第3話

 性同一性障害。性別違和とも。

 自分の身体と心の性別が、違っちゃってる障害のこと。蒼佑の場合だったら、身体は男の子だけど、心が女の子。ってこと。

 とても、とても。苦しい障害なんだそうだ。この辺は授業聞いてたからね。でも、想像してみれば。『苦しい』じゃすまされないような、重たい障害だろうなって、思うよ。私だったら……。耐えられないだろうな。この障害に苦しめられている人は、世界中にたくさんいるんだって。

「蒼佑くん、頑張ってるんだよね。それなのに私、『頑張れ!』なんて。無責任なこと言っちゃったよ」

「うんー。でも、気持ちは伝わったんじゃないかな?」

「だといいけど……」

 波はうつむいちゃった。しばらくの沈黙を破ったのは、波だった。

「どうするんだろ」

「なにが?」

「蒼佑くん」

「あ。ああ。――治療するのかってこと?」

 コクリ、ばかりの波。

「するんじゃないのかなあ。――それこそさ。打ち明けられた波が、聞いてみなきゃだよ」

「私が聞いたら。蒼佑くん、もっと苦しくならないかな」

 それはあるかもしれない。でも私は、

「そうだとしても。それだけ信じられてる、ってことでしょ? 相談とか、乗ってあげなよ」

「ん……」

「まあ、私は聞かなかったことにするので」

「とか言いつつ。放課後、千成もカミングアウトされたりね」

 良かった。そう言った波の目が、微笑んでる。

「まっさか~」

 ――でもそれは。現実になっちゃった。

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