(5)しんにょうの点よりも

 夕食作っているとみづきさんが寄ってきた。

「おい、仙太郎、『なぞ』なんだが」

「ん? なぞ?」

「ほら、あれだ。コンボイの『なぞ』とか、エニグマとかの『なぞ』だ」

 エニグマが『謎』という意味のドイツ語ってのはともかく、何でみづきさんがコンボイの謎を知っているのかという、そっちの方かなり謎だけど、訊いたところでカオスな答えしか返ってこない気がするのでスルーする。

「謎がどうしたの?」

「あの漢字の部首、点が二つあったこと、知っていたか?」

「ん?」

 点が二つ――きっとしんにょうの点のことだろう。

「一応知っていたけど……、みづきさん、もしかして知らなかったの?」

「ああ、知らなかった」

 市杵嶋姫命に見出されて女官候補になる前はミズクラゲで、それも人間と同じ身体を手に入れて女官候補になったのはほんの一年ほど前というみづきさん。

 知らないことはあって当然なんだけれども、コンボイの謎は知っているんだよね……?

「字が汚い者の立場からすればどっちでも構わんからな。点など二つあろうと三つあろうと書けばどうせくっつく――どうした? 仙太郎。妙な顔をして」


 口調に似合わないかわいらしい仕草で首を傾げてみせるみづきさんと、妙な知識蓄えさせるより先に漢字の書き取りさせてあげた方がいいよねってそれぼくの仕事? と悩むぼく。

 とりあえず、今日も平和です。

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