あなたに届け、私のココロ

トモ(MTF)

第1話

「せいどういつせいしょうがい?」

 私の頭の中は、「?」でいっぱいになった。うん、でも。聞き覚えがある、気がする。たぶんだけど……。

「千成(ちせ)。今、『なにそれ?』って思ってるでしょ?」

 苦笑と言うか、なんとも言えない複雑な表情を、波(なみ)が浮かべてる。

「うーん。うん」

 事実だったので、私はコクリとうなずいた。波は肩をすくませて、やれやれと言わんばかりの仕草をした。

「4年生でやったじゃない」

「あー! あー」

「思い出したかな」

「性別違和?」

「とも言うね」

 性同一性障害。英語を略してGIDって言うんだ。ったと思う。保健の授業を真面目に聞いてなかったから、うろ覚え。

 でも、なんでそんなGIDが、お昼休みの廊下で出てくるんだろ? 素直だけが取り柄の私は、聞いてみた。

「んー。じゃ。ちょっと」

「ふぇ? ど、どこ行くの?」

 私の右腕をつかんだ波が、ずんずん廊下を進んで、階段を上り始めた。これだと、行き先は……。きっと、屋上の踊り場だ。

「なんで、こんなトコまで連れてくるのよ~」

「他人の耳は怖いからね」

「そんな、怖い話なの?」

 自慢じゃないが、私はおっかない話が大の苦手だ。

「違うちがう。『壁に耳あり障子に目あり』」

「はあ~」

 スカートの裾をちょんとしながら、波は階段に腰かけた。私も隣に座る。私は、夏っぽくハーパン。

「親友の千成だから話すね」

「ん? うん」

 照れくさかったけど、波の目が真剣だった。

「蒼佑(そうすけ)くん」

「うん? 波の、あこがれの王子様じゃん」

「ん……」

 ズバズバものを言う波が、珍しく言いよどんだ。

「蒼佑、どうかしたの?」

「――この流れで、わかんないかな」

「んー」

 そんなことを言われても、天然な私は空気を読めない。ふう、と波は息を漏らした。

「GID。蒼佑くん」

 は?

 なんですと?

「ふぇ? えーっと……?」

「……」

 波の顔が真っ赤っかになってる。これじゃ、頭上でお湯が沸かせそうだ。

 じゃなくって!

「蒼佑が、性同一性障害!?」

 コクリ、と波がうなずいた。

「ふぇ!? え? なんでなんで?」

「私の方が聞きたいよ」

 座りながら、私は波の肩を揺さぶった。

「じゃ、じゃあ。なんでそんなこと、知ってるの?」

 当然抱く疑問だと思う。

「された」

「?」

「カミングアウト。された、の」

 しえ~~!!

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