ……

ひょっとしたら、そのサエナ遺跡に行けば何かが掴めるかもしれねぇ!」

「この船はどうすんだよ? オッサンは船長だろ?」

「たとえこの船を降りてもおめぇらと行くぞ、ワレ! もう決めたからな! はっは!」

「ま、マジかよ、このオッサン……俺以上に軽いヤツだな」

「これでキマリだね?」

タケルが後ろを振り向くと、キリリの声とともに船員達がそこにいた。

「船長いきましょうぜ! そのサエナ遺跡へ!」

「謎を解き明かす神秘……うう!なんだかワクワクしてきちまうよなぁ、みんな!」

船員達は皆、アジジに賛成のようだった。

昨晩のタケルの戦いを見て、この男は只者ではないと皆が認めたのだろう。

「ワレ、てめぇら……」

アジジは目にうっすら涙を浮かべ、ヒゲ面がしわくちゃになった。

「鬼の目にも涙ってヤツか、オッサン? わはははっ!」

タケルが豪快に笑うと船員達もつられて大笑いした。

「う、うるせぇ……この!」

アジジがタケルの鼻を思いっきり引っ張ったので、タケルも負けじとアジジのヒゲを引っ張った。

それを見た船員達は、さらに笑いを重ねた。


(この魅力……これがアニキの魅力だぎゃな……)

ベンはこの笑いには加わらず、遠くの物陰からタケルのやり取りを見ていた。

それは、自分にない魅力を持つタケルに対しての憧れなのだろうか。


「それじゃぁてめぇら! 出発だぁワレ! 帆をあげよ! 取り舵いっぱーい!!」

「オオォーーー!!」

船員の士気は高まり、新たなる仲間と共に目指すはサエナ遺跡。

そこには何が待ち受けているのか。

タケルの記憶……そしてアジジの記憶……

この二人には何か深い関係があるのだろうか?

そして、ヤマトの赤目が襲ってきた理由とは?

とにかく目的地の決まったタケル達一行は、この広大な砂漠をひたすら進んでゆくことになる。


「アジジ船長……」

「ん? どうした、ワレ」

「サンドサーペント号の燃料を補給しないとヤバイですぜ」

船員が険しい顔つきで言った。

「ム、もうそんな時期か……なんとか足りると思っていたんだが」

「いえ、昨晩の戦いの時、赤目に燃料タンクを破られたみたいで。それと……」

「タケルのあの無茶な攻撃のせいだな、ワレ」

「なんとか補修したんですが、かなりの量が漏れちまったようで、このままじゃアジトまでもちませんぜ」

「そりゃ困ったな……やれやれ仕方ない、出来るだけあそこには近づきたくないが止む終えんな、ワレ」

「やっぱ寄るしかねぇですね……あの村に……」


そこにタケルがやってきた。

「どうしたい、オッサン? 小難しい顔しやがって、便秘か? わはは」

「タケル、この船に乗り込んで早々災難だが、船の補給の為にある村に行かなきゃならんぞ、ワレ」

「船の補給? こんなだだっ広い砂漠に、そんな村があんのかよ。バザーでもやってんのか?」

タケルは見渡す限りの砂漠を見てそう言った。

「バザーでもやってればマシだがな。そんな気の利いた村でもない。まぁ行けばわかるさ、ワレ」

アジジの毛むくじゃらの顔が険しく曇る。

砂漠の海賊と恐れられているアジジ達は、何故、たかが補給に訪れる村を警戒しているのだろうか?

「へん! 何があろうが、こんな砂だらけのところよりはマシだぜ。早くそのオアシスとやらへ行こうぜ!」

タケルは自慢の団子っ鼻を、人差し指で擦って言った。

「確かにおまえの言うとおりだな、ワレ」

「へへ!」

「その村は、ここからまだまだ見えんがな、この方角に何か感じないか、タケルよ?」

アジジの指差す地平線の先には、蜃気楼でモヤがかかって何も見えなかった。

「……特別に感じねぇが……ちょっとイヤな感じはするな」

タケルは確かに何かを感じていた。それは、これから起こる不吉な予感なのかもしれない。



ここはとある村。

まだ日が昇らない暗い朝霧の中、ひとりの男が刀を振っていた。

ビシュッ! ビシュッ! ドッガァァン! ズズズズン!……

その鋭い太刀の前に、大きな岩山が音を立てて崩れていった。

「相変わらず凄まじい威力だな……」

「ふふ、この刀が早く血をすすりたくてウズウズしているぜ……」

そこに立つ二人の黒い人影。彼らは一体何者だろうか?

彼らもまた、地平線の先をずっと見詰め、何かを感じていたのだった……



そして、作戦に失敗した犬神は?……

タケルの攻撃に巻き込まれ、バギーは大破し、砂漠の中を必死に走っていた。

「ふふふ……あの村に行くことになりそうだな、予想通りだ。

け、けして、作戦に失敗したワケじゃないからな!」

制御の狂った赤目に追われる犬神。赤目にお尻をかじられる。

「イデェ! くっそ~! 絶対に私が倒してみせるからな! 待っていろ、タケル!」

しつこい犬神は健在だった。

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