新年祝賀行事の裏側1

あれ以来、残念王子がどこか可笑しいです。

父さん、どうしようか?


「セレさん、新年祝賀行事の準備はどうになっていますか? 」

端末から顔をあげてリカ王子が聞いた。

「エアリ先輩に聞いてください」

私は祝賀行事のリストを見ながら答えた。


新人、したっぱが全体図がわかるわけないよ。


「順調ですよ、セレ、ちゃんと盛装ドレス準備しておけよ」

エアリ先輩がそういいながら端末操作をしている。

盛装ドレス? 必要なんでしょうか? 」

私は書類を凝視した。


エアリ先輩はどうもリカ王子を推しすぎる。

なんでなんだろう?


ふと視線を感じて辺りを見ると他の先輩たちが息を殺して見守っているのが見えた。


そんなことしてる間があるなら仕事しろよと私はにらんだ


キャーとかいわないでくださいよ。


この間発売の週刊誌にリカ王子の婚約者ってでて、父さんからどう言うことだって問い合わせがあったから力一杯否定しておいたよ。


普段は週刊誌なんか読まないのに隣のおばちゃんにこれどういうことって聞かれて困って電話したのがありありわかった。


「あなたは私の婚約者ですから特等席とってあります」

「婚約した覚えはありません」

私は書類を持って立ち上がった。

「ベニイロ様のところにいくなら、ララビタンZを頼む」

エアリ先輩がもう一組書類を手渡した。

「じゃあ、洗浄符も1ダースよろしくね」

マーシェ先輩が手を上げた。


ご婚約者らしく仲がよろしいことですね

そんなひねくれたことを思いながらも返事をしてリカ王子を見た。

「帰りに売店に回ります、リカ王子はなにかほしいものがありますか? 」

どうせパンツとか靴下だろうと思いながら聞いた。

「セレさんの愛が欲しいです」

残念王子が甘い声を出した。

思わず転びそうになった。

「行ってきます」

私は無視して書類を持ってあるきだした。

まったく、困った残念王子だよ。


私の愛? 愛……うなものうりだしてないよ。


本当に困った残念王子だよ。

今度話し合わないとな。

全然わかりあって……あの人のパンツからランシャツ、好みまで知り尽くしてるわ。


記憶から抹消したら仕事にならないしな?


冬支度の中庭はどこか寂しい。

雪つりされた木々の向こうに小鳥が飛んでるのが見えた。


よっぽどぼーとしてたらしい。

「大丈夫か? 」

なにか……誰かにぶつかった。

「す、すみません」

顔をあげると見上げるほどの大きな男性にささえられてた。

深い緑の目と短い髪が印象的な精悍な顔が心配そうに私を見てるのがわかった。

「気分でも悪いのか? 」

「いえ、失礼いたしました」

丁寧に礼をして頭を上げるとそれは良かったと微笑まれた。


なんかかっこいい。


すごく身長が高い二メートルくらい……


「二メートルはあるな、ルーアミーア人は洞窟巨人の血を引いてると言われてるから」

「そうなんですか……私、声に出してましたか? 」

私が慌てて見上げると可愛い声が聞こえたぞと男性はニヤリとした。


うーん、リカ王子と大違いだよ、かっこいいしどこか男の色気があるよね。

私はどっちかというとこっちの方が好み……まあ、別に求愛されてないけどさ。


ルーアミーア王国の人なのか……


ルーアミーア王国は地下空間にある王国で地上の各地に出入り口がある。

光ごけで昼と夜はきちんとあって案外明るいらしい。


深緑の髪と目か…なんか思い出したような……


「では、気を付けてな」

男性は手を振って廊下の向こうへ消えていった。


ボーッとしてないで仕事だよね。

私も廊下を歩き出した。



「うん、全部終わった、売店も行ったし」

帰ったらまだ変なのかな? リカ王子。

廊下を歩きながら外を見る。


冬の庭は木に葉っぱがなくて少し寒々しい。

先程と違い電飾を新年祝賀行事のために飾ってる職人さんが見えた。


やっぱり王宮の裏側は少し地味かな?


「ただいま帰りました」

私は荷物を持って部屋にはいった。

「おかえりなさい」

リカ王子が麗しい笑みで迎えた。

応接セットのソファーで来客対応中らしい。

「あれ? 」

ソファーに座っていたのは深緑の目のあの男性だった。

「ここの政治官だったのか? 」

男性が手を上げた。

その節はどうもありがとうございますと頭を下げた。

「セレさんとお知り合いですか? イルディス? 」

リカ王子が怪訝そうだ。

「廊下でぶつかりそうなったから抱き止めた」

イルディスさんが綺麗な動作でルリ茶を飲んだ。

「抱き止めた?私だってしたことがないのに」

リカ王子が少しイルディスさんをにらんだ。

「不可抗力だが役得だな」

イルディスさんが笑った。


ずいぶん親しいらしい。


「セレ、書類とララビタンをよこせ」

エアリ先輩が端末から視線を外さず手を出した。

「はい、あの方は? 」 

私は書類とララビタンをわたしながらこそこそ聞いた。

「リカ王子の従兄弟でルーアミーア王国の王太子のイルディス・クラディ・ルーアミーア殿下だ」

エアリ先輩がめんどくさそうだ。


ルーアミーア王国の王太子殿下?

間違いなく高嶺の花なんですが?

儚いドキドキよさようなら。


あれ?リカ王子も一応王族だし、高嶺の花だよね?


あの人は残念王子すぎてそれすら忘れさせるのか?


「リカ、婚約したそうだな」

「ええ、そこのセレスト・ファリア政治官と婚約しました」

リカ王子がニコニコと私に手招きした。

「ご冗談を」

私は席に戻りながら答えた。

「…お前、妄想か?」

イルディス殿下が哀れむようにリカ王子を見た。

「セレさんは間違いなく私の婚約者です」

リカ王子がなんか暗い笑みを浮かべた。

「……ファリア政治官、もしこいつに脅されてるならちからになりますよ」

イルディス殿下が冗談めかした。

「ありがとうございます、お願いします」

本当に何とかしてもらいたいよ。

脅されてないけどさ。


やっぱりリカは腹黒だよなとイルティス殿下がお茶をすすった。


単なる残念王子ですよ。


「セレさん? もちろん冗談ですよね? 」

「本気です」

書類を机に置いて端末を開いた。


「お前、本当に婚約してるのか? 」

まさかリカの妄想か? とイルディス殿下が怪訝そうな顔をした。

「今度、親御さんに挨拶にいきます」

妄想じゃありませんよとリカ王子がクッキーに手を出した。


その水飴かけてクッキー食べるのはいただけないと思う。


本当にイルディス殿下何とかしてくれないかな?

別に残念王子が嫌いなわけじゃないけど。

愛してるわけでもないもん。

わーん父さん〜どうしよー。

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