第一話 え、不死身なんですか!? 

 目が覚めると、ガラガラと音を立てて、天井が落ちてきていた。

 負けると壊れるシステムの拠点にしたのが失敗だった。

 まさかこうも簡単に負けるとは、夢にも思っていなかったのだ。


 崩壊する拠点の中で、一人床に這いつくばる俺。

 勇者達は俺を倒し終わると、都合よく現れた仲間の手によって、外へ瞬間移動していた。

 道連れにするはずだったが、それも叶わず俺はこうして拠点の最深部で、ぼーっと壊れゆく建物を眺めている。

 築一年も持たなかったなぁ。

 しばらく床に伏してた俺だが、ふと大切なことを思い出した。


「あ、そうだ。部下達を避難させないと」


 広めの部屋から通路に出て辺りの状況を確認するが、俺を守る為にいるはずの、部下達の姿はどこにもない。

 おかしいな、皆どこにいったんだ。

 まさか勇者達に全員倒されたとかそういうことか?

 それは非常に困る。後で怒られるから。


 落ちてくる瓦礫を避けつつ、それなりに広い建物内を見て回るが、部下達の姿はどこにもなかった。


「マジかー」


 捜索に時間を割いていたが、いよいよ建物が全壊しようとしている。

 俺はいなくなった部下達のことを思いながら、転送魔法で拠点を後にした。


 転送先は魔界にある魔王様の居城だ。

 魔王城の入口に降り立ち顔を上げると、俺の部下達が大勢集まっている。

 あれ、なんで皆ここにいるの?

 さっきの状況だと、身を呈して俺を守るのが皆の役目だよね?

 俺の姿に気付いた部下達は、冷たい視線を浴びせかけてきた。


「うわ、生きてたよ。相変わらずしぶといな」

「もう勇者に三回も負けてるってのに、どの面下げて帰ってきてんだ」

「俺早くフローネ様の部署に転属したいよ」


 ちょっと待って、聞こえてる。聞こえてるよ!

 そんなに嫌そうな顔しないでよ。

 俺だって負けたくて負けてるわけじゃないんだからさ!

 彼等は俺が近くに通りかかると――。


「ガスト様、よくぞご無事で!」

「生きておられると思っていました!」


 なんて言ってくる。

 いや、君達今俺の悪口いってたよね?

 へらへらとゴマを擦ってくる部下達を無視して、俺は魔王城の中へと入った。


「戻ったか、ガスト」

「あ、は、はい!」


 頭の中に上司のアズガント様の声が直接聞こえてくる。


「会議室で待っている。すぐに来い」

「ぎょ、御意!」


 ああ、これで三回目の敗北だから、またいろいろ言われちゃうんだろうな。

 お腹痛くなってきた。


 会議室の前まで移動してきた俺は、ノックしてドアを開ける。

 中では長方形の机に、他の四天王の面子が席に着いていた。

 室内の空気は重く、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。


「四天王が一人ガスト戻りました!」


 うわ、誰も反応してくれないよ。

 俺は冷や汗をかきながら、一番端の末席に腰を下ろす。

 アズガント様は厳しい表情で俺を見て言った。


「ガスト、言いたいことはわかっているだろうな?」

「は、はい」


 俺は肩を狭めて俯く。

 今日は何時間説教されるんだろうなぁ……。


「また負けたそうねガスト」


 俺と同じ四天王の、序列三番コルペリアルが、くすくすと笑いながら確認してきた。

 青い髪の彼女はその後もおかしそうに続ける。


「貴方何度負けるつもりなの?」

「負けるつもりはないんだけど、勇者達は日々力を付けてるから……」

「何それ、言い訳?」


 コルペリアルは負け続きの俺を非難する。

 そこに、四天王の序列二番フローネが仲裁に入ってくれた。


「そこまでにしておきなさい。コルペリアル」

「ふんっ」


 助かりました。ありがとうございます!

 フローネに心の中でお礼を言っておく。

 さすがモンスターアンケート、部下になりたい四天王ナンバーワン。彼女の一言で序列三番のコルペリアルは黙った。


「それで、今回の敗北の原因は?」


 最後に四天王序列一番の赤い髪をした少女オトラシオが、俺に敗因を聞いてくる。

 俺はありのままの出来事を全て話した。

 部下の配置から戦闘状況、俺と勇者達の戦いの様子等、包み隠さずに報告する。


 アズガント様は報告を聞くと、いつものように怒鳴る。


「なんという様だ、ガストよ!」

「も、申し訳ございません!」


 そしてこの後続く言葉も、過去二回の敗北で定番になっていた。


「しかしアズガント様。ガストは四天王の中でも最弱」


 四天王の中でも最弱。

 何回聞いたかわからないこの言葉。

 並のモンスターよりは確かに強いが、他の四天王と比べると、俺が一番弱いのは確かだ。

 でも俺だって頑張ってるんだよ。

 ただ勇者が会う度に、強くなってるんだから仕方ないじゃないか。

 心の中で愚痴を漏らすが、口に出しては言えないのが悲しい。

 その後も会議は長々と続けられて、俺は精神的ダメージを蓄積させていった。


「本日の会議はここまでだ。お前達、勇者討伐の鍛錬を怠るでないぞ」

「御意!」


 はぁ、ようやく解放される。

 俺は席を立ちあがって、ふらふらと会議室を出ていこうとした。


「ガストよ、お前は残れ」

「御意」


 まだ説教を食らうのだろうか。もう勘弁してほしい。

 他の四天王達が俺を横目に会議室から退出していった。

 ふらふらと席に戻り俯くと、アズガント様が話始めた。


「ガストよ、どうして負け続きのお前が、四天王の座についていると思う?」

「……わかりません」


 俺は正直に答えた。


「それは、私がお前に期待をしているからに他ならない。お前は他の四天王にはないものをもっているからだ」

「……他の四天王にはないもの?」

「そうだ、その力があるが故にお前は四天王なのだ」

「俺にしか、ないもの……」


 俺にしかないものってなんだろう。

 アンデッドを扱う能力かな?

 確かにアンデッドを扱う能力は高いけど、その程度で四天王になったりするのか?


「三度も勇者に殺されてまだ気づかぬか、不死のガストよ」


 そういえばもう三回も殺されてるのかー。

 俺よく死なないなー。

 死なないなー……あれ?


「どうやら気付いたようだな。そうだ、お前にしかない能力。それはお前が不死だということだ」

「そ、そうだったんですか!?」


 俺の肩書の不死って、アンデッドを扱う上で、かっこいいから付けられてたわけじゃないのか!


「その力を使いこなし、我等魔族を栄光の道へと導くのだぞ」

「は、はい!」


 アズガント様はそう言い残して転送魔法で会議室から去っていった。

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