第一章その11.狐の援軍

 そんな中、突然何かが近づいている気がした。神羽屋や音哉、雅人叔父さんも気配に気づいているようだ。徐々に気配が強くなっている。雅人叔父さんが式神を取り出した。目には見えないが、こっちに近づいている事が分かる。雅人叔父さんが地面に式神を貼ろうとした時だった。

「市村君のお兄さん、やめて!」

 いきなり神羽屋が大声で叫んだ。自分と音哉も驚いたが雅人叔父さんは驚きの余り式神を貼らずに地面へ尻餅しりもちをついた。直ぐに神羽屋は謝り、自分達に説明する。

「突然叫んで、ごめんなさい。でも今、近づいている"人達"は敵じゃないの」

 神羽屋の唐突とうとつな説明に意味が分からなかった。

「神羽屋、それは一体どういう事なんだ?」

「それは…」

「そういう事か」

 尻餅をついていた雅人叔父さんが納得した様に呟いた後、式神を自分の木箱に直しスーツのズボンを払いながら立ち上がった。そして雅人叔父さんは神羽屋に尋ねる。

「つまり神羽屋君が敵じゃないと言っている人達は、"狐のお面衆めんしゅう"の人達だね?」

「そうです」

「狐のお面衆?」

 音哉が不思議そうに呟いた。自分は狐のお面衆の人達のことを知っているため、雅人叔父さんと神羽屋の会話に納得したが音哉は何も知らない。音哉には悪いが、少し嘘をつかなければならない。それが音哉の為になり、神羽屋の為にもなる。

「執事さんみたいな人達だよ。ほら神羽屋って、お嬢様だから」

「そうなんだ‥」

「そうそう」

 音哉には何とか分かってもらえた。でも自分が言っている事はあながち嘘ではない。狐のお面衆の人達は神羽屋の側近集団だからだ。総勢百人いるお面衆の人達は各班二十にんごとに分かれて、神無木市の色々な情報の収集や調査などをする。元々は、お面衆の人達も狐だった。いつも狐のお面を被って浴衣を着ている為、神羽屋家と繋がりのある人からは狐のお面衆と呼ばれている。因みにお面衆の人達は神羽屋のことをお嬢様と呼んでいる。

 すると突然、お面衆の人達が瞬間移動のように現れた。

「お嬢様、ご無事ですか?」

 中央にいるお面衆のおさである稲荷いなりさんが神羽屋に声を掛けた。

「私は大丈夫です。他の場所での異常はないですか?」

「異常ありません。ですが、お嬢様や純太さんをお守りすることが出来ませんでした。申し訳ありません」

「構わないです。でも、これからが大変になるかもしれません。皆さん落ち着いて聞いて下さい…」

 これまでの出来事を神羽屋が説明する中、お面衆の人達は神羽屋の話にざわついた。神羽屋は話し終えると、お面衆の人達に指示を出した。

「イ・ロ・ハ・二班は神無木市周辺の情報収集や調査、ホ班は負傷した猫達の保護と治療ちりょうを御願いします」

「了解しました。各班散会さんかい!」

『はっ!』

 稲荷さんは代表して神羽屋の指示に答えた後、解散を各班に伝えた。お面衆の人達は掛け声と共に再び瞬間移動のように散らばった。

「では、お嬢様。私も行って参ります! 」

「くれぐれも無理をせず、注意するように」

「分かりました。失礼します」

 稲荷さんは神羽屋に伝えた後、ほかのお面衆の人達を追うように移動した。

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