第7話 そうなると痛いわよ

 

 銃。

 銃である―――読んで字のごとく普通のピストル―――ではないようだった。

 かなり大きい―――。


「動かないで」


 枯木は構えた銃を俺たちに向けたまま、そう言う。

 無茶言うな。

 かなり大きい銃、と言っても本物を間近で見たことはないのだが、その銃は女性が護身用にとりあえず買いました、というようなサイズでは決してない。

 デザートイーグルのモデルガンを部屋の漫画棚に飾っている友達がいたが、それを連想した。

 モデルガン………だよな?

 ここまで現実離れしていると玩具に見えなくもない。


「おいおい、どういうことだよ、これ」


 落ち着いて口を開くだけの余裕はできた。

 何とかこの場を治めなければ。

 と思うのだが、臼田の方には余裕がないので俺が喋るしかない。

 臼田は両手をゆっくり上げた。

 どうやら銃口がぴったりと向けられているのは彼の方らしいと、気づき始めたので俺は一歩一歩下がり、ロッカーに近づく。

 そのまま話を考える。


「いつも、『そういうの』―――持ってきているのかよ、枯木―――さん」


 そういう銃。

 お前の腕よりも太そうな銃だよ、威嚇用ではなさそうだ。


「余計な動きはしないほうが身のためよ、私の手元が狂わなくても、あなたたちがじっとしていないと予定外の場所にあたる恐れがあるわ。そうなると痛いわよ」


「痛い、で済むのか………?」


「灰沼くん、あなたも歩かないほうがいいわ。………ロッカーに向かっているの?」


「い、いや、そうではなくてだな………」


「待て!枯木!俺が悪かったからそれをろせ、な………?」


 引きった声を上げる臼田。


「心配しないでね。撃ち方自体は『ハワイで親父に習った』程度ではないわ。複数の標的に囲まれた場合ケースの射撃訓練も受けているし、合格しなくてはこれを携帯できないの」


「いや、だから、まず撃つのをやめろって―――む、向けないで………」


 ぱすん。


 と、それこそ玩具のような妙な音とともに枯木の両手がわずかに上方へ跳ねた。

 何かが視界を横切った。

 放たれた銃弾は肉眼でもそうかるくらい大きく、臼田の胸部にしっかりと刺さった。

 命中。

 臼田は一歩、あとずさってそのあと、眠るように倒れた。

 俺は声が出せない。


「麻酔銃よ」


 そう言って、倒れた臼田の近くにしゃがみ込み、身体を転がして、仰向けにする。

 透明な銃弾がくっついていた。

 透明で、その内部にオレンジ色の液体………薬液が見える。

 やけにデカい銃だと思ったが、やはり普通の銃ではなかったのか。

 枯木は銃弾………と言うより小型注射器を外した後、なおも、臼田の夏服をまさぐり続ける。



「まあ、ワクチンも兼ねているからそちらの方がメインなのだけれど―――ああ、手伝ってくれない?灰沼くん」


 恐る恐る近づく俺。


「ホラ、見てこの左腕、手首のところね」


 見れば臼田は左手に怪我をしていて、乾いてかすれた血がこびり付いていた。


「噛まれた跡があるでしょう?危ないのよ―――ああ、あなたにもさっき打ち込んだから、もう大丈夫よ」


「え?」


「記憶がおぼろげかしら。それとも後ろから打ったのが、違いなのかもしれないわね」


 俺は記憶の不確かさに違和感を覚える。


 ―――動くな、クソボケ。


 半藤の怒鳴り声が、フラッシュバックと言うのか?

 思い出される。


「あれ?そういえばメガネが………?」


 枯木はスカートの片方をくり、太ももに巻かれた黒いベルト部分に、先程の銃を差し込んだ―――ホルスターだったらしい。

 枯木がスカートを直し、立ち上がったあとも、俺の目蓋まぶたには脚の白さが焼き付いていた。


「さて、廊下に出るわよ―――彼、臼田くんはしばらくすれば目が覚めるわ。それまで動かさないほうがいい」


「何者だよあんた」

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