第一章その10.狼の正体

「それで音哉君が、"用事が済んだので、出来ることがあれば何か手伝いますよ"と率先そっせんしてくれてね。そしたら遠くの方で噴煙が上がってるのが見えたから様子を観に行くと、驚いた事に噂の狼がいてね。三匹の内の一匹狼が自分達の方に振り向いてきたから危険を感じて、直ぐに自分と音哉君とで式神を発動したけど寸前のところで逃げられてしまって。でも振り向いてきた一匹の狼が怪我けがをして少し血を流していたから地面に落ちた血を辿たどって、ここに着いたということさ」

「それで、さっきの狼達は何処どこに…」

 自分の言葉に雅人叔父さんは、ある方向へ指を差して答えた。

「あれが狼の正体だよ」

 唖然あぜんとした…。叔父さんが指を差した場所には、"ある生き物"が倒れていた。それは、"三匹の猫"だった。叔父さんが説明を続ける。

「狼達が逃げた後、道路のはしに一匹の猫が気を失って倒れていてね。最初は猫が狼達に襲われたのかと思っていたけれど、猫の体に"あるもの"が焼きついていてね」

「禁止されているはずの"変化へんげ"と"あやつりの使役しえき"ですか?」

 立ち上がった神羽屋は、そう冷静にたずねた。

「そう、神羽屋君の言う通りだよ。知っての通り、変化と操りの使役は生物や物質を違うにして式神で操ることだ。そして式神法で禁止されている。使役した者は式神剥奪はくだつまのがれない。下手すると、死刑にも成りかねない」

「でも何故、犯人はそこまでして…」

「理由は分からないが、これから大変なことになりそうだ」

『もしかして!』

 雅人叔父さんの言葉の意味に気づき、自分と神羽屋は驚いた。

「そう。最近この街から猫達が消えていた訳は何者かに式神で姿を変えられ、操られたからだ。つまり、街から消えた全ての猫達が狼にされている可能性もある」

 神妙な面持ちで、雅人叔父さんは話しえた。

「そうなると、自分達の手にはえない…」

 話を聞いていた音哉も、神妙な表情をしながら呟いた。

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