残念王子の心は弾む1

困った顔で私を見上げる愛らしい新人政治官に内心ニヤニヤがとまりません。


してやったりと思ってるなんてセレさんには言えません。


私は一応クミ・ルリーナ王の子孫らしいです。

自分がこんなに執着するとは思いませんでした。


クミ・ルリーナ王というのは中興の祖と言われる伝説の国王陛下なのですが、白金様の姪様に王子時代に誘拐から助けられたりムーラアの二代目皇帝の娘メイ姫を追い詰めて結婚したとか怪しい伝説満載の方なんです。


ヤンデレまで行かないけど王妃様に執着してたとか敵を容赦なく舌戦で陥れたとか色々言われてます。


私はそこまでではないと思います、たぶん。


「さて、どこにいきますか? 」

可愛いその青い瞳を眺めながらどうに通れば見せびらかせるだろうと王都の地図を頭に思い浮かべた。

「じゃ、日用品の安いところ教えてください」

いつも通りどこか疎ましげにセレさんが言いました。


宝石店とかで婚約指輪とか注文したいのですが。

日常品ですか? 薬局でもいきますか? 万屋?


今日も王都は賑やかです。

シンボルの星見の塔も湖のほとりに見えますね。

観光スポットは選択しないんですね?

さすがです、セレさん。


セレさんは今年、私の執務室に入った新人政治官です。


今年夏夜会の年だったので『新人』さんと呼ぶことが習わしです。

忙しすぎて脱落者が多いので名前は覚えてるけど呼んで情は覚えたくないんです。


夏夜会はムーラア帝国と地下の国ルーアミーア王国とブルー・ルリーナ王国の三国の友好のために毎年持ち回りで開かれてちょうどセレさんが入った年がうちの国担当だったんです。


新人政治官が脱落しまくるオーバーワークです。


『新人さんパンツ買ってきてください』

忙しさのあまり私は思わず頼んでしまいました。

いつもは例え『新人』さんでもパンツの購入なんて頼みません。

でもタマイロが婚約してお兄様にパンツなんかもう買わない宣言されたので切羽詰まってたんです。

『はい、サイズはいくつですか? 』

若い女性のはずのセレさんはあっさり了承して買ってきてくれました。


なんかいいと思ったんですよ。

とくに恥ずかしがることなく淡々とというのが。

だからついついたのみ続けたんです。


ルリ柄のパンツ貯まりまくりましたけどね。


仕事もなんとかついてきて体力あるしいいなと思いました。


王族の花嫁は体力勝負ですからね。


夏夜会でエスコートをして出たとき心が浮き立ちました。


なんてなんてなんて可愛いんだろうと嬉しくて嬉しくて……顔を崩さないようにするのが大変でした。


何故かの御令嬢とか御令息にセレさんが絡まれて慌ててとめました。


御令嬢女性はともかく御令息男性と付き合うつもりはありません。


今はセレさんしか興味ありませんけどね。

大昔なら政略結婚とかもあったでしょうが……今はほとんど恋愛結婚とかお見合い結婚です。


妹にお兄様は気が利かないからダメなのよと言われました。


こう見えて王都の抜け道裏道マスターなんですけどね……そういうことではないんでしょうが……


その内にセレさんがエアリ政治官を意識してるのに気がついたんです。


確かにエアリさんはさっぱりして男らしくて優秀ですけどね。


ちょっと心がモヤモヤしました。


そしてエアリさんはマーシェさんの事を憎からず想ってるのは知ってたので後押ししたんですよ。


新しい洗浄符の試供品をエアリさんにあげたり映画のペア割引券チケットをあげたり。


私の執務室の政治官たちにエアリさんに気があるんじゃないかと誤解されましたが思惑通りあの二人は婚約してなんとか誤解が解けました。


セレさんは気がついてなかったですけどね。


まあ、この時点では明確に好きと言う感情はなかったんですよね。


星見の塔で最後まで頑張るセレさんを背負った帰り道、なんかこういう関係いいなって思ったんです。


明確に好き、誰にも渡したくないと思ったのはこの間歓迎会でです。


きれいさっぱりピアリ・ラズレイダとのプロポーズしてふられた件は忘れました。


だってセレさんのほうが可愛いですから。

私が押すと赤くなって恥ずかしそうにして……もう可愛さ爆発です。


「マンテン屋にでも行きますか? 」

最近できた異世界万屋コーポレーションプロディースの安売り日常雑貨及び処方薬局でしたよね、万屋チェーン店の。

「マンテン屋ってあの有名なマンテン屋ですか? 」

私の服をつかんでセレさんが目をキラキラさせた。


田舎にないんですよ〜と嬉しそうだ。


万屋チェーンマンテン屋なんですけどそんなにテンションあがるんですか?


「わあ!行きたかったんです!さすが王都ですね」

セレさんがニコニコと歩調を早めた。

「そうですか」

さりげなく手をつなぐとセレさんが見上げた。


見上げるその顔が可愛いくてキスしたくなりました。


「迷子になると困りますから」

微笑むと困った顔をされました。

「……たしかにそうですけど」

リカ王子は裏道抜け道を徘徊してるからなとセレさんがつぶやいてるの聞こえました。


なにげにひどいです。


いつか……セレさんにあなたは私のものに決まってるんですといってみたいです。

そうしたら……全力でいやがられそうだからまだ、言いませんけど。


情熱にかける?

なんとでもいってください。

きちんと囲いこんで外堀を埋めてからにしますよ。


セレさんは残念王子っていいますけど。

一応、王族通信では結婚したい独身王子の上位にはいる常連なんですよ。


まあ、べつにいいです。

あなた以外見るつもりも見せるつもりもありません。


「マンテン屋だ、ティッシュ買おうかな」

セレさんが嬉しそうにティッシュを陳列棚から取ろうとしてたので手を握ったまま二つとりました。

「リカ王子も買うんですか? 」

セレさんが可愛く見上げました。

「私も買いますが、持ちますよ」

私が言うとさすが残念王子ってセレさんが呟きました。


ええ、残念王子で結構です。

でも、逃がす気はありません。

覚悟しておいてください。

『あなたは私のもの』ですから。

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