フルゴラ

 ここはドラゴン使いのオズボーン家の敷地にある竜舎の中。地平線から朝日が昇り始め、竜舎の窓を通して薄暗い空間に光が差し込む。

 竜舎には複数のドラゴンが仕切りを隔てて眠っていて、一番手前には一匹のホワイトドラゴンが眠っている。その傍らに金髪の少年がたたずむ。


「フルゴラ、起きて。」

 同じ竜舎で眠る他のドラゴンを起こさないように気遣い、金髪の少年リックは小声でドラゴンに声をかけた。


 ちなみにフルゴラとはこの世界で信じられている雷の女神の名前だ。このメスのドラゴンの持つ雷属性の魔力にちなんで、リックの両親が名づけた。

 オズボーン家では数頭のドラゴンが飼われているが、リックはこのフルゴラの飼育を両親から任されている。リックはフルゴラの卵がかえった時からこのドラゴンの世話をしていて、彼らは強い信頼関係で結ばれている。


「フーティ。」

 先ほどよりも少しだけ大きな声で、今度は愛称で呼びかけると、フルゴラは片目を薄く開けて反応する。

 リックがフルゴラの頭をやさしくなでると、ドラゴンは鼻先をリックの頬に擦り付けてくる。

「おはよう、フーティ。今日は休日なのに朝早くから起こしてごめん。」

 そういいながら、リックはドラゴン用の餌を入れた容器をフルゴラの前に置く。

 フルゴラはゴロゴロと機嫌の良い猫がのどを鳴らすような音を立てると、リックが用意した餌を嬉しそうに食べる。

「じゃあ、そろそろ行くよ。」

 餌の容器を片付けた後、リックは餌を食べ終えて満足そうなフルゴラに声をかけた。

 飼い主に誘導され、ドラゴンは歩いて竜舎から外へ出て、リックが背に乗れるように姿勢を低くする。

「フーティ、行こう!」

 ドラゴンの背に乗ったリックが合図を送ると、フルゴラは力強く羽ばたきながら地面をけって飛び立った。リックの家の近くの湖面をかすめるように飛び、すぐに対岸の森が迫ってくる。

「フーティ!上昇!」

 リックが合図を送ると、フルゴラは上空に向かって首を曲げて羽ばたきを強めた。上昇気流をうまくとらえて上昇を続け、彼らの住む街の上空に達した。そして街はずれの丘陵地帯に向かって水平飛行に移る。

 …

 リックとフルゴラはクリスが指定した待ち合わせ場所、郊外の見晴らしの良い丘の頂上に着地する。クリスは先に到着していたようで、頂上付近の大きな木の隣に明るい表情で立っている。銀色のショートヘアが朝日に反射して輝いている。


「やぁ、おはよう!約束の時間通りだね。」リックたちが近づくと、クリスが元気に声をかけてきた。

「おはようございます!」リックも元気に答える。

 するとクリスは、「うむ、元気でよろしい!」とちょっとおどけて堅苦しい口調で答えてから、ニカッと明るい笑顔を浮かべた。


「へー。これがキミのドラゴンか。綺麗に手入れしているね!」

クリスは感心した表情で朝日に輝くフルゴラを見る。


「ありがとうございます。この子はフルゴラって言います。僕はフーティって呼んでます。」


「よろしく。フーティ。」

 そういいながらクリスがそっとフルゴラの頬をなでると、ドラゴンは小さく鳴いてクリスに応えた。


「準備はいいかな?じゃあ、行こうか!」

 クリスは少年とドラゴンに声をかけた。


 フルゴラはリックとクリスを背中に乗せ、地面をけって離陸すると、この領地で一番大きな鉱脈を持つ山に向かって飛び去って行った。

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